フライング タイガーの「仕事を楽しくする方法」がスゴすぎる!
「ヒュッゲ」という言葉を知っていますか?
もとはデンマークの言葉で、日本でもここ数年さまざまなところで聞かれるようになった言葉です。
「人と人の結びつきから生まれる、あたたかくて居心地のいい空間」を意味するもので、そこに「これをしなければいけない」「これを買わなければいけない」といったものはない、柔らかな言葉。情報やあらゆるモノの洪水の中で生きる私たちにとって、生きる上で重要な指針にしていきたい考えです。
そんな「ヒュッゲ」という考えやライフスタイルを提案し続けているのが、デンマーク発祥の会社、フライング タイガー コペンハーゲン(通称:フライングタイガー)。
フライングタイガーと聞くと、ついついポップでかわいい雑貨を連想してしまいますが、根っこにある考えは実はとても深いものがありました。
そしてそんな「ヒュッゲ」を提案する会社は、仕事も「ヒュッゲ」なのでしょうか?
通常「大変でつらいのが当たり前」とされている「仕事」ですが、少しでも楽しく居心地よく過ごせるヒントはあるのでしょうか?
フライング タイガー コペンハーゲンにて、マーケティング部部長を務める柘野英樹さんに、たっぷりとお話をうかがいました。
Q.仕事といえば「大変、つらい」などネガティブなのが当たり前と思われていますが、仕事でも「ヒュッゲ」なものを目指すことは可能なのでしょうか?
仕事でも「ヒュッゲ」なシーンはありますよ。たとえばコーヒーを飲みながら、楽しいおしゃべりをするような取材は、ヒュッゲな仕事だ、と思います。
ただ、どんなものであっても考えひとつで「居心地よく」することは可能だと思います。たとえばいわゆる「朝礼」。普通、なんとなく朝礼ってイヤなイメージがあるじゃないですか(笑)。じゃあどこどこ部門報告して、と、誰も笑顔もなくって「面倒だなぁ」と思いがちです。だから、フライングタイガーではその朝礼を「ヒュッゲモーニング」という時間にしました。
Q.「ヒュッゲモーニング」では、どんなことをするのでしょうか?
月に1回朝に集まって、毎回部門ごとに持ち回りで、今やっている仕事をみんなに共有する……という、どこにでもあるような朝礼のようなものです。ただ、そのときに幹事の部門が、そのときみんなに提供したいライトミールやドリンクを用意しています。
それも別に北欧っぽいものやおしゃれなものを用意しなければいけない、ということはなくて「僕の実家の静岡からこれこれが届いたんで、皆さんに食べてもらおうと思って持ってきました」というようなささいなものです。でも、そのほうが「今まで知らなかったけど静岡出身なんだね、一緒だよ」なんて会話が広がっていくんですよね。こういった朝礼や例の報告会のようなものがある会社は多いと思うんですけど、ちょっとした取り組み方や姿勢を変えるだけで、どんなものだってヒュッゲになり得るんです。
Q.ヒュッゲモーニングを始めてから何か変わりましたか?
うちはデンマーク発祥のブランドとはいっても、日本人が集まっている会社なので、どうしても横の部署が何をしているのかわからないような、縦割りの日本的な仕事のスタイルになってしまっていた時期がありました。ブランドとして「ヒュッゲ」を提案しているのに、会社の中がそうなってしまっているのは違うよね、というところから始まったんですが、やっぱり社内の雰囲気も変わりましたね。
正直、ヒュッゲモーニングを始める前、社内で従業員満足度アンケートをとった際には、なかなかポジティブなフィードバックが出てこなくて、これはよろしくないぞと。でも始めてからはやっぱり、みんながお互いの頑張ってることを伝えあって、理解しあえるようになりました。
だいたい雰囲気がよくないときって「なんでこんなこともわかんないんだよ、今忙しいんだよ」と思っていたり、お互いがお互いに向き合っていないときですよね。お互いのことを認めあっていなくて、尊敬していなくて、理解しあおうともしていない。気持ちがあさっての方向を向きながら、ただ今日この場をやり過ごして、目の前の仕事を処理するためだけにその場を取り繕うような……。そういう会社って世の中にはあると思うんです。
でも、「ヒュッゲモーニング」をするようになって、みんなで「こんないいことがありました」「すごいじゃないか!」って褒めたたえて、「頑張ったみんなにこんなに美味しいものあげちゃうぞー」というテンションで(笑)美味しいライトミールとコーヒーで朝礼の時間を過ごしたら、アウトプットしてもらうものは同じでも、その時間の幸せ度は全然違ってきますし、お互いのことをもっと理解しあえるようになって、そこから空気が変わりました。
Q.他に仕事をヒュッゲにするために何かやっていることはありますか?
