TikTokで大バズ♡ しんのすけ「山下美月さんは、いるだけで観客を不安にさせる」明日公開の映画『火喰鳥を、喰う』をビュー!

しんのすけ@今月のMOVIEコレミトコ!

TikTokの映画レビューでバズりまくりのアニキ・しんのすけさんがイチオシの映画をナビ☆

紹介してくれたのは…

しんのすけ
1988年、京都府生まれ。映画感想TikTokクリエイター。映像作家、株式会社MEW Creators代表。映画レビュージャンルを開拓し人気を集める。
現在は監督業をはじめ、ジョニー・デップらハリウッド俳優へのインタビューも行う。著書に『シネマ・ライフハック 人生の悩みに50の映画で答えてみた』。

今月の映画は『火喰鳥を、喰う』

STORY

ある日、久喜雄司(水上恒司)と夕里子(山下美月)の元に、戦死したはずの先祖の日記が届く。日記の最後のページには「ヒクイドリ、クイタイ」の文字が書かれていた。その日を境に、ふたりの周りには不可解な出来事が続出し、超常現象専門家・北斗総一郎(宮舘涼太)の助けを借りて真相を探るが──。


“思い込み”はあなたのすべてを支配していく

呪い、とは一体なんでしょうか。今作は「人の思い込み」の恐ろしさが、あらゆる出来事を起こしてしまう。そんな状況に人は「呪い」という言葉を付けたのかもしれない、と語りかけてきます。

とある田舎の家に、一冊の黒い革の手帳が届きます。それは戦死した先祖が、死に際に持っていたもので、戦場を綴った日記が書かれていました。あまりの空腹に「目の前にいたヒクイドリを食べたい」という言葉に家族は驚きます。最後のページは日付のみで内容が書かれていない。そこから家族や村に、不可解な失踪や怪事件が起こり始める物語です。

本作が恐ろしいのは、幽霊や怪物といったわかりやすい脅威を描くのではなく、「思い込み」という人間の心の働きを怪異として提示する点です。人は不安になると、何かを信じたくなります。根拠のない言葉や曖昧な記憶でも、それが自分を支えるものになるなら信じてしまう。そしてその瞬間、心は縛られ、行動は支配され、現実までもが歪められていくのです。『火喰鳥を、喰う』は、この「信じることの危うさ」を鋭く描き出しています。

象徴的なのが、1冊の黒い日記です。登場人物たちはその日記に怨念が込められていると信じ込み、やがてページの空白にすら「何か意味がある」と解釈していきます。信じることで謎が膨らみ、さらに深みへと迷い込む。観客はその姿に恐怖しながらも、登場人物たちと同じ気持ちにさせられてしまいます。

そしてキャストの怪しさも印象的です。夕里子を演じる山下美月さんは、トラウマを抱えながら何かを隠しているような気配を漂わせ、ただそこにいるだけで観客を不安にさせます。夫を演じる水上恒司さんも、恐怖に理性を削られながら必死に日常を守ろうとする姿を繊細に体現し、観客の緊張を高めていきます。

特筆すべきは宮舘涼太さんの存在です。彼が演じる超常現象研究家は、一見するとトンデモな人物で、最初は作品にそぐわないほど浮いて見えるかもしれません。しかし進むにつれて、その胡散臭さこそが「思い込み」の本質を示すものとして圧倒的な説得力を持ち始めます。信じていいのか、疑うべきなのか。その曖昧さが恐怖を増幅させ、観客の心を揺さぶるのです。

『火喰鳥を、喰う』は、派手なホラー演出に頼らず、湿度や不安に満ちた日常から恐怖をにおわせる稀有な作品です。「思い込み」が人を支配し、「信じること」が罠になる。この構造は、誰の生活の中にも潜んでいます。だからこそ本作の恐怖は強烈にリアルで、観終わったあともじわじわと心に残り続けます。過去と現在の境界がくずれ、目の前の現実がねじ曲がっていく感覚。その不気味さを、ぜひ劇場で体感してみてください。

『火喰鳥を、喰う』

配給:KADOKAWA、ギャガ ©2025「火喰鳥を、喰う」製作委員会
CanCam2025年11月号「CCC!」より
構成/小山恵子 WEB構成/久保 葵