◆多彩な色の組み合わせ
初夏の早朝、南風を受けて一瞬赤く染まった富士山を切り取った『凱風快晴』。通称「赤富士」は『冨嶽三十六景』の中でも珍しい、山の全景が描かれた2図のうちのひとつです。
赤い富士の山肌、鰯雲が広がる青い空、そして点描とぼかし摺りを用いて緑がかった裾野の樹海。わずか3色で構成されたシンプルな絵は、彩色の美しさで耳目を集めた錦絵の中にあってもひときわ鮮烈で、海外では驚きの目で迎えられたと言います。
特に注目されたのは青空の澄んだ青。これは当時西洋からもたらされた人工顔料ペルシアンブルー、通称「ベロ藍」によるもの。『冨嶽三十六景』の美しさの裏には、新たに開発された舶来の顔料があったのです。