僕らの会社ではプロジェクトチームスタイルをよくやっています。たとえば僕のいるマーケティング部で「こんなイベントをやろう」と企画を考えるときに「じゃあ担当者で考えて、エージェンシーさんに企画を出してもらって、じゃあこれに決まったからこれを誰がやってね」という進め方が多いと思いますが、私たちは基本的にそうしません。他の部署から自薦他薦でメンバーを集めてプロジェクトチームを作って、みんなで考えながら企画をまとめていきます。商品を買いつけているバイヤーチーム、最終的にお客さまに届ける店舗を管理している運営チームや人事チームなど、さまざまな人が参加します。多くの視点が入ることによって、スムーズにいいものができあがっていると思います。
他の会社から転職してくるとやっぱり違和感というか、カルチャーショックのようなものがある人も多いと思います(笑)。でもだんだん面白いと思えるし、慣れていきますよ。
あとはニックネームで呼ぶこともそうかもしれませんね。僕は普通に「柘野さん」なんですけど(笑)、下の名前で呼ばれている人や、名前由来のニックネームの人、「happy」や「super」なんて、名前とはまったく関係ないニックネームの人もいます(笑)。仕事の同僚というよりは、学校の同級生のようですよね。
普通の会社よりもいわゆる「コミュニティ」的なものは多いと思います。ランニングが好きな人同士で、お互いの走った距離が分かるアプリを使って「今朝頑張って走ってたじゃん」なんて言い合うコミュニティを作ったり、手芸好きなメンバーが集まってお昼休みの時間を使ったりしてみんなで編み物したり、教えあったり。気心知れたコミュニティがあることはかなり「ヒュッゲ」の大事な要素ですが、まさにそれは体現していますね。
Q.そんな「ヒュッゲ」なお仕事スタイルのフライングタイガーですが、商品企画・開発をする上で実はこんなことを心がけている……などの裏側はありますか?
フライングタイガーの商品は、たとえばでっかい鉛筆など、「モノとして面白いものが多い」という印象を抱いてもらうことが多いんですが、それはもちろんとして、ラインナップの中に「コミュニケーションが生まれてくるような商品」が必ず含まれるようにしています。僕たちのブランドがそういう、誰かと過ごすあたたかい時間や繋がり、結びつきのようなものを生み出したい……という思いがあるからです。それがまさにここまでお話してきた「ヒュッゲ」ですよね。
あとは、商品企画を担当する人たちは「この商品を使って過ごしている時間」や「それによって生み出されるシーン」をイメージして作っています。たとえばチョコレートを作るときに「ひとりで食べるんじゃなくて、みんなで分けて食べる」というシーンを想像して作ったことによって、パッケージに「SHARE!」と大きく書いたことがありました。
他にも「サッカーボール」を作るにしても、単に「ボールを作ろう」ということではなく「公園で親子がボールを蹴りあって、子どもがパパ上手いね、って笑顔でニコニコしながらサッカーをする」という姿を想像しながら商品づくりをします。そういうシーンを考えると、色づかいやイラストも変わってきて、一般的なサッカーボールとは違う発想の商品が生まれてくるんです。
Q.これはフライングタイガーを象徴している、と思う商品はありますか?
