WI 最後の追い込みの際には、歴代の文豪が使ったことで有名な「合宿所」に入られた、と聞いたのですが、本当ですか?
押切 「新潮社クラブ」という合宿所みたいな、作家さんが寝泊まりするところがあるんです。校了のときはそこにこもって、直した原稿をその場で編集者に渡す、それを戻してもらってまた確認……という作業を、十何時間やっていましたね。
WI その環境、すごく追い込まれ感がありますね……!
押切 2階に著名な作家さんがいらしたり、辞書か何かをつくっていらして5日間缶詰、みたいな建物なんです。そこに編集の方が一緒に張り付いてくださるので、集中できるという環境ではありましたね。「できました」って原稿を渡すと、その10倍速の勢いで「押切さん、ここなんですけど……」って戻って来るかんじ(笑)。
WI 心身ともに鍛えられますね。
押切 校了とか、粘りすぎて予定をすごく押しちゃったんじゃないかなあ。(小説新潮の)編集長にお会いした時に、「今うまくなる時期だから、直したくて仕方ないでしょう。そういう時期はあっていいんだよ」って言ってくださったのが印象的でしたね。そうやってやり尽くした、1年間あれだけやったっていうのは、自分の力になっている気がします。
WI その「直す」という作業なんですが、具体的にどういったところを直したくなるものなんですか?
押切 たとえば、5章の『アキと月色のネイル』を書くにあたって、LGBTの方に取材をさせていただいたんです。「自分たちの考えていることを知ってほしい」と、たくさん話していただいたのに、私はどこか踏み込みすぎちゃいけないと思ったまま、短篇を書き上げました。後日それを読んでいただいて、「悪くはない、でも僕たちが真剣に悩んでいることを書ききれてない」と言われたときに、ハッとしたんです。私が勝手に遠慮して書ききれてなかったことが、結果的に相手を傷つけてしまった。この方たちの苦しみや思いはそんなものじゃない……って。だからその場でメモ出して話をまた聞いて。そこから言い回しだったり、細かいところを修正していった、ということがありましたね。
WI そういう直しのイメージや台詞って、どんなときに浮かぶものなんですか?
押切 普段は他の仕事の現場などで、誰かがふと言ったことを「ああ、コレ使えるな」と思ってメモしておいたり、夜中ぱって思い浮かんだり……。でも、さすがに校了の追い込みのときは、夢の中でも考えていて、起き抜けのぼーっとした頭でも「あ、あのセリフ変えよう」みたいなことを考えていたりして。ちょっと不眠症気味でしたね。
WI それは壮絶でしたね……体壊したりはしませんでしたか?
押切 実は前回とにかく太って、本業を失うところでした(苦笑)。「座りっぱなしで運動しないと自分はこんなにもむくむ」ということを実感したので、執筆作業のあとは必ずジムやヨガの時間をつくる、週に1回は絶対運動するというのを、最初からスケジュールに組み込むようにしていました。
WI 健康をキープしたままその生活を乗り越えるっていうのはすごいですね。
押切 だからというわけでもないですけど、最近大豆にはまってて、現場には豆腐を持参するようにしてるんです(笑)。体力作りにタンパク質はやっぱり大事だなって(笑)。
これだけ繊細で緻密な作品をつくりあげただけに、どこか「作家然」としていらっしゃることも予想していたのですが、今までと変わらぬ気遣いとユーモアの人。「次があるとしたら、ちゃんとした恋愛ものを書いてみたい」と笑う、屈託のない笑顔がとても印象的でした。(五十嵐ミワ)
『永遠とは違う一日』
著者/押切もえ 1,512円+税(新潮社)
【あわせて読みたい】
※「助産師さんがトイレで泣く、その気持ちを書きたかった」押切もえインタビュー
※押切もえが「しくじり先生」に!はたして彼女は何をしくじった?
※AneCanモデル有村実樹、フジテレビ榎並アナと結婚!「信頼できるパートナーを…」