最近よく聞く「テレワーク」。新型コロナウイルス感染症の影響でテレワーク(在宅勤務)を導入した会社もかなり増えましたよね。
でも、慣れない在宅勤務で「いまいち集中できない」「モチベーションが保てない」と悩んでいる人も多いのではないでしょうか?
「withコロナ」の現在はもちろん「afterコロナ」の未来においても、テレワークはこれまでより身近な働き方として定着していくと言われています。
そこで「テレワーク(在宅勤務)でうまく仕事をするコツ」を、モチベーションについて研究されている摂南大学経営学部の西之坊穂先生に伺いました。
■そもそも「テレワーク」とは?
テレワークとは、簡単に言うと「ICT(情報通信機器)を活用して、職場以外の場所で働く労働形態」のことです。
厳密に言えばテレワークは「在宅勤務」だけでなく、カフェ・ホテル・電車・営業先、またシェアオフィス・サテライトオフィスといった場所で働くことも意味しています。
今回は、とくに従業員の自宅で働くテレワーク、つまり「在宅勤務」に着目。おうちで仕事を行う際にモチベーションをキープするコツを教えていただきました。
■おうち仕事のモチベーションを左右する「4つの要因」
西之坊先生によると「在宅勤務のやる気に影響を与える主な要因は、4つあります」とのこと。
◆在宅勤務のやる気に影響を与える4つの要因
1.上司のマネジメント
2.会社の人的資源管理(担当業務の内容、評価制度など)
3.自宅環境(騒音などの周辺環境、同居家族の状況、仕事に使う機器の充実など)
4.個人的要因
とくに注目したいのが、4つめの「個人的要因」。たとえば、次のようなことを指します。
●「個人的要因」とは……
・自宅学習や作業が得意か
・セルフコントロールが得意か
・成果に責任を持って取り組めているか
・上司と信頼関係を構築できているか
・情報通信機器を使いこなすスキルおよび知識を持ち合わせているか など
働く人自身が最もコントロールしやすいのが、この「個人的要因」です。
では、自分を上手にコントロールしてモチベーションを保つには、どうしたら良いのでしょうか? 早速見ていきましょう。
■テレワークでモチベーションを保つコツ・Q&A
Q:そもそも、在宅ワークであまり集中できないのはどうしてですか?
A:
それは、無意識のうちに「自宅=スイッチをOFFにできる場所」と感じてしまうためです。
多くの人にとって、会社や学校がONの状態とすると、自宅はOFFの状態ですよね。私たちは長年そのような生活に慣れているため、自宅ではOFFになる習慣がついてしまっています。
Q:自宅で仕事をする際に、集中力・モチベーションを保つコツは?
A:
集中力・モチベーションを保つコツは、「メリハリをつけること」「心身の健康に考慮すること」のふたつです。具体的には、次の4つの方法を試してみてください。
コツ1:期間ごとにゴールを設定する
その日、あるいは1週間など、一定期間にどの程度のアウトプットを出すのかを明確にし、目標設定をしてみましょう。そして進捗を自己管理しましょう。
コツ2:その日のタイムスケジュールを作成する
当日の朝、もしくは前日の夜に、1日のタイムスケジュールを作成してから仕事をスタートしましょう。学校の時間割表で「1限目は英語のリスニング」と決まっていたように、「9:00〜10:00は○○の資料を作成」等と設定すればOKです。
1コマ(9:00〜10:00などの区切り)が終了したら必ず10分くらいの休憩を挟みましょう。メリハリをつけやすくなり、集中力をキープできます。
午前と午後との使い分けもおすすめです。たとえば「集中力の必要な執筆や分析作業は午前中」「午後は人との予定や打ち合わせを入れる」など、自分がどの時間帯にどの仕事が向いているのか分析してみましょう。
コツ3:午前・午後で必ず1回ずつストレッチ
午前と午後、それぞれ1回はストレッチや身体を動かす家事など「体を動かすこと」を取り入れましょう。PC作業で目を酷使している人は、目を休めることも忘れずに!
コツ4:人とコミュニケーションをとる
チャットや電話などで、上司や同僚と時々コミュニケーションをとりましょう。ひとりで黙々と作業しているよりも、職場にいる時のような「戦闘(仕事)モード」に切り替わりやすくなります。
Q:上手な休憩のコツはありますか?
A:
休憩の終了時間をしっかりと決めること。そして、休憩の間は好きなことをしてリラックスすることを意識してみてください。好きな音楽を聴いたり、自分にご褒美で美味しい飲み物や食べ物を用意したり。また、疲れているときは10分間だけ仮眠をとるのも良いでしょう。
もちろんここで「体を動かすこと」を取り入れてもOK。10〜15分程度ラジオ体操やストレッチ、簡単な筋トレをして体を動かすことで、リフレッシュになります。
Q:在宅ワークだと、その日の仕事が終わってもなかなか仕事モードから自分を切り離せません。うまく仕事とプライベートを切り分けるコツはありますか?
