信念は「意に反することはしない」。自分を信頼して進む、鞘師里保の現在地

鞘師里保さんが、約4年半のインディーズレーベルでの活動を経て、ソロメジャーデビュー! 6月に、メジャーデビューシングル『Super Red』、そして7月23日にEP『Too much!』をリリースしたばかり。
音楽の話、そこから出てきた人生観、そしてちょっと意外なプライベートまで♡鞘師さんの“今”に迫ります!

―改めて、メジャーデビューおめでとうございます! モーニング娘。としてのデビュー、自主レーベルでの音楽活動開始、そして今回のソロメジャーデビューと、鞘師さんにとって大きな始まりが3回あるように思いますが、それぞれの始まりの感覚はどう違いますか? それとも通じるところがありますか?

「12歳でデビューしたときは、単純に『やったぁ! デビューできる!』と、昔のほうが断然楽観的でした(笑)。今はさすがにいろいろと考えるんですが、ワクワクする気持ちは毎回変わりません」

 

―何に対するワクワクが大きいですか?

「どういうワクワクなんでしょう。考えてみますね。……まずは、環境が変わるので、ご一緒できる人たちとの新しい出会い。その人たちと作り上げた楽曲を届けられること。もちろん、『どれだけたくさんの人に届くかな、聴いてくれるかな、ちゃんと響くかな』と心配もありますが、それよりも、素敵な新曲を聴いてほしい、というワクワクです」

 

―これまでの自主レーベルでの活動とメジャーデビューで、変化を感じたポイントは?

「まず、関わってくださる方の数が増えたのが大きな違いです。そして、私が『こう表現したい』と伝えたことへのアウトプットへの提案が新鮮で面白くて。ご一緒させていただくことが楽しいと、ポジティブな感情がたくさん湧いています」

 

―中でも印象的な「新鮮さ」はどんなものでしょうか?

「嬉しかったのは、私の『熱い部分』を感じ取ってくださる方がすごく多かったこと。初対面でありながら、私が日々大切にしている信念や想いまで感じ取ってもらえたこと。そこから、『鞘師里保という人間が、このテーマで歌いたい』と伝えたときに、『こういうビジュアルで、こういう楽曲にしたら、その意図が伝わるんじゃないか』と、楽曲やビジュアルの表現への提案が、伝えたい、表現したいことの方向性が一致しているのを感じて、嬉しかったです」

―ファーストEP『Too much!』は、どんなテーマで作り上げたのか、改めて教えてください。

「EP全体で掲げたテーマは、まさにタイトルの『Too much!』。私自身が『ちょうどいいところで生きるのって、難しいな』と思っていて。

たとえば、頑張りすぎるとき、逆に頑張れなさすぎるとき。そして後で振り返ったときに考えなさすぎたなと反省したり、もっとこうできたんじゃないかと考えすぎることもある。『ずっと、何も考えずに安定して生きる』ことが難しいタイプ。そこから、ちょっと頑張りすぎて疲れちゃうな、という方に届くEPにしたいと、コンセプトを提案しました」

 

―『Too much!』というタイトル自体も鞘師さん考案ですか?

「そうです。今思っているいろんなことを、伝わりやすく、覚えやすく、ポップな印象もありながら言い表せる言葉はないかとずっと考えて。そのとき思いついたのが『Too much!』。このフレーズは普通に使うと『〜すぎる』という意味ですが、『You’re tou much!』など、褒め言葉として、『素晴らしい! 最高だね!』といった意味で使うスラングでもあるんです。いろいろあるけど人生って最高だよねとか、そういった思いも込めています」

 

―それぞれの楽曲についてはどうでしょうか?

「平均的な場所にいるところから、ちょっとはみ出したところにある気持ちを歌っている曲が多いです。先に配信シングルとしてリリースした『Super Red』は、今いるコンフォートゾーンから出よう、という私自身の新しい一歩の決意。はたまた異世界転生をテーマにした『転生chu☆』では、大人だってそういうこと考えるときあるよ(笑)! ということを出していたり。いろいろなテーマを散りばめました」

―4年半自主レーベルでやっていたところから、メジャーデビュー。鞘師さん自身もコンフォートゾーンから出たい、という気持ちが大きい時期でしたか?

「そうですね、心地いい場所を現状維持するという状態でさえ、実は『今の自分のちょっと上』をいかないと難しくて、過去の自分は結構苦労していました。そうやって少しずつ自信をつけて、自分のことも昔より信頼できるようになって。ぐっと上に向かって、大きく踏み出してもいいんじゃないか、と思えるくらい、自分への信頼ができるようになりました」

―「自分を信頼する」って、なかなか難しいように思いますが、こんなきっかけでできるようになった、というものはありますか?

