毎月、当たり前のように迎える月経ですが、自分の出血の量が普通かどうかなんてわかりませんよね。人とくらべることができないし、簡単に量を測れるものでもないし…。だからこそ、定期的に月経が来ないことや、経血が異常である状態を放置してしまう人も少なくないのです。そして、妊娠したいと思った時、または、いざ妊娠した時に隠れていた病気に気づくという方も少なくないのです。
今回は、そんな経血過多に隠れている病気について、専門医 長尾梓先生にお話を伺いました。
長尾梓先生(医療法人財団荻窪病院血液凝固科)
熊本大学理学部大学院卒。熊本大学エイズ研究センターで研究に従事した後、信州大学医学部に編入、2009年医学部卒業後、荻窪病院へ。専門は血友病、フォン・ヴィレブランド病を始めとする血液凝固異常症、HIV感染症。
生理周期は気にしても「経血量」は気にしていない!?
女性の体に毎月訪れる生理(月経)。昨今、月経カップや吸水ショーツなど、 生理期間を快適にしてくれるフェムテック製品が話題となっています。生理期間を快適に過ごす方法も重要ですが、ご自身の生理そのものをチェックできていますか。生理は女性の健康のバロメーター。生理には体からのサインが隠れているのです。わかりやすいポイントは月経周期や経血量です。ところが、月経周期は気にしていても、経血量への意識が低い傾向が見られます。経血量が多いというサインの陰には、病気が潜んでいる可能性がある一方、見過ごされている実態があります。
経血量が異常に多い状態を「過多月経」といい、初経を迎える10代から閉経が近づく40代以降まで、あらゆる世代に見られる病気です。600万人程の患者がいる*1と言われますが、経血量の多さに慣れてしまい、異常を見逃している女性が多いと考えられています。
実際に、生理用品の使用前後の重量を測り、1周期分の月経量を計測した調査*2があります。この調査で、参加者133名中11名(8.3%)が過多月経(経血量が140g以上)と分類されました。しかし、このうち8名は自身の経血量を「普通」と認識していたのです。また、参加者の中で327.6gと最も経血量が多かった女性でさえも、自身の経血量を「普通」と認識していました。
*1島根大学医学部産科婦人科『マイクロ波による過多月経の治療法 http://www.shimane-u-obgyn.jp/patient/patient-other/133/140/143/139z
*2田渕康子; 吉留厚子; 伴信彦. 現代女性の月経血量および月経随伴症状に関する研究. 看護研究, 2014, 47.3: 248-255.
過多月経は無自覚な貧血に繋がり、QOLの低下や心不全を招く可能性も
過多月経が続き、心配される症状のひとつは鉄欠乏性貧血(以下、貧血)です。貧血が急激に進むと症状に現れますが、徐々に進行すると症状に出ず本人も自覚することが難しいのです。動悸や息切れなどの症状だけでなく、倦怠感、集中力の低下、活動量の減少にもつながり、QOL(生活の質)を下げていることがあります。また、心臓にも負担がかかるため、心不全を招く可能性もあるんです。
過多月経に潜む血液疾患とは?
過多月経にはさまざまな病気が潜んでいる可能性があります。過多月経というと、子宮筋腫や子宮内膜症など、婦人科系の病気を考えがちですが、婦人科系以外の病気の可能性も。
そのひとつが、血が止まりにくくなる「血液凝固異常症」です。血液凝固異常症と言われる病気はいくつかあり、女性の場合特有の症状として「過多月経」が現れます。実際に、過多月経がある女性の13%が、血が止まりにくい病気の中で最も女性患者が多い「フォン・ヴィレブランド病」*3だった 、という報告があります。産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編2020にも掲載されています。
■フォン・ヴィレブランド 病(VWD)… 止血のために重要な役割を果たすフォン・ヴィレブランド因子(VWF)の欠乏あるいは働きが弱いために、血が止まりにくい病気。鼻血や過多月経等健常者にも認められる症状が多いため、軽症の1型の診断に至ることが難しい。出産や手術の際に初めて診断されることもある。患者数は1438人(2020年)*4 。未診断患者は約1万人*5と推計されている。男女比は同程度で、女性の血液凝固異常症では最も患者が多い。出典:一般社団法人日本血栓止血学会「フォン・ヴィレブランド病」
