しんのすけ@今月のMOVIEコレミトコ!
TikTokの映画レビューでバズりまくりのアニキ・しんのすけさんがイチオシの映画をナビ☆
紹介してくれたのは…
1988年、京都府生まれ。映画感想TikTokクリエイター。映像作家、株式会社MEW Creators代表。映画レビュージャンルを開拓し人気を集める。
Q. 過去イチ泣いた映画作品はなんですか?
A. 傑作『真夏の方程式』です。最近では『ストロベリームーン 余命半年の恋』で大号泣しました。
今月の映画は『君の顔では泣けない』
STORY
高校1年生の陸とまなみは、プールに落ちたことがきっかけで心と体が入れ替わってしまう。元に戻ることを信じて、ふたりは秘密にしながら日常生活を送り、進学、初恋、就職、結婚、出産、そして親との別れと人生の転機を経験していく。入れ替わってから15年が過ぎた30歳の夏、まなみは元に戻る方法がわかったかもしれないと陸に告げるのだが――。芳根京子、髙橋海人が出演。
いったいどこまでが自分なのか、わからなくなるときあるよね
「男女が入れ替わる」なんて、映画ではおなじみの設定。だけど、『君の顔では泣けない』はちょっと違います。入れ替わってから元に戻れないまま〝15年〟が過ぎるのです。派手な事件も、魔法のような展開もない。ただ、生きていく。仕事をして、恋をして、誰かを失う。それぞれの人生の中で、「自分じゃない誰かの顔」で生きていきます。
自分の顔じゃないから、泣くことも笑うことも、どこかぎこちない。でもその違和感は、実は私たちにも少し覚えがあるはず。学校や会社、好きな人、誰かに合わせすぎて「自分が誰だったか」を見失ってしまう。この作品は、そんな「自分じゃなくなる瞬間」の痛みを静かに、そして丁寧にすくい取ってくれます。
この映画は会話劇が中心で、ひとつひとつの会話の中に、恋と人生のリアルが詰まっています。入れ替わったまま過ごす15年の中には、恋愛、結婚、セックス、出産、仕事、老い、誰にでも訪れるような「普通の出来事」が並んでいます。そして、入れ替わりという非現実を通して、恋愛を客観的に見つめ直すこともできます。恋をしているとき、人はいつも主観的です。でも、もし相手の身体で生きてみたら? 自分の声が、知らない誰かの声だったら? そんな相手の立場で「愛される」ことの難しさも、愛する側の孤独も、まるごと見えてしまう。この物語は、恋愛映画というより「男女の対話」の映画なのです。
物語のなかで印象的なのは、入れ替わったふたりが「いつか元に戻る」と信じて生きる人と、「もう戻れない」と受け入れて生きる人に分かれていくことです。まなみは、元の身体に戻る方法を探し続けます。一方の陸は、まなみの身体を受け入れながら生きる覚悟を持っています。それは諦めではなく、「与えられた人生をどう愛せるか」という、もうひとつの答えでもあります。元に戻るか、受け入れるか、どちらが正しいということではありません。ただ、その選択を迫られるふたりの姿を見ていると、私たちもまた、自分自身の「選び方」を問いかけられているように感じます。
今作は入れ替わりという不思議な設定を使いながら、実はとても現実的なテーマを描いています。それは、「自分のままで生きることの難しさ」と「他人の人生を理解することの尊さ」です。陸とまなみは、どんな顔で生きても、どんな身体で愛しても、「自分の中にある気持ち」だけは誰にも入れ替わることができない、ということを教えてくれます。
私たちは少しずつ誰かの言葉や考え方に影響されていきます。ときには、相手のために自分を変えようとすることもあるでしょう。それでも最後に残るのは、「誰としてどう生きたいか」という、自分自身の選択です。この映画は、その「人間の芯」のような部分をじっくり考えさせてくれる、優しい作品です。
構成/小山恵子 WEB構成/久保 葵