「経験を積んで、曲を作ることについて知識がついたこと。あとは、以前は気持ちが落ちてしまうと、立ち上がらせることが難しい時期もありました。今は、人に助けてもらうことももちろんありますが、ある程度自分で支えられるようになってきました。何かひとつのきっかけというよりは、大切にしなきゃいけない自分の中心が、ここ4年くらいの積み重ねでできてきたイメージです」

 

―もし、今の鞘師さんが、4年前の鞘師さんを見たとしたら「ここが明確に変わった!」というポイントを挙げるなら、どんなところですか?

「そうですね…たとえば仕事でミスをしてしまったとき、以前は自分に対して『なんでできなかったの? なんで? ダメじゃない! 失格!』…みたいな(笑)。そういう厳しい見方をしていました。けれど、今はちゃんと自分が自分に対して味方でいてあげられるようになって、何か失敗しても『失敗しちゃったね。何が原因だったかな? じゃあ次はどうしたらいいかな?』と冷静に前向きに見られるようになったのが、うれしい変化です」

―今回のEPでも、『27yo』と『beyond』の2曲で作詞を手掛けられています。作詞にまつわるエピソードを教えてください。

「今回は先にテーマを決めて、曲だけができている状態でyaccoさんとスタジオに入って、レコーディングしながら書き上げていったので、かなり引っ張っていただきました。私が書いた部分と、共作してくださったyaccoさんに伝えたい思いを歌詞にしてもらった部分の両方があります。まずAメロを書いて、歌って、録音して、次はBメロ、サビと書いては歌って。ときには言葉によって元々のメロディを変えてみたりもして。8時間くらいでできあがりました」

 

―速いですね! それはよくあるんですか?

「珍しいパターンかも? と思います。ちなみに前に自分ひとりで歌詞を一曲丸々書いたときは、2〜3週間かかりました(笑)。そのときは、朝から『今日は何時まで書くぞ!』と決めてやっていました。家で書くこともあれば、カフェに行ってかくことも。家だと『ちょっと休憩しようかな』と思っちゃうときがあるので(笑)」

 

―今回作詞した中で「このフレーズが特にお気に入り」というものを挙げるなら?

「『beyond』に『忘れらんない仰天エピソード』という歌詞があるんですが…これですかね。何か表現したいことに対して、『100ある情報を1にしている』ということも多いんですが、この部分はまさにそう。yaccoさんとふたりでえげつない話をいっぱいして、フフフ(笑)。この曲では、人生を振り返るような『走馬灯』がテーマ。そこで、人生でこれまで何があったのかたくさん話し合って。自分の話や、友達の話…いろいろな仰天話を、具体的にせずにあえてぎゅっと集約したので、印象的です」

―12歳でデビュー後、留学を経て、長く活躍されてきて、ずっと変わらずに大切にしていることはありますか?

「(少し考えて)……自分の意に反することはしない。

降ってきたことを何も考えずに、『これは良いことだろう』と全部そのまま受け入れることはないです。
もちろん、新しいことを始めるときは、それが良いことに繋がる可能性も、そうでない可能性も、どちらもある。考えた上で、自分が思っていることをお伝えしながら、それが必要である理由や意味を自分で納得してから、新しい一歩を踏み出します。

それはずっと、自分のために大切にしていることです。ずっと昔は、納得する前にスピード感勝負で何かに取り組まなければいけない時期もありました。今思えば『これが続いたら、自分が空っぽになってしまうかも』という危機感のようなものを感じる瞬間もあったな、と感じます。だからこそ、今、自分の意に反することをしないというスタイルで生きていけているのは、幸せなことかもしれないな、と思います」

―映画やドラマ、舞台など、俳優業も活発です。音楽モードと俳優モードでは、鞘師さんのスイッチは異なるものなのでしょうか?

「自分の力を最大限に発揮するために必要な要素は、どちらも同じかなと思います。どちらも意気込みすぎると、理想的なパワーが出ない。それが、現場に慣れたり、練習して体を慣らして、どこかリラックスした状態で臨めるようになると、『あっ、こういう風にしたかった』と理想のパフォーマンスができる。

そして、ライブもお芝居も、人とのコミュニケーションであることは変わりません。ただ、ライブは基本的に自分が引っ張っていくものだという感覚がありますが、お芝居は基本的に何があるかわからないところは違いますね」

 

―俳優業が音楽での表現に生きることはありますか?

「ステージに立つときは、どうしても『かっこよく魅せる』『華やかでいる』という意識が強い時期がありました。ただ、しっかりお芝居をするようになってからは『人生を体現する』意識が増えました。わかりやすく言うなら『私、今、キラキラしてるでしょ!』とか、そういうことではなく『こういう経験を経た私が今、ステージに立っている』と、自分自身の背景も感じるようになったイメージです。エンターテインメントとして、より皆さんに届く作品にするためにはどうすべきかはまた別で考えていますが、自然体でステージに居られるようになったと思います」

 

―ファンの方からの反応は変わりましたか?

