今どき、専門分野だけじゃ生きていけない【転機の社会人留学】

【ゆとり以上バリキャリ未満の女たち】第7弾「転機の社会人留学」Vol.3


「ゆとり以上バリキャリ未満」を生きる女子のルポルタージュ連載の第7弾がスタート!
今回の主人公は、開発職として安定した仕事につきながら、32歳にしてアメリカへMBA留学を決めたエミリ
学生同士の関係性には″クラスメイト″というような距離感の近さはなく気楽なもの。今、頭の中は春休みの南米旅行のこと。「留学中には旅行で貯金を全部使い切ってもいい」そう決めたエミリの理由とは?

>Vol.1 1,000万使い切るほど旅したい【転機の社会人留学】
>Vol.2 短期留学で得られたもの、得られなかったもの【転機の社会人留学】

●原エミリ(32歳)製薬会社勤務

1985年生まれ 大阪府出身 杉並区在住
大学の薬学部卒業後、大学院でバイオサイエンス研究を専攻。修士課程修了後、外資系製薬会社に入社。2年勤務して現在の会社に転職。現在5年目。研究開発職。
似ているタレント:松たか子
理想のタイプ:小泉孝太郎・進次郎
パートナー:あり(未婚)
手取り月収:33万円

 

「転機の社会人留学」Vol.3【専門分野だけじゃ生きていけない】

■資格マニア、加速してます


短期留学を繰り返しながら、エミリは国際NGOでのボランティア活動も継続していた。途上国の女性たちの働き方について情報を集めたり、それを国内で発信したり。医療業界での不正が話題になったころに始めたものだ。

 

「そのNGO団体を支援するチャリティーランナーとして東京マラソンに出たり、健康に関心をもってフードアナリストの資格を取ったりもしました。それから、ワインソムリエの資格も取ったし、それをきっかけに新しい仲間が増えたり。元々食べることが好きだし、仲間から新しい情報をもらうことも楽しいです。今では、安いところからちょっと高級なところまで、外食に関してはずいぶん詳しくなりました。仲がいい人は知っていますが、私、食べログの投稿も800件以上は書いているんです。ニックネームは……秘密です(笑)」

 

職場では、健康のための食事やおいしい店選びについてエミリに聞くのが当たり前になりつつある。飲み会の幹事を頼まれたり、飲みに行こうと誘われたりも多い。食は本当に大事なコミュニケーションツールだと思う。

 

「食べログに載せる写真はずいぶん撮り慣れました。口コミに書くのはあくまでの自分の好みだと断った上で、何がどうおいしかったか、どんなお酒と料理が合うかなど、同じ嗜好の人の参考になればうれしいです。文を書くのは好きなので、たまに長くなってしまうけれど、それも好きな人だけ読んでもらえればって思っています。新しい店の情報は、資格仲間の集まりやFacebookから得ることが多いですね。資格仲間を通じて、食の知識を仕事にしてみないかというお誘いもいただいたりします。ありがたいけれど、私の中ではあくまでも仕事は薬の開発だけ。ブログからお金を得ようとも、思いません。私の食レポは、素人目線だからいいんです、きっと」

 

「広い視点をもつこと」はいつもエミリの頭にある。けれど、それは仕事の幅を広げるという意味ではない。やろうとしているのは、世の中との接点を広げて大きな世界から専門分野を見ること。気にするべくは、SNSの「いいね!」数や上司の評価ではなくて、もっと広い世界の道徳とか倫理観とか(そう言うと堅苦しいけど)にある。近くにいる仲間だけでなく、ましてや自分のためでなく、世界の人たちがどう思うか、どう力になれるか。その想像力をもてるか。専門分野を極めるうえで、そして仕事をする上で必要なことなのだ。

 

■価値観が真逆の彼


短期留学を繰り返して会話力を上げながら、海外との仕事は順調にこなせるようになってきた。責任も大きくなってきたのはうれしいけれど、すなわちMBA留学のための長期休暇を取りにくくなるということでもあった。それに、本当に現地での授業についていけるか不安もある。仕事を休むタイミングを見計らいつつも、MBA留学に行かなかったとしても後悔がないように、MBAのeラーニングを始めた。払ったお金は約100万円。

 

「広い視野をもちながら薬の専門分野を見る、という意識は変わっていません。30歳になる前、転職したりいろいろな資格を取ったりして世界が広がって、それはそれで充実していました。仕事は変わりませんが、そうなるとさらに難しい資格を取りたいと思えてきて。資格マニアはどんどん加速してます(笑)。MBAのeラーニングは、ネットで講義を聴いて、週末にレポートを書いて提出します。ビジネスシーンで必要な経営戦略や考え方、リーダーシップのための行動や人材マネジメント……。ふだんの開発職とは違う考え方を学ぶのは、違う国の言語を学ぶことと似ていて、楽しいんです。そのころ一緒に住み始めた彼は、『楽しそうだねぇ』と不思議そうによく言っています。いつか長期留学もするつもりだと、彼にも伝えていますが、『ふーん』という感じ。お互いに依存しないでやろうね、っていつも話しているからだと思います。私がひとりでも人生を楽しめるタイプなので、彼にもそうであってほしいんです。結婚は……、しばらくはないと思います」

 

7年前に飲み会がきっかけで付き合い始めた彼とは、お互いの住まいの賃貸更新が同時期だったこともあって、同居が始まった。ゆくゆくはエミリが留学で家を空けるということもあり、金銭的にも物理的にも合理的だというのが大きな理由だ。彼は音楽をつくったり、ライブを演出したりというのが仕事で、学歴や資格、企業やマネジメントなどとまったく関係のないところで生きている。旅行にも英語にも、興味がないらしい。ここまでエミリとの接点がないと、お互いに依存しない関係ができあがって、とても心地いい。

 

短期留学やeラーニングを経て、「やっぱり本格的に留学してMBA取得を目指したい」と思うようになったのは、自然なことだった。新薬の大きなプロジェクトが終わる半年後を留学スタートと決め、上司にもリフレッシュ休暇取得を申請した。リフレッシュ休暇は、勤続5年以上の社員が取得できる、最大1年間の休暇だ。無給ではあるけれど、職場復帰後は休暇前と同じ職場に戻ることが約束されている。

 

>最終回「仕事や他人に振り回されないためにやるべきこと」へ続く

 

>Vol.1 1,000万使い切るほど旅したい【転機の社会人留学】
>Vol.2 短期留学で得られたもの、得られなかったもの【転機の社会人留学】

 

文/南 ゆかり
「CanCam」や「AneCan」、「Oggi」「cafeglobe」など、数々の女性誌やライフスタイル媒体、単行本などを手がけるエディター&ライター。20数年にわたり年間100人以上の女性と実際に会い、きめ細やかな取材を重ねてきた彼女が今注目しているのが、「ゆとり世代以上、ぎりぎりミレニアル世代の女性たち」。そんな彼女たちの生き方・価値観にフォーカスしたルポルタージュ。

 

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