▼苦手な上司の対応は、相手の「意図」を見つけることでグッと楽になる【職場の悩み相談室】
働き始めてしばらく経つと、仕事に慣れて楽になってくるもの♪……でも慣れたら慣れたで、今度は別の悩みが生まれて憂うつになったりしていませんか?
社会人になって数ヶ月〜3年くらいの新人・若手のみなさん。この時期とくに抱きやすいのは、次のような悩みではないでしょうか。
「苦手な上司との付き合い方が分からない」
「仕事が退屈、つまらない」
「入ったばかりだけど辞めたい」
「夢はあるけど自信がない」
「上司や先輩が忙しそうで質問しづらい」
「空気を読みすぎてストレスが溜まる」
「学生時代とのギャップに戸惑っている」
ひとりで悶々と悩んでいると、やがて仕事そのものがイヤになり、朝起きるのもつらくなってしまいます……。
そこでCanCam.jpでは、企業の教育プログラムを開発していらっしゃる新人・若手育成のエキスパートにお話を伺いました! 7つの悩みに1記事ずつ、全7回にわたり解決のためのノウハウをご紹介していきます。
今回はひとつめのお悩み、「苦手な上司との付き合い方」についてです。仕事の指示をくれる上司や、やり方を教えてくれる先輩。ありがたい存在ではあるけれど、苦手意識を感じてしまうと一気にストレスが溜まりますよね。
苦手な上司や先輩とは、どう関わればスムーズに仕事ができるのでしょうか? シンプルで効果的なコツを教えて頂きました♪
▼お悩み其の一「苦手な上司との付き合い方が分からない」
■新人Aさんの悩み
上司と自分の相性が悪いというか、すごく苦手なタイプです。とくに困るのは、指示が曖昧で分かりづらいところ。何を求められているのかイマイチ分からないので、「たぶんこういう意味だろうな」と推測しながら仕事していますが、なかなかうまくいきません。
良かれと思ってしたことが、逆に裏目に出てしまったり。指示通りやったつもりの仕事を「これじゃダメ!」と差し戻されたり。そんなことがしょっちゅうです。
叱るときの言葉もキツくて、上司も私を嫌いなんだろうなと思います。毎日つらいです。
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上司の指示が分かりづらい。共感してしまう方も多いんじゃないでしょうか……。嫌われていると感じるのもつらいですね。上司に対する苦手意識がどんどん募ってしまいそうです。
今回解決策を伺ったのは、株式会社リクルートマネジメントソリューションズの桑原正義さん。新人・若手の育成ノウハウ研究の第一人者で、企業向けのセミナーも多数開催。研究者というフラットな立場から新人サイドと上司サイド、両方の悩みに日々直接触れている、まさに職場の悩み解決のエキスパートです。
苦手な上司とのコミュニケーション、どうすれば楽になるのでしょうか?
▼苦手な上司への対処、最もNGなのは◯◯してしまうこと
桑原さんいわく、「上司や先輩が苦手だと、つい自分の殻に閉じこもりたくなりますよね。でも対処として一番NGなのが、殻に閉じこもってしまうことなんです」とのこと。
どうしてNGなんですか?
「ひとりで考え込んでしまうと、ネガティブな考えばかりが膨らみます。『もうダメだ。こんな上司とはやっていけない。もう辞めよう……』なんて性急な判断を下してしまいがち。でもたとえ転職しても、その状態では次の職場で同じことが起きるリスクが高いんです。自分のためにも、殻に閉じこもるのは避けましょう」
では、どうしたら良いのでしょうか?
▼上司がキツいのは「嫌われているから」じゃ…ない?
相談者Aさんは「上司も私を嫌いなんだろうな」と感じていますが、桑原さんが受けた印象は異なるそうです。
「新人・若手世代が『上司に嫌われているかもしれない』と思うケースは、多くの場合思い込みなんです。こう言うと『えー、思い込みじゃないよ』と感じるかもしれませんが、私の見てきた限りでは、少なく見積もっても半分以上はすれ違いによる思い込みでした。厳しい上司も、あなたを嫌っているとは限りません。その可能性はむしろかなり低いんですよ」
確かに嫌われていると思い込んでいるときは、何を言われても気休めに聞こえてしまうかも。でも実際に当事者同士で話してみると、「なんだ、そんなふうに思ってたのか」とお互いホッとするケースが多いのだとか。では、上司はどうしてAさんに厳しい叱責をするのでしょうか?
