子供がのびのび生きられる社会をつくりたい!
『SDGs』の目標達成に向かって、CanCamモデル・トラウデン直美が気になる問題に迫るこの連載。今回は、日本の教育が抱える課題と、子供も先生も楽しみながら学べる環境づくりの秘訣を探ります!
SDGsの目標にも掲げられている「質の高い教育をみんなに」。振り返ってみると、これまでの学校教育はどこか正しい答えを覚えることが中心だった気がします。でも、「学ぶ」って、本来どういうことなんだろう? 子供たちが自ら疑問をもって、もっと自由に考えられる場が広がるといいなと思っていたら、何やら変化の兆しが!? 楽しみながら幸福度まで高まる教育のヒントを、教育変革家の久本和明さんに教えていただきました。
体験しながら学ぶ「次世代型教育」とは?
信じて任せることで育つ主体性。周りに合わせるより、自分で考えて選ぶ
トラ 久本さんの活動を知ったきっかけは、インスタのリールです! 子供たちがのびのびと学べる環境づくりを大切にされていますよね。以前、高校生たちとSDGsをテーマに話す機会があったのですが、皆さん優秀でありながら、自分の意見を言うことにためらいがある。もっと自由に、お互いが否定されていると捉えずに『自分はこう思う』と言い合える教育が、幼い時期から必要だなと強く感じたんです。
久本 これまで日本の学校教育は一方向的な講義形式がメインで、どうしても受け身になりがちですよね。僕自身も大学時代、せっかく受験して進学したのに、勉強に意欲がない人が多くて。しかも転職支援ベンチャーのインターンで経営者や人事の方々の話を聞くと、学歴はほぼ重視されていない。親たちは塾代や学費に苦労しているのに、「これって意味あるのかな?」と疑問をもつようになりました。こうした受け身の教育環境では、挑戦する主体性や達成感が得にくい。日本人の幸福感や自己肯定感が低い一因にもなっているのではないかと。
トラ 新しいことや違いを疎外する空気感があって、大人も子供もルールに縛られすぎて生きづらくなっているのかも? 私は中学校まで比較的自由な公立で出会いに恵まれ、楽しい思い出もたくさんあるんですが、時々息苦しさを感じて。制限されることが多いし、ハーフなのでやっぱりみんなと違う部分もある。そんな中、心の拠りどころになっていたのが『ポニーキャンプ』でした。年齢も性別も国籍も関係なく、みんなが自然体で関わって自分を表現できる場で、教育への興味の原点になっています。
久本 今の大人社会にも通じるお話で、「あれはダメ、これもやっちゃいけない」という環境だと、周りの目を気にして周囲に合わせ、自分の心の底からの思いを封印するクセがついてしまうと考えています。
トラ 久本さんが視察された海外では、教育に関してまた違うアプローチがあるとか?
久本 50か国ほど巡って特に印象的だったのが北欧で、国から自治体、自治体から学校、校長から先生へと「信じて任せる」姿勢が貫かれています。先生もまた、子供たちを信じて、サポート役に徹する。この信頼の連鎖は家庭や会社でも浸透していて、トップダウンがほとんどないんです。一人ひとりの意思や選択が侵されないからこそ、幸福感や前向きな気持ちが保たれ、その人たちの労働が安定的な納税につながり、福祉や教育に再投資される好循環を生んでいます。
トラ 主体性を育む教育が、巡り巡って社会にいい影響を与えているんですね。
久本 まさに! 背景を調べてみると、歴史的な経験が大きい。欧州では20世紀の大戦のみならず、数千年の間に戦争が繰り返され、支配や抑圧への不信感が人々に深く刻まれてきました。権力者に何億もの命が奪われ、苦しめられた過去から、「自分で決める」という意識が強い。だから教育でも、社会全体で子供の主体性が尊重されているんですね。
トラ 一方、日本では「学校に行くのがつらい」と感じる子供たちが増えていると聞きます。
久本 全国の小中学校で34万人以上が不登校で、実際、不登校を機に親御さんが教育に関心をもつケースが多いです。ただ、子供たちの教育について学校や先生がすべての責任を負う構造に無理がある。地域や保護者が先生たちをサポートする仕組みが必要だと思います。
トラ その一環で立ち上げられたのが、『オモロー授業発表会』だったのでしょうか?
久本 はい。元々は体験学習の実践を追った『夢みる小学校』というドキュメンタリー映画をヒントに「地域の小中学校にも、必ず夢をもった先生がいるはずだ」との思いで、2023年に関西から始めた活動です。地元の公立の先生たちが登壇し、授業の工夫や成果を10分でプレゼン。子供たちのために日々奮闘する先生方の熱意を、地域の保護者や住民が直接聞いて交流できる場になり、共感してくれた人が人を呼んで全国に広がっています。
トラ 子供たちと市長が宿題廃止を語り合う会も素敵でした! 特に印象深い発表はありますか?
