日常を取り戻す今だから。改めて知っておきたい手洗い・マスク・予防の知識
新型コロナウイルス感染症の対策として、手洗い・うがいやマスクの着用などが注目を集めています。
でも、知識があいまいで「このやり方で合ってるのかな?」と不安に思いながら実践している人も意外と多いのではないでしょうか?
緊急事態宣言が全国的に解除され、日常を取り戻していく「今」だからこそ、あらためて知っておきたい感染対策の基本。
正しい「手洗い・うがい」のコツや「マスクの使い方」など、私たちひとりひとりが実践できる対策を、国際保健学等を専門とする医学博士の大橋一友教授に伺いました。
■新型コロナウイルス対策(1)手洗い・殺菌について
Q:改めて伺います。なぜ「手洗い」が新型コロナウイルス感染症の予防に役立つのでしょうか?
A:
手洗いの目的は「手についたウイルス(を含む唾液や鼻水)」を除去することです。
新型コロナウイルスは主に、鼻・喉・気管支といった気道の粘膜に感染しますが、手の皮膚から直接侵入することはありません。ウイルスのついた手で、口・鼻・目といった粘膜のある部分を触ることで感染します。
ウイルスがたくさん潜んでいるのは、感染した人の唾液や鼻水の中。それが「咳・くしゃみ・お喋り」と言った行為で外に出てきて、人の手同士の接触や、ドアノブなどモノとの接触を通して手の上にくっつき、拡がっていくのです。
手洗いは、粘膜に触る前に手の上のウイルスを洗い流すことで、感染を防ぎます。
Q:「石鹸で手を洗うこと」「水だけで洗うこと」は、何が違うのでしょうか?
A:
皮膚の表面には、皮脂を含む角質層という部分があります。この角質層の皮脂の上、または皮脂の中に、ウイルスが潜んでいます。皮脂には粘着力があるため、水だけでは完全にウイルスを洗い流せません。
石鹸は、油に溶ける性質と水に溶ける性質の両方を持っています。その石鹸を使って洗うことで、皮脂をウイルスごと水に溶け出させることができます。だから、石鹸を使うとウイルスを手から引き剥がし、洗い流すことができるのです。
Q:あらためて「正しい手洗いの方法」を教えてください。
A:
●正しい手の洗い方は……
1.流水でよく手をぬらした後、石鹸をつけ、手のひらをよくこすります。
2.手の甲をのばすようにこすります。
3.指先・爪の間を念入りにこすります。
4.指の間を洗います。
5.親指と手のひらをねじり洗いします。
6.手首も忘れずに洗います。
7.石鹸で洗い終わったら、充分に水で流し、清潔なタオルやペーパータオルでよく拭き取って、乾かします。
一番注意してほしいのが「手の拭き取り方」です。理想は、使い捨てのペーパータオルを使うこと。自分専用のタオルを使ってもOKですが、この場合「手洗い後に手を拭く専用」のタオルを用意することが大切です。
手を拭いたタオルで顔などを拭いてしまうと、タオルに付着したウイルスを口や鼻に塗りたくることになってしまいます。もちろん、家族でタオルを共有するのは避けたほうが良いでしょう。
また、外出時に汗を拭いたり、他のものを触ったりしたハンドタオルを、手洗い後の拭き取りに使うのも好ましくありません。外出時には、ティッシュペーパーなどで手を拭くのがおすすめです。
濡れた手のまま周囲のものを触るのも、ウイルスを拡散してしまう可能性があるため、避けてください。
ちなみにタオルに付着したウイルスは、放っておいても増えません(ウイルスが増殖するためには動植物の細胞が必要です)。「タオルのニオイが気になる」というのは、ウイルスではなく細菌によるものです。ウイルスがタオル上にいるかいないかは、肉眼やニオイでは分かりませんので、気をつけてください。
この「タオルについたウイルス」の感染力は時間とともに減っていきますが、どれくらいの時間でどのくらい減るかは、まだ未確定です。
Q:市販の「殺菌・消毒」をうたう石鹸・ハンドソープは、そう書かれていないものよりも新型コロナウイルス対策に有効ですか?
A:
そうとも言えません。「ウイルスを洗い流す」という目的で言えば、効果はどちらも同じです。
先程の説明のとおり、石鹸の役割は皮脂を表皮から引き離し、水に溶かして洗い流すことです。「殺菌・消毒」の記述がない石鹸や、雑貨屋さんなどで売っている良い香りのするアロマソープなどでもこの効果は変わりません。まず、石鹸で手洗いを頻繁に行うことが重要です。
一方、殺菌・消毒といっても、ターゲットが「細菌」なのか「ウイルス」なのかで消毒薬は変わってきます。従来は、ウイルス感染予防にはエタノールや次亜塩素酸水などが手指消毒に用いられてきました。
しかし、新型コロナウイルス感染が広がった後、独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)で多数の消毒薬の新型コロナウイルスに対する有効性が評価されています。2020年5月21日の発表では、塩化ベンザルコニウ(0.05%以上)、アルキルグリコシド(0.1%以上)などが有効であると報告されています(参照:NITEwebサイト)
これらの消毒薬は家庭用洗剤などに入っていますが、器具の消毒に用いられる高濃度で検討が行われており、手指消毒に用いた場合にはひどい手荒れが予想されます。「殺菌・消毒」用の石鹸・ハンドソープも同様の消毒成分を含んでいるものもありますが、含まれている消毒成分と濃度を会社に問い合わせ、ウイルス感染予防に有効かを尋ねる必要があります。
Q:除菌シートはどんな役割を果たすのですか?
A:
除菌シートには、アルコールタイプとノンアルコールタイプの2種類があります。
「アルコールタイプ」には、ウイルスにも細菌にも効果的な「エタノール」という物質が含まれています。エタノールはウイルスを殺すことができるため、アルコールタイプの除菌シートにもその効果が期待できます。一方「ノンアルコールタイプ」にはさまざまな消毒薬が含まれており、現時点では新型コロナウイルスの消毒に有効かどうかについて検証が終わっていないものもあります。個人的には、エタノールと次亜塩素水が手指消毒にはよいと思います。
ウイルスを殺すためには「エタノールの濃度」が重要になってきます。一般的には60〜80%の濃度が必要ですが、いったん封を切った除菌シートなどはどんどんアルコールが蒸発してしまうため、効果が低くなっていきます。
このため、病院で使われるアルコール綿は1回使い切りの個別包装になっています。各社のホームページでは、開封前の使用期限は示されていますが、開封後の使用期限は「できるだけ早く使用してください」と書かれています。アルコール臭は濃度が低下してもありますので「アルコール臭があるから大丈夫」と思わないようにしてください。
5月19日にも消費者庁が輸入された71%と表視されたアルコールジェルに5%しかアルコールが含まれていなかったとして、措置命令を出した例もあります。ご注意ください。