今どき「がむしゃら」はカッコ悪い? 【キラキラOLのはずが飛び込み営業に】Vol.4

ドラマみたいなキラキラ職場に憧れて入社。…のはずが、配属は埼玉営業所での汗だく飛び込み営業!

でも、そこでヘコむ桜子ではない。憧れの自分に近づくための決死の逆転劇が、ここから始まった。女の人生ルポルタージュ2人目、いよいよ最終回!

 

南 桜子(仮名)31歳/IT企業 広報

1986年生まれ、東京都港区在住(ひとり暮らし)
職歴/音楽大学卒業後、IT企業に入社。約2年3か月間の営業職を経て、広報担当に。現在入社9年目。
似ているタレント/木村文乃
理想のタイプ/大沢たかお

Vol.4  今どき「がむしゃら」はカッコ悪い。31歳が選んだ「カッコいい」働き方とは?

 

トライアスロン完走!


飛び込み営業とトライアスロンは、桜子の体だけでなく、メンタルも強くしてくれた。「これでも私、小さいころはすごい泣き虫で、お母さんに甘えてばかりだったの」と人に話しても、信じてもらないのが、ちょっと悲しいけれど。

世の女の子たちの中には、彼と別れると、ずっと気持ちを引きずってしまったり、SNSストーカーみたいになってしまう子も、いるらしい。好きな気持ちが強いほどそれが普通なのかもしれないけど、「時間があるから」考えてしまうんじゃないか、と桜子は思う。

 

「今は、悩む時間があるなら、トレーニングの予定を入れます。トライアスロンのためのランは、仲間と集まって日曜の朝に。LINEグループでどこを走るか決めて、皇居か神宮外苑、代々木公園あたりに行きます。プールは、ジムや大きな体育館に行くことが多いかな。普通のジムだとせいぜい25メートルなのですが、50メートルプールがあるところを探して。プールは毎週火曜と、どこかもう1日あらかじめ予定を決めておいて、ほかの用事を入れないようにしてます。面白いもので、300〜400メートルまでは苦しくても、肺が慣れると、そこから先はいくらでも泳げちゃうような感覚になります。上手く力が抜けるようになるんです。

小さいころに水泳は習っていたけど、トライアスロンの大会は足のつかない海だから、また別の世界。だから、水泳をいちばん練習したかな。死ぬ確率がいちばん高いのは水泳だからって、トライアスロンの先輩たちが言うので。もし私が死んだら、まわりにも迷惑がかかりますから、それだけはできないなと」

そして大会前の週末は、大井埠頭まで行ってバイク(自転車)のトレーニング。それまでの休日は同世代の女の子と遊んだりご飯を食べたりしていたけれど、職業も世代も違うトレーニング仲間と過ごすのも、刺激的で心地よかった。

 

そうして迎えた初めてのトライアスロン大会は、無事に完走! 先にゴールしていた仲間によると、桜子は笑顔でゴールを切ったらしい。そのことは自分では覚えていないが、これまでに感じたことのない達成感と爽快感だったことは、はっきりと覚えている。

そしてすぐに、「トライアスロン完走」という経験を、仕事で初対面の人との会話のツカミにするようになった。特に目上の人には「根性すわってると思ってもらえる」「なめられない」ための持ちネタにもなる。

初めてのトライアスロンの後、2月の東京マラソンに出て、5月にホノルルでのトライアスロンに出場した。タイムは少しずつだけど縮まり、楽しさもどんどん増していって、次はどこの大会を狙おうか、考えるのが楽しい。

 

2017年夏、「彼氏いない期間」はそろそろ半年をすぎた。

これは桜子にしては最長記録だ。

 

 

“ゆとり”後輩との接し方


最近になって、桜子はトライアスロンのための平日のトレーニングを増やした。仕事を効率よく片づけて、遅くとも8時すぎには会社を出てジムやプールに向かう。以前のように合コンや女子会にも行くが、割合は合コンより女子会のほうが多めだ。

桜子が主催する女子会は、改めて見回してみると、みんな性格がよくて、仕事も一生懸命な上、おしゃれも上手。なのに、そういう子にかぎって彼氏がいない、というのが最近の傾向だ。これは、どうしたものか。そんなみんなのために、桜子はおいしいお店を選び、盛り上げ役となり、恋愛で悩む子には相談にのる。会社を辞めたいという子がいれば、もうちょっと続けてみればと励ます。これもまた、自分の大事な役割だ。

 

と同時に、仕事のこれからも考える。ひとつの会社で働くだけでなく、ふたつ、3つの仕事をかけもちしたり、世の中の流れや生活の変化と共に働き方が変わることも、当たり前になるだろう。

「私なら…。今の仕事は続けながらも、結婚したら、かつてやっていたピアノや歌をもう一度やって、子供に教えるのとか、できたらいいな。30代でトライアスロンに挑戦したから、31歳からは…。まだフワっとしてますけど。もちろん結婚はしたいです。まあ、何をするにしても、目標をつくってそこに向かってくらいつくことは、変わらないでしょうね」

かつて、桜子が大好きだったドラマ『働きマン』の最後に、こんなセリフがあった。

『がむしゃらに働くのは、カッコ悪い時代なのかもしれない。』

 

確かにそうかもしれない。がむしゃらやるのは、まあいいとしても、後輩たちに“カッコ悪い”とは思われたくない。それならば、と桜子は思う。

「がむしゃらを見せずに、見えないところで必死にやればいい。ムキムキの体をつくるんじゃなくて、インナーマッスルを鍛える。見た目はしなやかに、でもだれよりもたくさん努力して、だれよりもいい仕事をする。大変なことほど、笑顔で乗り越えてやる」

 

奇跡は起こらない。運のいい悪いもない。努力して積み重ねたことが、結果として出るだけ。その結果も、簡単には手に入らないものがいい。そうすると、次の壁にぶち当たったとき、つぶれずに乗り越えることができる。営業経験とトライアスロンと、お仕事ドラマから学んだ、桜子の結論だ。でも、これを後輩に押し付けたりはしない。その代わり、背中で見せる。それが、桜子の美学であり、理想のドラマのヒロイン像なのだ。(4回連載終わり)

 

※今回でこの連載は終了です。
10月6日より連載「ゆとり以上バリキャリ未満の女たち」第3弾をお送りします。

 

文/南 ゆかり
「CanCam」や「AneCan」、「Oggi」「cafeglobe」など、数々の女性誌やライフスタイル媒体、単行本などを手がけるエディター&ライター。20数年にわたり年間100人以上の女性と実際に会い、きめ細やかな取材を重ねてきた彼女が今注目しているのが、「ゆとり世代以上、ぎりぎりミレニアル世代の女性たち」。そんな彼女たちの生き方・価値観にフォーカスしたルポルタージュ。

 

【ゆとり以上バリキャリ未満の女たち】連載一覧

 

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