ふと「転職したい…」と思ったとき、あなたはまず何から始めますか?
今の仕事のイヤなところを思い浮かべてみたり、なんとなく思い当たる条件を入れて転職サイトを見てみたり、とりあえず履歴書や職務経歴書を書いてみたり、さまざまなパターンがあると思います。
でも、転職がうまくいくコツなどを調べてみると、たいていそこには「自分についてよく考えてみて」「キャリアの棚卸しが必要」などと書かれています。
この「キャリアの棚卸し」って、いったい何をすることなのでしょうか?
そこで転職サイト『doda』『マイナビ転職』『エン転職』3社の編集長、そして実際に求職者の方とお話をする機会が多いキャリアコンサルタントの方にお話をうかがいました。
Contents
Q.転職を成功させるためには「キャリアの棚卸しが必須」…とよく見ます。つまり何をどう考えればいいんでしょうか?
▼「ハード面」「ソフト面」の2面から考える
「あなたという人間を『ハード面』『ソフト面』の2面から考えてみると、考えが整理されるはずです。
ハード面は『経験や技能』。どんな部署でどんな仕事をして、どんな工夫をしてどんな成果をあげたか。それらのことをできるだけ具体的に職務経歴書のように書き出してみてください。
ソフト面は『人間性』です。ハード面で書き出したその成果はなぜできたのか、パーソナルな強みの特定があるとより良いです。お客様の役に立ちたくて行動できたからなのか、成績1位になるのが楽しいのか、仕事相手との関係構築が上手いのか…などなど、似たような成果であっても成功の要因は人によって異なります。ただやはりこれは第三者の視点があったほうがいいので、できれば人材紹介会社や民間のコーチング会社などにお手伝いしていただくといいですね。なぜかというと、誰かにヒアリングされることで『自分の中では当たり前すぎて書かなかったこと』が『当たり前ではない、自分の売り』ということが判明するパターンが結構あるからです。
結婚や出産などのライフプランも、譲れない条件をはっきりさせることが重要です。『だいたいこのタイミングくらいに』という希望があるならば、そこを念頭に置いたキャリアチェンジを考える必要があります。もしエージェントなどを使う場合は、キャリアコンサルタントは面接官ではないので、どんどんあなたの要望をお伝えしてください」(『doda』編集長 喜多恭子さん)
▼5W1Hで考えを整理するとわかりやすい
「なりたい自分像を明確に描ける方は、そこに向けて足りない部分をどう埋めていくかを考えてみましょう。
一方で何がしたいのか・何になりたいのかまだわからないという方は、今の仕事を整理して『変えたい部分』『変えたくない部分』を明確にすることから始めてみるのがおすすめです。
マイナビ転職では『5W1H(誰が(に)、いつ、どこで、何を、なぜ、どうする)』の考え方で仕事を整理する方法を提唱しています。今後起こるライフイベントも踏まえて、何を軸にしていくかをまとめる手助けにしてみてください」(『マイナビ転職』編集長 荻田泰夫さん)
▼職務経歴書を実際に作ってみる
「転職には職務経歴書というものが欠かせませんが、これを実際に書いてみることで見えてくるものがあります。転職のときだけでなく、普段から『3か月に1回、少なくとも年に1度は自分の職務経歴書をアップデートし続けること』をおすすめしています。実は転職をしない方にもおすすめです。なぜかというと、職務経歴書を作ることで自分自身の経験を改めて整理でき、仕事への視点や取り組み方を認識する機会にもなりますし、上司との目標設定や評価の場でのコミュニケーションにも使えます。定期的に書き直すことで「過去できなかった自分」と「できるようになった自分」の差分もわかり、自己肯定感も高まります。いいことづくしです。
たとえば入社3年めで転職しようと思ったときに、3年のことをすべて覚えていられるかと聞かれると覚えてはいないはずです。でも毎年簡単にでも自分の経験を整理しておくと、いざ転職しようと思ったときにすぐ使えますし、とても便利です」(『エン転職』編集長 岡田康豊さん)
Q.転職で譲れないポイント、妥協してもいいポイント、どう見つけていけばいいですか?
