比較グセは治る?治らない?「つい誰かと比べてしまう自分」との付き合い方【精神科医監修】

比べたところでどうにもならないのに、気づけばつい、自分と誰かを比べては落ち込んでしまう…ということ、ありますよね。
自分より同期のほうが大きな仕事をしている、あの子は私よりたくさん稼いでたくさん旅行に行って充実している、あの子のほうがかわいい…などなど、比較にはキリがありません。

この「あるある」なお悩みを解決する方法について、「おおざっぱに笑って健康に生きる」をモットーに活躍する「ラフドクター」、精神科医・産業医の井上智介先生にうかがいました。

「誰かと比べてしまうクセ」の対処法

Q.子どもの頃からずっと、「隣の●●ちゃんは成績優秀なのに、なんであんたは…」などと誰かと比べられて育ったせいなのか比較グセが抜けません。仕事でも、自分のできることは「できて当たり前、別に誰にでもできる」で、できないところばかり気になっては、できる誰かと比べて「私なんて…」と落ち込みます。どうしたら比較グセから抜けられますか? 

A.一度「比較する自分」を受け入れてみること。そして、比較するなら「過去の自分」と比べてみましょう。

まず、大前提をお伝えします。人間は比較してしまう生き物です。
「比べてもいいことないし、比べないほうがラクだ。もう比較はやめよう」という話はよく見かけますし、きっとあなたも頭ではそれがわかっているはずです。
それなのになかなかやめられないから、さらに苦しい思いをしてしまっていませんか?
比較する自分を受け入れられないまま「比較しない」を意識することで、おそらく「あぁ、また比較してしまっている」と、余計なストレスをためてしまってはいませんか?

そんなストレスを抱えているなら、「比較する自分」を受け入れてあげる道を選んでみませんか?

その上で、比較する対象を「他の誰か」ではなく、「昔の自分」にしてみるのはどうでしょうか?
きっと、社会人になって働き始めたときと比べたら、今のあなたはずっと成長しているはずです。今は当たり前のようにやれていることも、かつては当たり前ではなかった時期があります。その成長に気づいてみてください。どんなジャンルでも同じです。学校での勉強でも、趣味で続けていることでもなんでも、「それを始めたとき」と「今」を比べたら、間違いなくなんらかの成長があるはずです。

そのときに、もうひとつ受け入れてほしいことは「人によって、成長スピードは違うこと」です。自分が成長しているように、周囲も成長しています。そして、ジャンルによって成長スピードはバラバラで、それこそが個性です。Aさんはあるジャンルに特化してものすごいスピードで成長するけれど、実は他はなかなか伸び悩みがち。Bさんは、いろいろなジャンルで大器晩成型で、最初は辛いけれど最後に花開く。Cさんは平均的に成長して、平均で止まっているけれど、実はまだ本人も知らない隠れた才能が眠っている。

大丈夫です。人それぞれ、少しずつ着実に成長しています。

ある分野でできなくて悔しいなら「この分野はできる人に任せて、自分はもっと得意なことに集中しよう」と意識を変えたり、「自分もいつかこの力量に達したらやりたい」と願望に変えたり、考え方ひとつで、見える世界は変わっていきます。


最後に、このお悩みを持つ方におすすめしたいのは、日々「できたこと」をノートなどに書き留めておくことです。人は忘れてしまう生き物なので、「過去の自分がどれだけできなかったか」は、きっとはっきりとは覚えていないはずです。

それこそ、日常生活がなかなかままならないような、うつ病の治療の段階でも取り入れていることです。「朝に時間通り起きられた」「なんとかお風呂に入れた」「夕飯が作れた」など、今日できたことを、徹底的に見つめてもらって、「今日できたことを、1日3個探そう」とお伝えしています。

あなたが「できたこと」を書き留めるとき、もちろん「難題をクリアした」はぜひ書いて欲しいことです。後で読み返すと、過去の難題が、今の日常になっているパターンもあります。
けれど、毎回毎回そうである必要はなく、「ちゃんと挨拶ができた」とか、本当にどんな小さなことでも、当たり前に思えるようなことでも構いません。でも、これを書き留めておくことにより「できたことに目を向けられる」思考のクセができます。人間は放っておくと「できないこと」ばかり見るクセがあります。きっとあなたもそうなってしまってはいませんか?
少しずつでいいんです。「できたこと」に目を向けてあげて、それを書き留めて、ときに読み返して、成長を実感してみてください。

 

お話をうかがったのは…

井上智介先生
精神科医&産業医
「おおざっぱに笑って健康に生きる」をモットーにした「ラフドクター」として活躍中。書籍多数。近著に『がんじがらめの心がラクになる「呪いの言葉」の処方箋』『この会社ムリと思いながら辞められないあなたへ』など。
構成/後藤香織