男性のほうが繊細でロマンチスト?映画「永い言い訳」にまつわる男の魅力【西川美和監督インタビュー・前編】

◼︎男女で異なる映画の受け止め方ができる映画

WI 本木雅弘さんは、西川さんがご一緒したかった俳優さんだということですが。

西川 主役を張れる二枚目でありつつ、作品によってはコメディもできるチャーミングさもある。いつか、そういう人が七転八倒するようなものができたらと思っていました。決め手になったのは、私がまだ主役を決めかねていたとき、脚本を読んだ是枝裕和監督が、「本木さんは、パーソナリティが幸夫に似ているよ」とおっしゃったことでした。私はそこに気づいていなかったのですが、そうなのであれば、この機会しかないと。

WI 後に本木さんは、「コンプレックスやゆがみに共感するところが多かった」「初めて身の丈に合った役柄が回ってきたと思った」と語っていました。

西川 それを余すことなく演じてくれたから、とても魅力的に仕上がったのだと思います。ただ不思議なことに、周囲に観た感想を聞くと、物語や主人公に対して男女で受け止め方が違うんです。いずれも自分自身に似たものを主人公に重ね合わせて見るようなのですが、女性はそれを「じぶんだけではないのだ」と風穴のように感じ、男性は「自分を見ているようで辛い」と。男性のほうが繊細というか、ロマンチストなんでしょうね(笑)。 本木さんは、見た後に「家族に対して言葉の掛け方が変わった」というようなことをおっしゃっていましたが、観てからどう変わるかは……、これも人それぞれかもしれません。ただ、これまで私は家族で観て欲しいとは言いにくい作品ばかりだったので、ようやく夫婦や家族で観ても微かな幸福感を感じて映画館を出られるテイストのものができました。奥さんが観て夫にすすめる、なんていうのもいいかもしれません。

次回は後編。1年にわたる撮影の日々と、原点回帰した作品の魅力についてさらにお伺いします。 (南ゆかり)

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西川美和(原作・脚本・監督)

1974年、広島県出身。早稲田大学第一文学部卒。在学中に是枝裕和監督作映画『ワンダフルライフ』(99)にスタッフとして参加。フリーランスの助監督として活動後、02年映画『蛇イチゴ』でオリジナル脚本・監督デビュー。06年長編第二作映画『ゆれる』を発表。09年『ディア・ドクター』を発表し、本作のための僻地医療の取材をもとに小説『きのうの神さま』を上梓。

11年小説『その日東京駅五時二十五分発』、12年映画『夢売るふたり』を発表。

15年小説『永い言い訳』を上梓し、初めて原作小説を映画製作に先行させた。16年10月14日より、最新映画『永い言い訳』が全国公開予定。連載中のエッセイに、「映画にまつわるxについて」(J-novel/実業之日本社)、「遠きにありて」(Sports Graphic Number/文藝春秋)がある。

★映画『永い言い訳』については公式HPをチェック!

 

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