▼ツールを有効活用
「有料のものであればストレングスファインダー、無料のものであれば『doda』でも提供しているキャリアタイプ診断などのツールを使いながら、自分の行動の動機を掴んでみてください。ある程度そこで自分の行動の特徴や譲れない価値観、大切にしている価値観が特定できるはずです。
たとえば『仕事内容』『人間関係』『給与』で優先順位1位にあるものはどれかと聞かれたとき、自分では仕事内容だと思っていたとしても、よくよく考えれば「実は働く仲間がいいとき、仕事内容もよく感じていた」ということがわかるケースもあります。
自分の譲れない価値観がしっかりわかっていると、社風が合っているかそうでないかの見極めもしやすいので、自分の中で考えるだけでなくツールなども使いながら判断していってみてください」(『doda』編集長 喜多恭子さん)
▼第三者との会話の中で優先順位をつけていく
「人材紹介サービスに登録し、キャリアカウンセリングを一度受けてみることをおすすめします。私が相談に来られた方のお話を聞く際は、仕事の経験のみならず『これまでの人生をどのように歩まれ、今後どう生きていきたいか』を伺います。過去、どんな意思決定をしてきて、今何を感じて転職を考えているのか、将来どう生きていきたいのか…。お話を聞いている中でその方が大事にしている価値観が見えてきます。私が客観的に見て、大事にしていそうだなと思った価値観を伝えることで、その方が人生や仕事において大切にしていること、重視したいことに改めて気づくきっかけにもなります。
そして『今の仕事をしていて、嬉しかったこと、楽しかったこと、やりがいを感じたこと』をリストアップしてみて、それがどんな仕事であればさらに得られそうかを考え、そこに近づけていくと『譲れないもの』『妥協してもいいこと』が見えてくると思います」(『エン エージェント』キャリアパートナー 熊谷正志さん)
Q.転職がうまくいくコツはなんですか?
▼たくさんの企業を見て、自分の本当の願いを掴む
「コロナ禍の今、選考期間が長期化する傾向にあるので、たくさん受けることをおすすめしています。転職活動をして多くの企業を見る中でご自身が大切にしたい譲れないものが見えてきたり、改めて現職の良さを理解して転職を中断したりさまざまなケースがありますが、いずれにしても選択肢はたくさんあったほうがいいです。
当然たくさん受ければたくさん落ちるので、落ち込む必要は本来ないもののどうしても落ち込んでしまうでしょうし、時間もかかります。
ただ、本当に行きたいと感じたところだけぎゅっと絞って受けても、過去とは選考率が大きく違うので、そもそも面接まで行けることがかなり少なくなっています。転職活動をすると決めたなら、どうせならたくさん受けてみたほうが見えてくるものが多くあり、結果的にうまくいくと思います」(『doda』編集長 喜多恭子さん)
▼譲れないことは決め、そこだけは絶対に譲らない
「絞りすぎずに幅を広げることは必要ですが、転職を成功させる上で『絶対にこれだけは譲れない」ということはむしろ譲らないことが重要です。『この職種じゃないといやだ』でも『絶対実家から通えるものじゃないといやだ』でもなんでもよいのですが、とにかく『私はこれがないと幸せになれない』という要素を見つけてください。
先ほどの『5W1H』で考えを整理すると見えてきやすいのでおすすめです」(『マイナビ転職』編集長 荻田泰夫さん)
▼自分のWILL・CAN・MUSTを理解する
「『自分のWILL・CAN・MUST』をしっかりと棚卸しし、理解することです。
WILL・CAN・MUSTとは
・WILL=やりたいこと
・CAN=できること
・MUST=やらなければならないこと
この3つです。『自分自身がこれまで何をやってきて、今何ができて、これから何をしたいのか』を考えないまま転職活動をしていると、やはりうまくいかないことが多いです。『給与が高い』『オフィスでドリンク無料』など、本質ではない特典につい目移りしてしまい、『なんとなく受けて、案の定落ちて、落ち込む』という流れを繰り返します。
ただ、面接に落ちて気づくこともおおいにあります。面接を受けてみて『やらなければいけないこと』『やりたいこと』などが見えてきて気づくことも。転職は慎重に判断すべきですが、転職活動自体はひとつの経験としてアリだとは思います」(『エン転職』編集長 岡田康豊さん)
▼「転職することを目的」にしない
「求人が減っていて買い手市場の現在、転職をする上で大事にしたい軸を決めたら、そこに該当する企業をできるだけ多く見てみてください。
受ける企業を限定しすぎてしまうと『今の会社と転職先を比較するとどうか』になり、本来の転職の目的がブレてしまうことにも。その結果『転職することが目的』になり、転職で本来実現したいことではない軸で選んでしまうことにもつながります。
そして『理想に100%当てはまる企業』はほとんどないと思ってください。自分の考えを整理して、絶対に譲れない条件は変えず、優先順位の低いものは先に条件から外して引いて見ることで、意外と良い企業に出会えるチャンスが増えます」(『エン エージェント』キャリアパートナー 熊谷正志さん)
勢いで行動を始めて必要以上に落ち込む前に、まずはこんな観点から自分のことをしっかりと考えてみてくださいね。
次回は、転職において絶対に避けることができない「志望動機」「転職理由」は、いったい何を書けばいいのか、たっぷりとご紹介します。