「上司の言動の裏には、言葉にしない『意図』があります。この『意図』に気づくことができれば、上司に対する苦手意識がぐっと減り、日々のストレスを減らせます」
◆じつは上司もかなり悩んでいる
桑原さんは、セミナー講師として上司や育成担当者と日々関わり続けています。その中でいつも実感するのは、「上司も悩んでいる」という事実なのだとか。
「部下が上司を『苦手だなぁ』と思う気持ちは、やっぱり上司にも伝わります。上司は部下が嫌いなわけじゃなく、あくまでも仕事として指示や注意をしているつもりなのですが、誤解が生まれて部下から距離を置かれてしまう。こうなると、どうコミュニケーションをとったらいいのか分からないんです。
でんと構えているように見えて、上司もじつは手探りで迷うことばかりなんですよ。最近はパワハラへの意識も高まっていて、上司側からアクションを起こすのはなかなか難しい。だから部下の側からちょっと歩み寄ってきてくれると、上司はすごくホッとします。新人・若手のみなさんが起こすちょっとしたアクションが、信頼関係を築きやすくしてくれるんです」
なるほど。上司との関係を良好にする主導権は、じつは私たち部下の方が握っているのかもしれません。
▼言動の奥に隠れた「意図」がコミュニケーションを楽にする
では、具体的にどんなコミュニケーションが効果的なのでしょうか? そのコツは、意外とシンプルなものでした。
◆コツ1 隠れた「意図」を探してみる
上司とコミュニケーションをとる際、ぜひ試したいのは上司の言動よりも「意図」に注目することです。
「意図」というと難しく聞こえますが、「本当の目的」と言い換えるとイメージしやすいかもしれません。上司の指示や注意・叱責には、必ず「どうしてそれを今言うのか」「言った結果どうなってほしいのか」という目的があります。ひょっとしたら上司本人もはっきりとは自覚していないかもしれませんが、その「意図」を見つけ出しましょう。
隠れた「意図」を見つけ出すには、上司が結局何をしたいのか見極める必要があります。指示が曖昧ならなおさら、「はい分かりました」とそのまま請け負ってはいけません。上司が結局どうしてほしいと思っているのか、意図を把握しておきましょう。
指示の「意図」を経験の少ない新人・若手が想像だけでパッと把握するのは難しいので、上司に直接確認するのがベストです。ただ、指示される度に「意図は何ですか?」と聞くのはちょっと気が引けますよね。ならば次のような質問はどうでしょうか?
「この作業でとくに外しちゃいけないポイントは何ですか?」
「こういう理解で合っていますか?」
部下がこんな質問をしてくれたら上司は嫌な気持ちにはならず、「ちゃんと理解しようとしてくれているな」と好印象を抱くものです。
失敗して注意を受けたときも、基本は同じです。厳しいことを言われても「私のことが嫌いなんだ」と思い込まずに、上司の「意図」を考えてみましょう。上司世代は厳しく指導されたおかげで成長できたと感じている人が多く、あなたのために良かれと思って厳しくしているケースも多いのです。
◆コツ2 自分の「意図」を伝えてみる
上司の意図を引き出すためには、自分の「意図」についてもきちんと伝えることができると効果的です。具体的にどういうことなのか、先ほどのAさんの例で見てみましょう。
■ケース1 良かれと思ってした行動が裏目に出てしまった
Aさんは仕事を効率的にやろうとして、いくつかの手順を飛ばしました。すると「手抜きしないでちゃんとやって」と叱られてしまったのです。そんなときは「このやり方なら効率アップできると思ってこうしたんですが、まずかったでしょうか」というふうに、自分の意図を伝えてみましょう。
Aさんの意図が伝われば、手抜きするつもりではなかったことも分かります。上司も「そういう理由があったのか」と納得できますし、「正しい手順を踏まないとミスが起きやすくなるんだよ」と、叱った意図を教えてくれるかもしれません。
■ケース2 指示通りやったのに「これじゃダメ!」と差し戻された
このケースは、指示を受けた時点で上司の「意図」をきちんと把握できていなかったことが原因のようです。上司の指示の出し方にも問題が見えますが、Aさん自身も工夫することで今後はより良い結果が出せそうですね。
そもそも、どうして曖昧なまま仕事を進めてしまったのでしょうか?
「だって上司がいつも忙しそうで、質問しづらいんだもん」という理由だったとしましょう。その場合、上司にこう伝えてみるのはどうでしょうか?
