しんのすけ@今月のMOVIEコレミトコ!
TikTokの映画レビューでバズりまくりのアニキ・しんのすけさんがイチオシの映画をナビ☆
紹介してくれたのは…
1988年、京都府生まれ。映画感想TikTokクリエイター。映像作家、株式会社MEW Creators代表。映画レビュージャンルを開拓し人気を集める。
Q. 映画館で映画を観るときは、どこの座席を選ぶことが多い?
A. 前方センター! スクリーンを大きく感じたいです!
今月の映画は『秒速5センチメートル』
STORY
小学校で出会った貴樹(松村北斗)と明里(高畑充希)は、お互いに手を差し伸べるように心を通わせていくが、卒業と同時に明里は引っ越してしまう。文通でつながっていたふたりは中学1年生で再会し、桜の木の下で「2009年3月26日、またここで会おう」と約束する。時が経ち、それぞれが日常を静かに過ごしていたー。新海 誠の同名劇場アニメーション作品が原作。
片思いって永遠に忘れられないよね
桜の花の落ちるスピード、秒速5センチメートル。僕が大学生の頃、タイトルの付け方がおしゃれすぎて嫉妬した記憶がある、そんな伝説的アニメ映画『秒速5センチメートル』。『君の名は。』や『天気の子』でも有名な新海 誠監督が2007年に製作した、繊細な感情描写で多くの人の心に残る作品です。その名作が実写化されると聞いたとき、期待と同時に不安も覚えました。しかし完成した実写版は、映像の美しさと演出で、アニメとは違った角度から同じ切なさを伝えてくれました。実写だからこそ生まれる感情が、しっかりと物語を支えていたのです。
1991年、東京で出会った貴樹と明里は、お互いの孤独から惹かれ合い、やがて手紙で想いを交わすようになります。中学1年の冬、栃木での再会を果たしたふたりは「またここで会おう」と約束しますが、時とともに少しずつ心が離れていきます。
奥山由之監督は、これまでも米津{hlb}玄師や星野 源などのMVや、「ポカリスエット」のCM、写真集などで独自の世界観を築いてきた映像監督です。今作でもその感性は存分に活かされており、過去と現在、夢と現実、希望と諦めが、まるでフィルムの粒子のように同居しています。カメラワークも静かで余白が多く、説明的になりすぎない、観る人に〝感じる余地〟を委ねているのが印象的でした。
この作品のよさは、普段なにげなく生きている世界の風景が、記憶により意味を持つこと、どれも素晴らしい思い出だったのだ、と気づかせてくれるところです。東京の地下鉄、吹雪の夜の栃木、そして桜の木。どのシーンも、ただの〝風景〟ではなく、ふたりの時間の証として存在していました。この、場所を切り取る力もまた、奥山監督が持つ強みです。
今作において大きな功績を残したのは主演の松村北斗さん。主人公・貴樹を演じる松村さんの演技は、全編を通して非常に抑制的です。しかしその抑えられた感情表現こそが、物語の切なさを一層際立たせています。かつての想いをまだ手放せずにいる青年の未練や迷い。セリフ以上に目線や表情、姿勢の〝間〟で心の揺れを見事に演じ、観るものの心をつかみます。沢山の作家から引っ張りだこの彼ですが、今作ではその蓄積された経験が見事に結実しているように感じられました。「届かないけれど、消えない感情」を芝居で表現できる俳優は、決して多くありません。
SNSで誰とでも〝つながれる〟時代に、なぜこの映画は今、実写で語られるべきだったのか。それはきっと、秒速で世界が変わる今だからこそ、大切な人とすれ違ってしまう切なさや、届かない気持ちの尊さを、もう一度問い直す必要があるからではないでしょうか。どれだけ離れても、どれだけ時間が経っても、記憶に残り続ける〝あの人〟がいる。この映画は、そんな誰もが抱える思い出と静かに向き合い、そっと寄り添ってくれるような作品でした。
構成/小山恵子 WEB構成/久保 葵



