押切 取材先をネットで調べて、メールして、アポ取って。「すみません、押切もえと申しまして、ふだんはモデル活動をしていまして、今小説新潮で連載をしているのですが、取材をお願いしたく……」ってやってましたね。
WI 先方は絶対びっくりしたとおもうんですけど(笑)。年末にお会いしたとき、取材を重ねるなかで、少し悩んだりもされてましたよね?
押切 ちょうど助産師さんを取材しているころですね。最後の8章を、最初は助産師さんの話にしようと思っていて。だから25歳くらいの助産師さん、7・8人くらいにお話しを聞いたのかな? そうすると、みんなの人生で、すっごい面白い話がいっぱいあったんです。書くための取材だったはずが、会えば会うほど感情が濃くなっていって……。「書ければいい」だったはずが、「もっと伝えたい」という欲がでてきた時期がありましたね。
WI 取材を重ねるうちに、書きたいものが増えた感じですか?
押切 たとえば28歳の助産師さんが、自分も結婚したいんだけど、ちょうど失恋をして。だけど毎日出産のたびに「おめでとう」って言わないといけないわけじゃないですか。自分でそのギャップに耐えられなくて、お産を終えた後、トイレ駆け込んで泣いた……っていう話を聞いたことがあって。そんなの、もうその人しか持っていない、切ないけどあったかい話じゃないですか。そういうことを、もっともっと書きたくなっちゃったんです。
WI そんな話をよく聞き出しましたね……!
押切 その方たちはインタビューを受けるのが初めてだったみたいなんですが、「目標とかありますか?」って聞いたら、「ないです……あー、そんなこと、考えたことなかったなー」っておっしゃっていたりしていて。そこからインタビューっていうより女子トークになるんですけど(笑)、「考えたことなかったけど、そういえば私、留学行きたかった気がする」みたいな話になって。
WI インタビュー中に、彼女に転機が訪れてますね。
押切 そうなんです。そういう出会いが本当に楽しくて。主人公を助産師さんを目ざす高校生にしようと思ったのは、そのときの自分の気持ちがありますね。