近世までの世界の美術史では、絵画はいわゆる上流階級のもの。表現にはたくさんの約束事がありました。
その点、庶民芸術であった“浮世絵”に制約はほとんどなく、大衆の望むものを描くことを繰り返すうち、急速に発展を遂げたのです。
版画でありながら、色鮮やかで描写も構図も自由自在……『和樂』5月号ではそんな“浮世絵”を大特集! その比類なき魅力を支える奇跡の10大技法をご紹介します。
◆世界が熱狂した大首美人
浮世絵の美人画と聞いて真っ先に思い浮かべるのは、上半身をクローズアップした構図のものではないでしょうか。それは、今や美人画を代表する存在の「美人大首絵」と呼ばれるもの。
注目すべきは3点。まずは、やけに心をそそる物憂げな眼差し。単純に見える目の描き方のようですが、喜多川歌麿はここで女性の気持ちを見事に表現しています。さらに、鮮やかな紅色の唇で、恋に身を焦がす女心を感じさせ、情感あふれる表情を描写しているのです。
そして2つ目は、大きく結った髪。大きく張り出した鬢(びん)は、顔から首をほっそりとしなやかに見せるため用いたデフォルメ。モデルの最も美しい一瞬を描くために、歌麿が編み出したテクニックです。
そして3つ目は指。頬杖をついた細い腕や指の動きが、やるせない女心を表現します。写実的ではないのにリアルな心情が伝わってくるという、歌麿の美人画の秘密がここにあります。