「私の気持ちが変わっただけで、ファンの皆さんから見るとそんなに大きく変わっているようには見えていないかもしれません。

ただ、歌とは別ですが、ライブのMCで、どんどん何も考えずに話せるようになりました(笑)。前は、『ちゃんと喋らなきゃ』と、歌よりMCで緊張して、ライブ前に毎回悩んでいて。モーニング娘。時代に、ツアーにMCの先生が帯同していて、毎回ダメ出しをいただいて、なかなかうまく言葉選びができなくて…といったところから、つい緊張してしまうようになりまして(笑)。でも今は『まあ、私ひとりだから!』と気楽に喋れるようになって、皆さんにも寛容な心で面白がってもらえているかなと。『また今日もしょうもない変なこと言ってたね〜(笑)』と思われるくらいでいいやと、それをパフォーマンスとのギャップとして楽しんでもらえているなら、それでOKとポジティブです」

―今、最も興味を持っていることを挙げるなら?

「温泉旅行です。まだ何も調べてないんですが、行きたくって。

前は、旅行に行くならいっぱいお店を調べて、あれもこれも行きたいと、どれだけアクティビティできるかという気持ちになっていたんですが、最近ホテルでリラックスすることが目的の“ホカンス”が流行っているじゃないですか? やったことがないのでやってみたい! お休みがあっても、『これからどうしていこうかな』とつい考えながら過ごしてしまうので、何も考えず、スマホも持たず、ゆっくりした時間を過ごしたい。自然が見える場所で、できるだけ人の影を感じない場所で、ただひとりで、一言も喋らず2日間くらい過ごしてみたい。完全に都会の生活のしかたになってしまっているので、ちょっと離れたいんですよね。

でも去年、実はちょっとだけそれっぽいことはしたんです」

 

―あら! どちらに?

「『明日行こう!』と突然思い立って、自分で車を運転して長野の松本に行きました。それなりにちゃんと賑わいながら、まったりした時間が流れていて、水もきれいで、ごはんもおいしくて、お蕎麦やお魚を食べて…めちゃくちゃいい街でした。

で、本当は泊まるつもりはなく、日帰りの予定だったんですが……どうしてもビールが飲みたくなって(笑)。スケジュールにも余裕がある時期だったので、急遽温泉がついているホテルを探して、ひとりでビアガーデンに行きました。周りはカップルや夫婦の方が多かったんですが、私は堂々とひとりで長野の地ビールを飲んで。最高でした。それをもっと時間があるバージョンで、温泉入って、ビールを飲んで、お魚を食べて、自然を味わって…フフフ。想像するだけでいいですね(笑)」

―いい話を聞きました(笑)。それでは最後に、表現者として目指す像を教えてください。

「まずは、曲を聴いてくれる方やパフォーマンスを楽しんでくれる方と、コミュニケーションを取っている感覚を忘れないようにすること。そしてメジャーデビューというタイミングで、これまで積み重ねてきたものを、もっと多くの人に聴いてもらえるように頑張りたいです。
いろんなことに興味を持って、多くの方と関わりながらEPを作って。幅広くチャレンジさせてもらえる機会をいただいて、いろんな活動をするようになって…。これからも、自分で可能性を狭めず、どんどん広げていきたい。そんな意思が伝わったらうれしいです」

 

▼PROFILE
鞘師里保
1998年5月28日生まれ、広島県出身。
幼少期よりアクターズスクール広島にてダンスを始める。
2011年に当時12歳でモーニング娘。9期メンバーとしてデビュー。2015年12月に同グループを卒業し、以降はダンス留学のため渡米。
2020年より芸能活動を再開し、2021年8月に自主レーベル「Savo-r(セイバー)」を設立、ソロアーティストとしての音楽活動を開始。これまでに3枚のEPと1枚のALをリリース、全国ツアー4度開催。ビルボード公演も3年連続で行っている。2024年には俳優活動が活発化。地上波ドラマ、舞台で主演を務めるほか、『孤狼の血』チームが再結集した、白石和彌監督、山田孝之&仲野太賀主演映画『十一人の賊軍』へも出演。
2025年より、avexからメジャーデビュー。11月からはミュージカル『デスノート THE MUSICAL』への出演も決まっている。

<HP・SNS>
HP:rihosayashi.jp
Instagram:https://www.instagram.com/riho_sayashi_insta/
X:https://x.com/sayashi_staff
YouTube:https://www.youtube.com/@rihosayashiofficial6185

▼INFORMATION
EP『Too much!』発売中
一生懸命「すぎる」人々に寄り添い、元気づける音楽。気鋭の楽曲やビジュアルが集まった、まさに “Too much!”な1枚。

2025年7〜9月、全国9都市を巡るライブツアー「RIHO SAYASHI 5th Live Tour 2025 Too much!」を開催中。
撮影/安川結子 構成/後藤香織