■血友病…止血のために重要な役割を果たす血液凝固第VIII因子または第IX因子の欠乏あるいは異常で、血が止まりにくい病気。遺伝によるものが多い。患者数は6738人(2020年) で、そのほとんどがだが、遺伝子を受け継いだ保因者の中には出血が多い女性も少なくない。出典:一般社団法人日本血栓止血学会「血友病」
■白血病(急性白血病)…血液がんのひとつ。がん化した細胞(白血病細胞)が増殖することで、止血の役割を持つ血小板が減少し、出血が止まらなくなる症状が起こる。患者数は1万4,287人(2018年総数)。 出典:愛知県がんセンター病院「白血球」・国立がん研究センターがん情報サービス「がん統計」(全国がん登録者数)
■特発性血小板減少性紫斑病(ITP)…血小板の減少をもたらす他の病気や薬の服用がないにもかかわらず、血小板が減少して出血しやすくなる病気。血小板に対する自己抗体ができることで、血小板が破壊されると推定されている。20〜40代の女性に多い。患者総数は約2万人。出典:難病情報セ ンター「特発性血小板減少性紫斑病
*3 von Willebrand disease in women with menorrhagia:a systematic review Shankar M, et al: BJOG 2004; 111: 734―740
*4 厚生労働省委託事業 公益財団法人エイズ予防財団発行「令和 2 年度血液凝固異常症全国調査のまとめ」
*5 総務庁統計局人口推計(2021年8月1日現在)の総人口1億2530万人をもとに計算
自分では経血量の異常に気付きにくい
診察で多くの患者様と向き合うと、ご自身では経血量の異常に気づきにくい様子が伺えます。問診で経血量を尋ねても患者様の多くが「他の人と比べたことがないからわからない」と答えます。また、「若い頃から量が多いので普通だと思っていた」「母も多いので体質」という方もいて、経血量の異常が病気と結びつかない、病院に行けばコントロールができると思っていない意識もあるようです。
過多月経を見過ごすと深刻な心身の不調を招く怖れ
過多月経が続くと、貧血を起こす可能性があります。動悸や息切れなどの症状だけでなく、倦怠感、集中力低下、活動量の減少など招き、仕事や勉強に影響を及ぼしたり、QOL (生活の質)を下げていることも少なくありません。酷くなると心臓に負担がかかり、心不全を招くこともあります。過多月経を見過ごしてしまうと深刻な心身の不調を引き起こす可能性があるのです。しかし、徐々に症状が進む貧血は自覚症状が出にくく、異常に気づきにくいものです。本人が無自覚で通院し、検査をしたら貧血だった、という患者様もおられま す。問診では息切れや動悸などイメージされにくい貧血症状がある場合は、過多月経を疑っています。
過多月経には婦人科以外の病気が潜む可能性も
過多月経があると、婦人科ではまず子宮筋腫や子宮内膜ポ リープなどを疑い検査や治療をします。しかし、治療に効果が現れない患者様も一定数います。そのような場合は、血液疾患が潜む可能性も疑えるでしょう。フォン・ヴィレブランド病など、女性の患者様が多い血液疾患もあります。
生理を見直してみて!過多月経を疑うポイント
(1)生理で100円玉より大きい血の塊が出ることがある。
(2)生理で多い日にはナプキンを2~3時間に1回の頻度で取り換える必要がある。
(3)生理が7日以上続く。
(4)夜用・多い日用ナプキンを3日以上使っていたことがある。
ひとつでも当てはまれば、婦人科の受診をおすすめします。
月経は体やストレスのサイン。向き合って、おかしいと思ったら婦人科へ
診察で多くの患者様と向き合うと、ご自身では経血量の異常に気づきにくい様子が伺えます。他の人と比べることが無いですし、若い頃から量が多かったりお母さまも量が多く体質だと思われている方もいます。しかし、経血量が多い異常に気付かずにいると、貧血を起こして知らないうちにQOLの低下を招く可能性があります。また、子宮筋腫などの婦人科の疾患だけで なく、フォン・ヴィレブランド病などの血液疾患が潜む可能性もあります。
月経は体の状態を現すサインです。見逃さないように、まずは一度自身の生理と向き合ってみてください。経血量が多いかもしれない、と気づいたら、是非婦人科を受診してください。
月経には、自身の体やストレスの状態がサインのように現れるそう。まずは生理(月経)の状態を観察してみましょう。おかしいかもしれないと思ったら、婦人科を受診してみることが大切です。 適切な治療を受けることで経血量をコントロールしたり、自覚がない貧血症状などのプチ不調も改善できるはずです。(鬼石有紀)