自己肯定感が低くて、自分が嫌い。自分を好きになる方法はありますか?【精神科医監修】

昨今よく聞く言葉「自己肯定感」。自己肯定感を上げる方法もよく見かけるし、自己肯定感が高い人はパッと見てキラキラして楽しそう。「それに比べて私は…」なんて、さらに悪循環に陥ってしまうのは、自己肯定感低めの方によくあることなのではないでしょうか?

「自己肯定感が低くて、自分が嫌い」というお悩みは、根深いもの。このお悩みを解決する方法について、「おおざっぱに笑って健康に生きる」をモットーに活躍する「ラフドクター」、精神科医・産業医の井上智介先生にうかがいました。

自分が嫌い。でも本当は、自分を好きになりたい。

Q.自己肯定感が低く、なかなか自分を好きになれません。外見も性格も、あれもこれもキライだなーと思うことばかりです。自分がキライなので「私なんかが好意を示したら相手は嫌だろうなー」と人にも素直になれません。強いて言えば「仕事がある程度できる自分は好き」なのですが、仕事がスランプになると、これも崩れて憂うつになります。自分を好きになる方法はありますか?

A.自己肯定感は周辺環境という運に大きく左右されるため、「自己肯定感が低い」ことで落ち込む必要はなし。ネガティブな気持ちになったら「まぁいっか」と受け流す練習をしましょう。

まず、勘違いされていることが多いですが、「自己肯定感が高いとハッピー」という話が出回っていますが、それは「理想」の話。「自己肯定感がずっと高い人」は、いないと言い切っていいくらいです。パッと見「自己肯定感が高い人」のように見えても、1日の中で上がったり下がったりします。そのため「自分は自己肯定感が低いから…」と落ち込む必要はありません。

とはいえ、ずっと「自分が嫌い」でいるのもつらいですよね。どうしたら自分を好きになれるのかと、仕事を頑張ったり、外見を整えたり、いろいろと頑張ってみると思いますが、実は「自己肯定感」と、能力値はまったく比例しません。
「とてつもなく仕事ができる人」や「外見がきれいな人」が自己肯定感が高いかというと、そうではない。周囲から見ると完璧に見えるのに、本人の中では「いや、自分は全然ダメで…」と思っているパターン、周囲でもありませんか?

では何が自己肯定感に大きく影響するのかというと、「周囲に、自分を認めてくれる人がいるかどうか」です。
そう、運です。

たとえば、「上位10%に入るくらい、かなり仕事ができる人」の周囲がみんな、たまたま「上位1%に入るくらい、超人的に仕事ができる人」ばかりだったらどうなるか。「あなたは仕事ができるから、自信を持って」と言われても、なかなか難しいはずです。
さらに深掘りしていくと、現在の環境だけでなく、子どもの頃、親にたくさん褒められていたのか、それとも「お前はダメだなぁ」と言われていたのかでも変わります。

そうやって、自己肯定感に最も影響する「周囲」が「運に左右される」かつ「自分の意志だけではなかなか変えられない」ことだからこそ、自分でできる範囲で、少しでも自分を認めてあげることが、非常に重要です。
難しい話に聞こえるかもしれませんが、普段のちょっとした口癖を変えてみるだけでも変わってきますよ。たとえば「うまくいかない」「ミスをしてしまった」「なんか落ち込む…」など、ネガティブな気持ちになってしまったら「まあいっか」と受け流す口癖を意識的に作るところから始めてみてください。

先ほども言った通り、能力値と自己肯定感は関係ないんです。失敗やミスをしても「自分なりにやることはやったし、まあこうなることもあるか。じゃあ次はこうしよう」くらいでとどめ、上手に受け流し、失敗についてネガティブに考えすぎないこと。この「受け流す」という考えが重要です。もちろん周囲がそれを言ってくれると嬉しいですが、それは運要素なので、確実に自分の意志でコントロールできる「自分」が自分に言ってあげること。スタートとして、そういうところから始めてみましょう。

そもそも、自己肯定感って何?

そもそもの話。「自己肯定感」とは「自分は能力が高いから、◯◯ができるから、イケてるよね」ではありません。「どんな自分でもまあいいじゃないか、だって、自分だもの」という思いです。つい、何かがうまくいかないと、どんどん考えが悪いほうに流れてしまい、「自分なんて…」と落ち込んでしまいます。特に、周囲にデキる人、優れた人が多いと、尚のことそう思いやすくなってしまいます。

自分が自分に求めるハードルは、周りの環境とリンクします。「みんながこんなにできているのに、どうして自分はできないんだろう」と、周囲との差に落ち込んでしまいがちですが、「自分なりにやってるんだから」と、落ち込みにストッパーをかけてあげるのが大事です。

最初にお伝えしたように、自己肯定感がずーっと高い人はそういません。高く保てないからダメだ、と思うことはありません。ただ、「めちゃくちゃ下がらない」ようにキープすることは必要です。
自己肯定感とは、日々の自分を、ありのまま、うまくいったことも、うまくいかなかったことも、受け入れてあげること。今日食べるものがあって、着る服があって、ふとんで眠れたら「それでよし!」と思えるようになれることが大事です。

お話をうかがったのは…

井上智介先生
精神科医&産業医
「おおざっぱに笑って健康に生きる」をモットーにした「ラフドクター」として活躍中。書籍多数。近著に『がんじがらめの心がラクになる「呪いの言葉」の処方箋』『この会社ムリと思いながら辞められないあなたへ』など。
構成/後藤香織 画像/(c)Shutterstock.com