「職人の世界」というと、どんな雰囲気を思い浮かべますか?
「先輩の背中を見て覚えなきゃいけない」「10年続けても一人前として認められない」……など、「なんとなく近寄りがたい」イメージがあるのではないでしょうか?
でもじつは今、そんな職人の常識が大きく変わりつつあります。
動画アプリで快適に仕事を学べる環境や、左官の世界にアートの要素を感じて飛び込む若い女性の台頭など、「職人」の世界は驚きの変化をとげているんです。
■令和の職人はちょっと違う!新鮮な GOOD ACTIONとは
毎年さまざまな働き方に焦点を当て、企業の取り組みを表彰している、リクナビNEXTの「GOOD ACTIONアワード」。これまでにも「行きたくない日は休んでOKな会社」や「社員同士でボーナスを贈り合う会社」など、ユニークな取り組みが表彰されてきました。
第6回となる今年は、表彰された8社の企業のうち2社が、奇しくも同じ「職人」にまつわる新鮮なチャレンジでした。
1社目は株式会社KMユナイテッド。特殊塗装工事を取り扱う会社で、京都に拠点を置いています。そして2社目は有限会社原田左官工業所。こちらは東京に拠点を置く、左官工事を営む会社です。
塗装業と、左官業。どちらも昔ながらの職人イメージが強い業界ですよね。
でもこちらの2社の取り組みには、「これが令和の職人か〜!」とワクワクしてしまうような共通点があったのです。
■共通点1 動画やアプリで、いつでもどこでも学べる環境
最初の共通点は、動画を駆使した新人教育です。
KMユナイテッドでは、『技ログ』という動画投稿アプリを独自開発。新人が、一流の職人の技をいつでもどこでも見て学べるe-ラーニングのようなシステムを確立しました。
原田左官工業所でも、やはり名人が壁を塗っている動画を活用しています。名人の動きを完全に真似する「モデリング訓練」というトレーニング手法を編み出し、「先輩の背中を見て覚える」という業界の常識に新しい風を吹き込みました。
どちらにも共通しているのは、動画やアプリといった若手にとって使いやすいツールを利用していること。そして、新人が「やりたい」と思ったときに好きなだけ繰り返して学べる環境を整えていることです。
動画を使った教育は、教える側にとっても負担を減らせます。新人は効率的に成長でき、ベテランは余裕を持ってそれを後押しできる。これはまさにwin-winと言えそうな進化ですよね。
■共通点2 明確なキャリアパス制度で、短期間で「一人前」に
2つ目の共通点は、未経験から3〜4年で一人前になれること。そのために、両社とも曖昧な見習い期間のステップを見直して、明確なキャリアパスを設けています。
キャリアパスとは、ある一定の状態に到達するまでに必要な経験や、習得すべきステップのこと。
塗装や左官といった職人の世界では、よく「10年続けてようやく一人前」と言われます。しかしこちらの2社では、習得すべき技能のステップ(キャリアパス)を明確に定め、動画やアプリを使った効率的な新人教育を行っているのです。
たとえば原田左官工業所では、あやふやだった見習い期間を「4年間」と定め、期間内に課題をやりきることで一人前をめざす風土を確立させました。
KMユナイテッドでは、まず塗装の作業を工程ごとに細かく分類。「パテ処理」「養生」など比較的簡単な作業からスタートし、徐々に難しい作業へと移行させることで、未経験から4年で中規模現場のリーダーになれる環境を作り上げたのです。
■共通点3 若手の女性職人が増えている
これらの試みを推進した結果、両社には3つ目の共通点が生まれました。それは、職人の仕事にアーティスティックな要素を感じた若手、それも女性が入社したことです。
原田左官工業所で働く福吉奈津子さんは、19歳で入社。会社史上初となる産休・育休からの復帰を経験した彼女は、現在やはり初の「女性親方」として活躍しています。
そんな福吉さんが担当している新人も、やはり女性。「最近はDIYブームで珪藻土などの素材が注目され、左官職人をめざす女性が増えている」と語ります。
また、KMユナイテッドで塗装職人をしている浦西明日香さんは、23歳のときに入社。「もともとアートの世界に興味があった」という浦西さんは、芸術性が求められる特殊塗装の世界で見事に才能を開花。現在は、彼女の名前をもとに名付けられた「skara」「skaraⅡ」というオリジナルの塗装デザインが、会社のパンフレットにも掲載されています。
職人と言えば男社会……なんて言われていた時代には想像もできなかったような変化が、続々と現れているんですね。
変わりつつある、令和の職人事情。こうした新しい取り組みは、今後ますます注目されそうです!
(豊島オリカ)
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