「ジャイアント鉛筆」という、あほみたいにでっかい鉛筆があるんですよ(笑)。長さ35cm、太さ3cm。鉛筆ではあるものの、全然実用的じゃない。でも学校にそんなでっかい鉛筆を持ってきている人がいたら「何それ!?」って話題のフックになりますよね。そういう風に学校などでコミュニケーションが生まれるギミックを持った商品が数多くあります。
そしてそのジャイアント鉛筆には、会社の歴史にまつわるエピソードがあるんですよ。
Q.どのようなエピソードがあるのでしょうか?
もともと、フライング タイガー コペンハーゲンがデンマークから日本に入ってきたときには、デンマーク本社の100%子会社として始まりました。そこから今のZebra Japanという、サザビーリーグとデンマークの子会社が50%ずつ出資している合弁事業になる、重要なタイミングで登場してくるんです。
デンマークの本社が大阪のアメリカ村に最初のストアを作った際に、日本でのビジネスパートナーを探すため、多くの企業に声をかけました。当時、サザビーリーグの新規事業責任者で、Zebra Japanの前代表取締役だった山本も、オープン時のレセプションに呼ばれたひとりです。
山本がストアに入った瞬間に「ここは日本じゃない」「明るい」「カラフル」「招待客がみんな笑顔」「あちこちに笑いの仕掛けがある」「幸せの連鎖の起点になれる」「日本を元気にできるブランドだ」「日本中に広めたい」「ぜひジョイントしたい」という想いやインスピレーションが駆け巡ったそうなんです。アメリカ村ストアのオープンは2012年の7月。当時は東日本大震災の後で日本がまだ暗いムードにあった頃で「日本を元気にできるブランド」を探していた頃とちょうど重なりました。
是非サザビーリーグで一緒にやりたい……とは思ったものの、もし万が一創業者のレナート・ライボシツが固いビジネスマンだったら、こっちからお断りだと思ったのが山本の本音。
どうしたらレナートの人柄を知りえて、同時にサザビーリーグのカルチャーを伝えられるか……そこで、山本はある作戦を用意しました。
Q.……それは、どのような作戦なのでしょうか?
それが「最初の商談のタイミングで、ジャイアント鉛筆を出してみよう」ということだったんです。
契約に向けて重要な商談の初回に向けてジャイアント鉛筆を店内で購入してから商談までの時間、山本はわくわくが止まらなかったそうなんです(笑)。
そしていざ、商談の冒頭でジャイアント鉛筆を登場させたら……レナートは爆笑してくれたんですって!
普通の会社だったら「何してるの?」となるところですが(笑)、その後「同じ価値観を持っているパートナーだな」「日本でこのブランドを任せても安心だ」と、とんとん拍子に話が進み、見事に契約という流れになりました。ジャイアント鉛筆は、たった300円の商品ではありますが、Zebra Japan、つまり日本のフライング タイガー コペンハーゲンにとって、大きな意味のある、まさに「大きな鉛筆」なんです。
Q.すごい! そして、そう、フライングタイガーの商品ってどれもものすごくリーズナブルなのですが、それは何か理由があるのでしょうか?
そんな「たった何百円の世界」で、そういったコミュニケーションを成し遂げられる商品があることがフライングタイガーの魅力だからです。
もしジャイアント鉛筆がどれだけいい商品だったとしても、それが1本1万円だとしたら買える人はかなり限られてしまう。でも、数百円なら多くの人がそれを手にすることができる。そういう風に、僕らのお店を多くの人に使ってもらえることこそがハッピーなんです。フライングタイガーがお値段を高く設定しないのは、できるだけ多くの方にそういう機会を提供したいからです。
Q.価格を抑えるのには数多くの企業努力をしていると思いますが、たとえばどのようなことをしていますか?