「お忙しそうだったので細かいことまで質問するのは気が引けて、自分で判断してしまいました。ちょっとお手数かもしれませんが、今後は些細なことでもその場で聞いていいですか?」
こんなふうに聞かれたら、「ダメ、質問しないで」と言う上司は滅多にいないでしょう。曖昧な指示によるストレスもなくなり、一石二鳥です。
◆コツ3 第三者の意見を聞いてみる
上司に直接聞くのが難しいときは、第三者に相談してみましょう。おすすめなのは、信頼できる身近な先輩に上司の「意図」を聞いてみることです。
先輩は、自分より長く上司を見てきています。ある意味、上司についてのエキスパートと言えるかも。そんな人に「どうしてああいう指示をするのか」「上司は何を求めているのか」を相談して、ヒントをもらいましょう。
▼第三者に相談したい!そのときに気をつけるべきこと
「上司に苦手意識がある」というのは、なかなかデリケートな問題です。誰かに相談する際に気をつけると良いポイントをチェックしておきましょう。
◆ポイント1 相談相手は信頼できる先輩が◎
先ほど少々触れたとおり、相談相手に最適なのは信頼できる身近な先輩です。今回と同じようなケースを見たり経験したりしてきた可能性がある先輩からは、有益なアドバイスをもらえる見込みがあります。肩書きはあってもなくてもかまいませんし、同じ部署の人でも別の部署の人でもOKです。ただし秘密を守ってくれる口の堅い人という鉄則だけは守りましょう。
内容によっては、会社の人事部や「上司の上司」にあたる人への相談が効果的な場合もあります。ただ、新人・若手にとっては少し敷居が高い相手かもしれません。まずは信頼できる身近な先輩に相談することで、上に取り次いでもらえるケースもあります。
◆ポイント2 悪口は言わない
苦手な上司についての相談は、一歩間違うと「ただの悪口」と思われてしまうリスクがあります。上司の悪口を言いふらしている新人だと思われると、かえって状況が悪化してしまうため注意が必要です。
「あの上司ほんとに使えない」なんて言い方はNG。相手は「いや、新人のあなたの方が使えないけど」と感じるかもしれません。ストレスを発散したいだけなら別ですが、悩みを解決したいなら「使えない」「全然分かってない」「指示が意味不明」といった上司を責める言い方は避けた方が無難です。
◆ポイント3 ここでも自分の「意図」を伝える
では、どんな言い方で相談したら良いのでしょうか? じつはここでもポイントは同じ、自分の「意図」を伝えることです。
相談相手に「こんなことがあったんです」と出来事を伝えるだけでなく、「私はこう考えたので、こんな行動をとりました。でもダメだと言われてしまって、どうしてなのか分からず悩んでいます」というふうに、自分がなぜそうしたのか「意図」も含めて説明します。こうすると、ただ上司を責めたいのではなく、建設的に問題を解決したいのだという意思が相手に伝わりやすくなります。また、もらえるアドバイスもずれたものになりにくいです。
◆ポイント4 第三者から見た上司の「意図」を聞く
さらにおすすめなのは、相談相手から見た上司の「意図」を聞いてみることです。
「あんなにキツい言い方をするのには、何か理由があるんでしょうか?」と聞いてみると、当事者の目には映りづらい「意図」を教えてもらえます。「あの人は誰にでもそうだから」とか、「同じミスで大失敗した社員がいたから、あなたを心配しているのかも」とか、フラットな意見を教えてもらうと納得できることもあります。
ひょっとしたら、相談相手も似たようなことで悩んだ経験があるかも。どう解決したかを聞けたら、それも大きなヒントになりますね。
▼まとめ:苦手な上司と接するときは、「意図」を見て「意図」を伝えよう
苦手な上司とコミュニケーションをとるときは、言葉だけでなく「意図」を知り、また自分の「意図」も伝えることがポイントです。それを意識しながら会話にリトライしてみましょう! 直接聞くのが難しければ、周囲の信頼できる人に「意図」を意識した相談を持ちかけてみましょう。
「嫌われている」と思い詰めすぎず会話にちょっと工夫をするだけで、上司との関係が今よりずっとスムーズになるかもしれません♪
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次回は、「つまらない仕事を楽しくするコツ」について伺います。
1992年、人事測定研究所(現リクルートマネジメントソリューションズ)入社。営業、商品開発、マーケティングマネジャー、コンサルタント職を経て、現在は「新人・若手の育成」をメインテーマとした企業向けトレーニング・研修の開発に携わる。育成ノウハウの体系化に取り組むと同時に、上司・育成担当者向けのセミナーを広く開催。時代に即した新たな「育成のアタリマエ」の普及に尽力している。東京都公立幼稚園・こども園PTA連絡協議会副会長。https://www.recruit-ms.co.jp
(取材・文/豊島オリカ)