久本 面白い事例は本当にたくさんあるのですが、例えば「30万円選挙」。ある中学校の先生の取り組みで、自治体から学校に助成される予算の使い方を生徒たちに考えてもらい、〝ボードゲーム党〟と〝掃除道具党〟に分かれて真剣に話し合って決める授業を行うことに。最終的には掃除道具が選ばれたのですが、この過程で「現状、困っていること」「どうしたらみんなが快適になるか」などを考え抜いた子供たちは、選挙の価値や責任も学ぶ機会になったようです。
トラ 貴重な体験! 日本では無欲が美徳とされる側面がありますが、「もっとこうだったら便利なのに!」と、いい意味で欲を口に出すことで実現できることがある。その成功体験は社会の変化を生むエネルギーにもなりそうです。それに、楽しい授業だと、もっと知りたいと思えるし記憶に残る。先生がワクワクしながら教えていると、子供たちにも伝わりますよね。
久本 おっしゃるとおりで、子供が自ら学ぶ上でも先生の主体性は不可欠。でも現実には、教員の多くが元気を失って病欠や心の不調が増え、代わりの先生を探すのもひと苦労で。何かと先生の責任が問われ、保護者との関係もうまく築けていないため、疑心暗鬼になってしまっているのではないかと。
トラ 何か解決の糸口はあるのでしょうか?
久本 地道ですが、やはり対話だと思っています。私自身も10年前に会社経営で行き詰まり、社員と信頼関係を築けずに孤独を感じていました。社員間で毎週のようにいざこざが起きて、火消しに追われることも。でも、チームビルディングやファシリテーションを学んで試行錯誤するうちに、話を聴いて本音でぶつかり合うことで解決できると腹落ちしたし、メンバーの幸せにもつながって自走できるチームになったんです。この経験を教育にも生かしたくて。
トラ 大人たちがなんでもハラスメントだ、踏み込みすぎだと壁をつくると、お互いに意見も言えない世の中になってしまう。久本さんの活動を見ても、人と人が集まって関わったらこれだけ大きなムーブメントが起こせるわけで、立場や価値観が違うからと関わりを避けて、チャンスを失ってしまうのはすごくもったいないと思います。
久本 そうなんですよね。オモロー授業発表会では、保護者や地域の方、教員を目指す学生から「先生方の奮闘を知り、あきらめていたけど希望が持てた」という声をよくいただきます。その声を受け「応援してもらえてうれしい」と先生方の自尊心が高まり、子供たちとの対話をもっと大事にしたいという意欲が芽生えています。さらに「職員室を変えたい」「他の先生も巻き込みたい」と、ますます進化中で。
トラ 地域が見守ってくれている実感が力になるんですね! お話をうかがって、ふと小学生の頃の記憶が蘇りました。地域の方が関わってくださった行事や体験授業がすごく楽しくて、田植えや竹とんぼづくりなどの思い出は今でも鮮明に残っています。実は…、私もいつか幼稚園をつくりたいという野望がありまして。子供たちに色んな経験をしてほしいなと。
久本 ぜひ応援させてください! 子供たちが自分で考えて、自分で決める。自由に生きる力を養うことが教育の原点だと思います。失敗や友達とのケンカも含めた経験が、未知への不安を和らげ、人にも寛容になれる。そうやって成長していく子供を増やしていきたいですね。
■自分で考えて、自分で決める。失敗しても自由に生きる力を養うことが教育の原点
■共感の輪で全国に広がる『オモロー授業発表会』
地域の方が主催し、毎回100人から300人が参加、35市町村で計70回以上開催。
登壇者の話の後には、参加者が円になって感想をシェア! 保護者、教員、子供、教育委員会、行政などの立場を超えた対話から一人ひとりの主体性がアップ!
プレゼンは各10分×8人程度。主役となる先生を増やし、交流の時間を大事に。
今月のトラの気づき
・対話から、主体性を応援する!
・大人の自己肯定感=寛容な社会のカギ
地域でサポートしたい! 生徒の「楽しい」を生む先生の挑戦
「楽しそうに生きてる大人の姿を見せるって、子供にとってすごく大事! 教育に完璧さや正しさを求めすぎることの弊害と、先生が楽しんで教えられる場づくりの力を実感。最近は少子化で推薦枠が増えてますし、今が受験重視の教育を変えるチャンスじゃないかなとも思えました」byトラちゃん
目指せSDGs! トラの一歩
■大好きな馬たちの幸せを守る!
毎週通っている乗馬。先日はイギリスナショナルチームのサドルフィッターに鞍調整の重要性を学びました。鞍が合わないと馬に負担がかかり、怪我のリスクが増えます。日本ではまだ専門職が少ないですが、馬が健康に過ごせる環境を整えていきたいな!
今月のSDGsブランド「Coachtopia」
COACHが2023年に立ち上げた姉妹ブランドで、世界のZ世代と共に循環型ものづくりを行う。廃棄物を貴重な資源として活用し、再利用・リメイク・リサイクルを前提として、デザインの初期段階から何度でも生まれ変われるように設計。使い終えたすべてのアイテムを引き取り、新たな使い道を見出している。