A:
前述のとおり、在宅勤務ではONとOFFの切り替えがなかなかうまくできないという人は多いです。日本の働く人はまだまだ在宅勤務に慣れていませんから、皆さん試行錯誤をしています。
ソフトバンク社が在宅勤務をしている社員に行ったアンケートによると、ONとOFFの切り替えのためにやっていることの1〜3位は「服を着替える」「(業務終了後に)PCやスマホを片付ける」「軽めの運動をする」。
切り替えを助けてくれるヒントとして、取り入れてみてください。
Q:在宅ワークをしていると、会社に出勤するときよりも「やる気が出る日・出ない日」に大きなバラつきがあります。これはどうしてですか?
A:
職場で働く場合は、とりあえず会社に行くことで「やらざるを得ない環境」に身を置くことができます。でも自宅ではそれができず、うまくやる気を出せないときもありますよね。
在宅勤務の場合、上司や同僚が近くにいない、つまり「監視の目」がない状況になります。この低ストレス状態は在宅勤務のメリットのひとつでもありますが、同時に「モチベーションを保ちにくい」と感じる原因にもなります。
Q:どうしてもやる気が出ない、でも仕事はしなくてはいけない……というときは、どうすれば良いでしょうか?
A:
結論から言うと、「どうしてもやる気が出ない日に無理をする必要はない」と考えを変えてみてもいいと思います。昔の日本企業は年功や業務プロセスを過大評価する傾向がありましたが、現在は日本でも成果主義を導入している企業が大半です。
やる気が出る日にしっかりアウトプットして、トータルで見て成果がきちんと出ていれば、「今日は全然やる気が出なかったな」という日があっても気にしない会社や上司も多いはずです。
とはいえ、状況的または精神的に「そこまで割り切れない」というケースもあるでしょう。そうした方には「セルフモチベーション」という考え方をおすすめします。
Q:「セルフモチベーション」とは何ですか?
A:
「セルフモチベーション」とは、自分自身のモチベーション(やる気)を自ら向上させるという考え方です。そんなことができれば苦労はしないと思うかもしれませんが、じつはやり方次第でちゃんと身につけることができるスキルのひとつなんですよ。
具体的には、次の方法を試してみてください。
■セルフモチベーションを向上させるふたつのコツ
(1)現状に感謝する
在宅勤務ができるということは、たくさんの幸運が重なっている結果とも言えます。
たとえば、
・仕事がある
・在宅勤務ができる職種に就いている
・会社が在宅勤務をOKし、システム環境を提供してくれている
・会社や上司が多様な働き方を認めてくれている
……など。
世の中には、さまざまな理由から在宅勤務ができない方もたくさんいます。在宅勤務ができる現状に感謝することで、自分の中の「仕事に取り組む姿勢」が変わるかもしれません。
(2)内発的動機づけを高める
内発的動機づけとは、「明白な外的報酬が全く存在せず、当該活動そのものに動機づけられている状態」のこと。(出典:『自己決定の心理学―内発的動機づけの鍵概念をめぐって』誠信書房)
つまり「内発的動機づけを高める」とは、お金をもらえるとか誰かに褒められるといった理由ではなく「その仕事をする根本的な価値」を、改めて見つめ直すことです。
「今やっているこの仕事は、会社や世の中の役に立っている」と考え、自信を持つことができれば、モチベーションも高まります。
■もしあなたが上司で、部下にモヤモヤするときは……
さまざまな疑問にズバリ答えてくださった西之坊先生。さらに「部下を持つ上司」の立場にある人に向けて、こんなアドバイスをくださいました。
「自分の中に『自宅で仕事をする部下はサボりがちだ』というイメージがある場合、上司としてストレスを感じるかもしれません。そんな方には、アメリカの心理学者ダグラス・マクレガーの言葉をお伝えしたいです。
マグレガーは、人間の動機づけの仕組みを考える理論として『X理論・Y理論』を提唱しています。
X理論とは『人は本来なまけたがる存在であり、命令や強制で管理し、バツを与えなければ目標は達成できない』という考え方です。
一方、Y理論とは『人は本来すすんで働きたがる存在であり、自己実現のために自らすすんで働く』という考え方です。
マグレガーは『上司はY理論にもとづいたマネジメントを行うと良い』と結論づけています」
もしもあなたが上司の立場にあって、部下に対して「サボっているのでは」とモヤモヤしてしまうときは、このY理論を思い出してみてください。
今後ますます増えていくであろう、テレワーク。モチベーションを上手にコントロールして、快適に働いていきましょう!
西之坊 穂(にしのぼう みのる)先生:
摂南大学経営学部准教授。研究分野は組織行動論・人的資源管理論・キャリア論など。日本と諸外国におけるフォロワーシップ、リーダーシップ、モチベーション、キャリアについて多くの論文・著書を執筆している。
佐藤彰男(2006)『テレワークの社会学的研究』/御茶の水書房
ソフトバンク「オンとオフの切り替え方法」https://www.softbank.jp/sbnews/entry/20200515_01(2020年5月16日付)
Deci, E.L.(1980)The Psychology of Self-Determination, D.C. Health & Company.(石田梅男訳『自己決定の心理学―内発的動機づけの鍵概念をめぐって』誠信書房)