全世界に1000店舗近くのストアを展開しているので、大量発注をすることにより安く抑えられる……ということもありますが、他にも実は「商品のパッケージ」や「店内のポスター」に出ている人は、基本的にはフライングタイガーの従業員や、従業員のご家族・お友達を使っているんです。そこでモデルさんを使った場合にかかるコストを使わずに、お客さまに還元する。それに、自分たちがモデルになったほうが、直接商品の魅力を自分たちの手で伝えられるというメリットがあります。そうやって「自分たちや身内をモデルに使おう」という発想自体が、コミュニケーションをすごく大切にしていることのあらわれなんじゃないか、と思います。
そういった意識が伝わっているのかもしれませんが、僕たちがブランド調査の一環でお客さまにアンケートを取ると、もちろん自分のものを買いに来ていると回答する方が90%以上なんですが、それに加えて70%以上の方が「ギフトを買いに来る」とも回答しています。それもオフィシャルなイベントごとで使うプレゼントではなく、たとえば「昨日はありがとうね」という言葉と一緒に、ちょっとしたギフトとして渡すものを買いに来た、という方が多いんですよね。それは本当に僕たちが願っているフライングタイガーの使い方で、お値段設定や商品の見せ方によって、そういう風に理解していただいている、というのは、ありがたいことだなと思っています。
Q.本日はたくさん「ヒュッゲ」にまつわる話を聞かせていただいてありがとうございます。最後に「ヒュッゲ」とは何か、もう一度お聞かせください。
結局「ヒュッゲ」は「何をする、何を買う、何が必要」じゃなくて、居心地がいい時間を過ごそうという「心持ち」の話です。もちろんフライングタイガーでは「こんなものがあると、より居心地のいい空間ができる」「ヒュッゲな時間のきっかけを作る」といった思いでさまざまな商品を提案していきますが、それがヒュッゲのすべてではありません。
みんなが思いやりを持って、人として正しいことをすること。それが「ヒュッゲ」の本質だと思います。
もともと、デンマークの長い冬を快適に過ごすべく出てきた概念とも言われる「ヒュッゲ」。
日本の場合は、夏でもここ数年は「外が暑すぎてなかなか外出できず、冷房の効いた家にいるしかない」という日も多いですよね。そんなとき、もしかすると「ヒュッゲ」であることを頭に入れておくと、より快適な時間が過ごせるかもしれません。
たとえば美味しいアイスカフェオレの作り方を真剣に研究して美味しいコーヒータイムを過ごしてみる、誰かと冷たいデザートを作ってみる、自家製フルーツを入れたサングリアを作って誰かと飲んでみる……もしかしたら、冬のデンマークでは「暖炉に揺れる炎」がヒュッゲのひとつの象徴であるように、夏の日本では「揺れる風鈴の音」を感じることもひとつの「ヒュッゲ」的な時間かも。
いずれにせよ、あなたにとって「なんだか居心地がいい」と思う時間が増えることは、きっと幸せに繋がっていくはず。こんな「ヒュッゲ」の考え、是非毎日の生活に取り入れてみてくださいね♪(後藤香織)
★前編はコチラ→ 世界一幸せな国で根付く、幸せを底上げするヒント。「ヒュッゲ」って何?
取材協力/フライング タイガー コペンハーゲン
フライング タイガー コペンハーゲンでは毎月ヒュッゲな時間を創出する様々な商品が数百アイテム登場します。
詳しくは下記URLからご確認ください。
https://blog.jp.flyingtiger.com/
商品以外にも体験イベントやコミニティ活動にも積極的です。
好きな趣味でつながるコミニティ『フライングタイガー部活』を展開しています。オンライン上での投稿企画やオフ会、ワークショップなどの活動など幅広い活動をしています。そしてファンの方々と一緒にするファン感謝祭2019も10月に開催予定です。
詳しくは下記URLからご確認ください。
https://fun.jp.flyingtiger.com/