不動産仲介歴29年のプロが考える「部屋探しで本当に重視すべき条件・妥協してもいい条件」

新型コロナウィルスの影響によって「家にいる時間」が格段に増え、家に求める条件が変わった…という方も多いはず。
人によっては半永久的にリモートワークになり、駅近や交通アクセスはそんなに気にしなくていいからとにかく広くて明るい部屋がいい!と、お部屋探しを始めてみたり…。
ただ、実際「お部屋探し」は、どのようなことを重視すべきで、何は妥協してもいいのでしょうか。

(c)Shutterstock.com

そんな「お部屋探しのコツ」を、ピタットハウス用賀店の店長、株式会社エイチ・アイ・トラストの宇田津誠さんにうかがいました。
物件を丁寧に知り尽くし、お客さんのことを本当に考えて物件を提案する宇田津さんはお客さんからも信頼を置かれ、長年仲介をお願いしている方も多いそう(実際、編集部スタッフの中には賃貸の仲介でお世話になり、物件購入を宇田津さんにお願いした者も)。
そんな不動産仲介歴約30年のプロが思う、本当に重視すべきお部屋探しのポイントを紹介します。

Q.不動産会社が思う「優先すべき条件」「妥協してもいい条件」はなんですか?

▼前提。そもそも「予算内で、条件の100%を満たす物件」はほぼない

まず「条件の100%を満たす物件はほぼない」ということを理解してください。
10の条件があったとき、6〜7を満たしていれば、住めば都です。9割当てはまっていたらほぼ完璧です。29年不動産業界にいますが、6〜7割クリアしている状態であれば、賃貸でも購入でも、引越してから「こんなはずじゃなかった」とクレームになったことは一度もありません。
仮に「予算は10万円で、10の条件がある」とします。たいていそういうときは条件の6〜7割クリアしていればいいほうです。そこで予算を12万円に上げれば10の条件を満たすとしても「じゃあ12万出すならもっとこういう条件もほしい…」と、いたちごっこになります。

▼「妥協する3〜4割の条件」はどう決める?

ここが実は、不動産会社の担当の腕の見せどころです。お客さんの中で決めてもらうよりは、話している中で決めていくほうが、本当に求めているものが見えてきます。
お客さんが考えてきた条件をもとにお話を聞き、要望を整理して、本当に譲れない条件や、実はまだ言葉になっていないけれど必要な条件を導き出していくのが不動産仲介の仕事です。

たとえば「家賃は月10万まで」と言っている方も「本当に絶対に上限が10万円」という方もいれば「できれば10万で探したいけど、理想がより叶う物件なら11万円くらい出せる方」もいます。エリアも「家賃10万円だと、希望より狭かったり、駅から遠かったり、条件の半分しか満たさない。それでも絶対都心にこだわるのか、それとももう少し郊外に出て理想の家に住むのか。郊外がイヤなら、それはなぜイヤなのか」をしっかりヒアリングしていきます。

そういったお客様の要望にしっかり合った部屋をきちんとおすすめできるように、僕たちの店では「実際に物件に行くこと」を大切にしています。お客さんに言われた条件のままにレインズ(※1)を開くだけだと、お客さんと同じ目線でしかありません。僕たち不動産会社は、もう一歩先に行かなきゃいけない。図面だけではわからないことを知っていたり、物件や周辺の事等を説明できる。すなわち、営業マンは紹介する物件を知り尽くしていて、お客様に適した物件を当てはめていく。答えは現場にあり、なんです。
お店に行って、物件の話を聞いても要領を得ない回答しかしない担当の方がついてしまった場合は、お店を変えてみてもいいと思います。

※1 レインズ…一不動産業者が見ることができる、全国の不動産情報が登録されているオンラインシステム。一般公開はされていない。

▼言った条件と異なる物件や予算より高い物件ばかり出してくる理由

これはおそらく、その不動産会社の担当の方から見てどこかしら当てはまっているものや、話を聞いているうちに「もしかしたらこういう物件がいいのでは?」と思ったものを出しているはずです。
ただ、その感覚がずれている可能性はあるので、違うと思ったら遠慮なく言ってください。むしろ「これはダメ」「これはNG」とはっきり言ってもらったほうが、しっくりこない物件を提案される確率が下がります。

(c)Shutterstock.com

Q.部屋探しや内見のとき、見たほうがいいポイントはどこでしょうか?

▼日当たり・風通しの良さ

「南向き」にこだわる方が多いですが、実は方角はそこまでこだわりすぎなくてもいいポイントです。南向きなら100%日当たりがいいかといえばそうではなく、南の方角の隣に大きな建物があったら日当たりが期待できないこともあります。
逆に、敬遠されがちな「北向き」ですが、北と東の角部屋などだとまったく問題なく明るく、むしろ直射日光で眩しくもないちょうどいい明るさというパターンもあるので、あまり「方角」でしぼらなくてもいいと思います。
やっぱり「日に当たる」ことは心身の健康に重要なことだと思います。都心だと難しいこともありますが、せめて「湿気っぽくなく、風通しがいい物件」がいいですね。

▼できれば、雨の日や湿気のこと

雨の日は、低地だったりすると雨水が逃げていく場所がなく、家の付近に雨水がずっと溜まってしまう場所があります。また、2階に上がる階段周辺に屋根がないと雨の日に吹きさらしになって地味にストレス…ということも。もしそこまで即決しなくてもいい物件だったり、長年住む予定の場所なら雨の日にも物件周辺を見てみてください。
また、いちばん湿気がたまりやすい「北側」のお部屋や窓周辺もチェックしてください。窓のゴムパッキンにカビがあるようなら、湿気がたまりやすい物件の可能性があります。もちろん換気をすればさほど問題ないのですが、今はあまり換気をせずに窓を閉めっぱなしの家も多いので、そういう方の場合はカビが発生しやすくなり、住んでいるうちに気になってしまうかもしれません。

