ネット社会でどう振る舞う!? 匿名性の心理的メカニズム

ネット社会でどう振る舞う!? 匿名性の心理的メカニズム

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私たちの暮らしを豊かにしてくれたインターネットやSNS。でも、そこで繰り広げられるコミュニケーションは、対面しているときのものと大きく異なっています。そんなネット社会において、意識しておいた方がいいことを心理学の観点から見てみましょう。そこで今回は「ネット社会でどう振る舞う!? 匿名性の心理的メカニズム」をご紹介いたします。

■メールだと顔が見えないので感情的になりやすい

SNSやメールは、もはや我々の日常にかせない重要なツールです。ただ何かと誤解を生んだり、感情的な議論がエスカレートしたりもしますよね。人が顔を合わせて会話をする時は、非言語的コミニケーションを行っています。眉間にしわを寄せれば不愉快なのかと思うし、高い声で早口なら気分が高揚していると感じるもの。ただネット上ではそうした部分は伝わりません。さらに時として、私たちは無意識のうちに間違った思い込みを抱いてしまうこともあります。これは“妄想性認知”と呼ばれ、行間を読んでメールを返信し合ううちに、誤解が誤解を呼びエスカレートしてしまうこともあるのです。

■グループ内のみんなでやると効率が悪い作業もある

仕事や掃除、行事の準備など人が集まって作業する機会は、日常の様々な場面で見られます。現代ではグループLINEなどがこれに当たるでしょう。皆でやれば弾みがついて一気にタスクも終わりそうなものですが、実は“社会的手抜き”と言う現象が起こるのです。実は、作業内容によってはかえって効率が下がることがわかっています。心理学者のラタネは、男子学生を集めできるだけ大きな音を立てて手を叩いてもらおうと言う実験を行いました。結果として参加人数が増えるごとに、一人当たりが出す音が小さくなっていったのです。ではどうすれば皆が手抜きせず、最高のパフォーマンスを発揮することができるのでしょう。まず個人の成績や努力を確認できる形式にすることや、ガラス張り状態であれば手抜きをしようとは思いにくくなります。自分自身で貢献度を振り返ってもらったり、メンバー同士の結束を強めて魅力的なグループにするのも手抜き防止に効果があります。

■ネットは匿名ゆえに攻撃性が高まる

インターネットの広まりは、人が匿名で行動できる場を大幅に増やしました。匿名の状態では、普段では取らないような常識的な行動に出がちだと言われますが、それは本当なのでしょうか。心理学史に残る有名な実験を見てみましょう。心理学者のジンバルドーは女子学生を集め、ある女性に電気ショックを与えると言う実験を行いました。この際女子学生は2つのグループに分けられ、一方は目と口だけに穴を開けた袋状の服をかぶって誰だかわからないようにされ、もう一方は顔を隠さず胸に名札をつけさせました。対象者たちは女性が電気ショックに苦しむ様子をボックス越しに観察できます。もしかわいそうと思えばいつでも電気ショックのボタンから手を離して良いとされていました。もちろん人道的な点を踏まえ、この女性は苦しむ演技をしていただけの嘘の実験だったのですが、匿名グループの方がはるかに長い間ボタンを押したという結果になりました。自分が誰だかわからない状態では、人は多かれ少なかれ“攻撃性”を増すと言うことなのです。

■優しい人でも多人数の前では援助行動をとらない

夜自宅でくつろいでいるときに、外から女性の悲鳴が聞こえたしましょう。そんな時あなたはどうしますか。かつてニューヨークで“キティージェノベーゼ事件”と呼ばれる事件がありました。午前3時に女性が何者かに襲われたのですが、近所で38人もの人間がそれに気づいていたものの、救出や通報などの行動に出なかったという痛ましい事件です。心理学ではこれを“傍観者効果”と言う言葉で説明しています。近所の人が全員冷酷な人間だったわけではありません。危機に陥っている人が見ず知らずの他人で、しかも自分以外にも目撃者が多数いることがわかっていると、「誰かが助けるだろう」と思ってしまうということです。つまり“責任の分散”が起こるのです。これはネット社会においても、大いに起こりうる現象だと言えます。

おわりに

あなたは“ヤマアラシのジレンマ”と言う寓話をご存知でしょうか。これは、傷ついたり離れたりを繰り返して人はちょうどいい距離を見つけるというお話。この話が象徴しているのはまさに人間のコミニケーション。考え方が異なる人間が隣合えば、傷つけあうことも多々あります。それでもその人とコミュニケーションをとりたいと願うのが人情。親子間でも恋人間でも多少の対立を経ることで、初めて適切な関係性を築けるのです。対立を恐れていれば、いずれ別の大きな対立を生みかねないということなのかもしれません。(脇田尚揮)

脇田尚揮
認定心理士。Ameba公式No.1占い師として雑誌やTVなどに取り上げられ、テレビ東京「なないろ日和」にてレギュラーコーナー担当。また、自身が監修したアプリ 「マル見え心理テスト」はTBS 「王様のブランチ」 などでも紹介され、120万DL。著書『生まれた日はすべてを知っている。』(河出書房新社)。