2016年、和樂編集長が注目するのは、美術、京都、そして…!?

「雑誌の編集長」とは、その時代を作る存在です。

Woman Insightの年末年始企画として恒例になっている、小学館女性誌編集局が発行している『CanCam』『美的』『Oggi』などの雑誌編集長インタビューシリーズ、今回は『和樂』編集長シリーズ後編です。

『和樂』について説明しておくと、「和の心を楽しむライフスタイルマガジン」。和の魅力はもちろん、洋の文化やファッションなど、さまざまなテーマから「本物の美」を提案し、日本のみならず海外でも評判の雑誌です。

『和樂』2016年1・2月号表紙

さて、そんな『和樂』編集長の高木史郎さんに、前回は今年の振り返りや日本文化の面白さについて語っていただきました。
今回は今注目している日本文化についてお届けします!

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Woman Insight編集部(以下、WI)2016年、『和樂』編集部が力を入れて取り上げていきたいものを教えてください。

高木史郎編集長(以下、高木)2015年に引き続いて、美術、京都……あとは、地方のいいものですね。

 

WI 「地方のいいもの」とは?

高木 地方に行くと、「本当にいいもの」があるんですよ。よく東京や都市の目線で、「地方の職人の方はやれデザイン力がない、ブランディングをしきれていない」という声を聞きますが、そんなことはありません。その土地その土地に素晴らしいデザインのものがあります。むしろ、変に東京を意識してしまって、間違ったブランディングやデザインをしてしまったところが少しおかしくなってしまっていることがあるほどです。もともとその土地にあるいいものをきちんと拾い、広く伝えていきたい……と考えています。

 

WI たとえばどのようなものでしょうか?

高木 青森に「くぢらもち」というお菓子があるんですけれども、そのパッケージは、マイナーチェンジはあるかもしれませんが、何百年も変わらないものです。岩手のかりんとうも形がすごく美しいですし、東北の宮城から岩手の沿岸地方では、神社に務める神職の方々によってつくられた縁起物の切り紙の「キリコ」という文化がありますが、まさに美しい文化そのものです。3月からwebマガジンを創刊して毎日更新していきますから、そちらのほうで特にそういう「地方のいいもの」を取り上げていきたいと思います。

 

WI あら、webマガジンを創刊されるのですか?

高木 はい、「イントゥジャパン」というwebマガジンを創刊する予定です。編集部が運用をしますが、『和樂』と紐づくのではなく、まったく別の媒体である、という位置づけでやっていく予定ですね。

 

WI ちなみに、「地方」にはいつ頃から注目をされていたんですか?

高木 「クールジャパン」や「プロデュース、ブランディング」という言葉に違和感があったんですよね。なんでだろう……と考えていたのですが、そもそも、今あるもののよさを紹介しきれていないのに、「ブランディング」も何もないだろうと。だから、まずは今あるものを変えるのではなく、「そのもの」自体にこんなに価値があるんだよ、ということを紹介していきたいと考えました。日本の「わざ」って、日本以外の世界に残っている「わざ」を全部足した数より多いと言われているんですよ。

 

WI そんなに!?

高木 「日本の文化は多様性にある」の話に繋がりますが(※前編参照)、それだけその地方によって違うものがあって、多様なんです。よく雪の結晶の話に例えているんですが、雪の結晶って有史以来同じものがひとつもない、と言われています。日本文化はそのくらい「多様性」があります。欧米は「画一化」に向かっているのと時を同じくして、日本も少しずつ「画一化」に向かってはいますが……でも、こんなに昔からの文化がたくさん残っているところって、他にないですよ。

 

WI そんなに「多様性」があるのに、わざわざ「画一化」させてしまうのって、もったいないですよね。

高木 本当に。国自体が世界遺産のような国なので、それを、都市から押し付けるような「ブランディング」「プロデュース」をしてしまっては、多様性がなくなってしまいます。ただ、その流れに向かっている方向はありますよね……。でも、もしそれが「メインカルチャー」になるのであれば、その対抗としてカウンターカルチャーが絶対に生まれるはずです。『和樂』は「こうあるべきだ」には乗らないほうをやっていきたいですね。

 

WI 他に何か『和樂』でやっていきたいことはありますか?

高木 出版文化を守っていきたいですね。先ほどまでの多様性の話じゃないですけど、日本の出版物のレベルは素晴らしいものがあります。『和樂』編集部は出版文化そのものも大事にしていきたいので、『和樂』本誌はもちろんですが、それ以外も美しい本を丁寧に作って、美しい本の限界にチャレンジしたいと考えています。「美しい本を作りたいときはまず『和樂』に声をかける」となったらありがたいですね。「工芸」レベルまで、本の存在を高めたい、と思いながら日々やっています。