▼周辺環境

その物件自体がとても良くても、周辺環境によって結構左右されるところがあります。
たとえば日中家で仕事をすることが多いのに、窓を閉めても日中ずっと騒音がするような施設がすぐ近くにあると、入居してから「こんなはずじゃなかった」と思ってしまうかもしれません。内見に行った土日は騒音がしなかったけれど、平日はちょっと音が気になる…ということもあります。
他にも何か気になることはないか、雰囲気はどうか…など、周辺はできるだけ歩いていたほうがいいですね。駅をよく使うのであれば、駅から家の間は必ず歩いてみてください。可能であれば夜の帰宅することが多い時間も歩いてみるのがベストです。

▽「隣にお墓」ってどうですか?

「隣にお墓がある物件」は、人によってプラスにもマイナスにも転じます。
「怖い」「霊的なものが気になる」方は、選ばないほうがいいでしょう。
ただ、そういうことを一切気にしない方であれば、お墓に面した方角に窓があるなら、その窓からの日当たりは半永久的に抜群に良い事がほとんどです。現在お墓となっている場所を取り壊して新しくマンションが建つということもまずないので、今は日当たりがよくても将来的に高層マンションが建つかもしれない、ということを気にする必要もありません。

▽「川の近く」は危ないですか?

川の近くの物件は「なんとなく洪水になったら怖いからイヤだ」と避ける方もいますが、意外とハザードマップをチェックすると問題ないこともあるので、物件近隣のハザードマップを見てみてください。
何かしら「イヤだ」と思うことがあるならば「なんとなく」にしておくのではなく、しっかり掘り下げてみることで選択肢も広がります。

▼水まわり

内見まで行かないとわからないポイントではありますが、水の給排水、お風呂や洗面所まわりなど、水まわりは内見のタイミングでしっかりチェックしてほしいです。お風呂にためた水が抜けにくい物件も結構あるので、気になる方は実際に少しためて流してみてもいいですね。
また「古いマンション」「上の階」という物件の場合、シャワーの水圧が弱い、ということがあります。毎日使うものなので、内見の際に実際に出させてもらってみてください。
また「独立洗面台」は、妥協したものの、引っ越してから「やっぱり欲しかった」という方がわりと多い条件です。

(c)Shutterstock.com

Q.いつまでも部屋を決められず、迷ってしまいます。どうすればいいですか?

「数を見過ぎない」ほうがいいと思います。
お客さんに、引っ越しをしたいと部屋を探し始めて3年経つ方がいらっしゃるんですが、見れば見るほど「もっといい物件が出てくるんじゃないか」と決断できないんです。
特に購入になるとさらに決断しにくくなってしまうので「そもそもなぜ引越しをしたいのか」などをしっかりと振り返って、どこかで決断するポイントを作る必要があります。

最初に「なぜ引っ越したいのか」「次はどういう家に住みたいのか」ということを考えてみてください。
ちなみに、特に男性で「寝られればなんでもいいです、こだわりがないです」という方も結構いらっしゃるんですが、実際「なんでもいい」は「全部ダメ」になってしまいがちです。部屋を決める優先順位がないから、どんな物件を見ても決断できず、こちらも合った提案が難しいのでいつまでもしっくりこない。
条件がありすぎても難しいですが、ないのはもっと難しいです。こだわりや条件を最低3つはリストアップしてみてください。

 

Q.やっぱり女性はオートロックがある物件じゃないとダメですか?

もちろんオートロックがある物件のほうが抑止力にもなるし安心…ということはあるにはあると思いますが、オートロックも完全ではありません。
オートロックだけにこだわるよりは、バルコニーから入られないかもチェックしてほしいですし、オートロックに安心して戸締りが適当では意味がありません。
個人的にはオートロック物件にこだわるよりも、自分で1万円前後で売っている防犯センサーやウェブカメラをバルコニー周りなど気になる箇所に設置するほうがコスパもいいですし、防犯効果も高いと思います。
オートロック物件にすると家賃が上がることも多いですし、逆に必須にしていた「オートロック」を外すことによって物件の幅が広がります。自分でいくらでも後から防犯対策はできるので、一度怖い目にあったことがあるなど、どうしても…という方以外は、そこまでこだわりすぎなくてもいいと、うちの女性スタッフも言っています。

(c)Shutterstock.com

Q.不動産会社が思う「コスパがいい物件」ってどんな物件ですか?

わかりやすいものでいうと、やっぱり「リノベーション物件」でしょうか。
築年数が経っているので家賃は安めだけど、中は新築同様にきれい、という物件がたくさんあります。
ただ、ある程度の築年数が経っているものだと耐震基準が異なります。現在の新耐震基準が施行されたのは1981年。その前後で「どのくらいの地震に耐えられるか」が変わっています。そこのところはチェックしておくといいですね。

自分でインターネットで物件情報をたくさん見て、自分が部屋に求めるものの勘所を掴むことも重要ですが、その上で信頼できる不動産会社の担当を見つけて決めていく…というのが、私たちが考えているより重要そうです。どこでもどの物件も仲介してもらえることが多い時代だからこそ、信頼できる担当の方を見つけて、二人三脚でしっくりくる物件を探してみてくださいね。

取材協力/ピタットハウス用賀店(株式会社エイチ・アイ・トラスト)
東京都世田谷区用賀2-39-20(東急田園都市線用賀駅 徒歩1分)
電話番号 03-6231-0077
営業時間 10:00-19:00
構成/後藤香織