人生の選択って「性別」で変わる?日常に潜む『ジェンダーギャップ』を本音トーク【トラちゃんSDGs連載】

トラちゃんと考える「SDGs」RETURNS!

『SDGs』の目標達成に向かって、元CanCamモデル・トラウデン直美が気になる問題に迫るこの連載。今回は、東京大学在学中に教育分野のジェンダーギャップ解消に取り組んできたおふたりと、進学やキャリア選択のリアルについて本音で語り合いました!

トラウデン直美/高校時代に環境問題に興味をもって以来、エシカルな生活を模索。SDGs関連の発信に力を入れ、『news23』(TBS系)、『NIKKEI NEWS NEXT』(BSテレ東)など報道番組にレギュラー出演、現場取材も務める。2024年にCanCam専属モデルを卒業後は、ドラマ、ラジオ他幅広い分野に
活躍の場を広げている。

お話を伺ったのは…
川崎さん(左)/2001年、兵庫県出身。東京大学法学部、法と社会と人権ゼミで様々な社会課題の現場を学ぶ。今春、中央省庁に就職予定。
江森さん(右)/2000年、静岡県出身。1浪の末、東京大学文学部に進学。在学中にシンガポール国立大に1年留学。今春、広告関連会社に就職予定。共に、 Forbes JAPAN「世界を救う希望」100人に選出。
 
ふたりが手がける#YourChoiceProject
東大生が中心となり、教育分野のジェンダーギャップ解消に取り組むNPO。進学やキャリア形成における無意識のバイアスを調査・分析。地域や性別を問わず自由に選択できる社会を目指し、政策提言や地方の女子高校生への情報提供、講演活動を行う。

人生の選択って「性別」で変わる?

私たちの身近にある〝ジェンダーギャップ〟

「ジェンダーギャップ(性別による格差)」と聞くと、大きな問題のように感じるかもしれません。でも、日常生活の中でふと「なんで?」と感じる瞬間はありませんか? 例えば、家事や育児の負担が女性に偏っていたり、職場で女性管理職の割合が低かったり。地方では、進学やキャリアの選択肢が限られ、性別によって進路のハードルが変わる現実もあります。2024年のジェンダーギャップ指数では、日本は146か国中118位と、まだ低い順位のまま。この問題は特別な誰かのものではなく、私たち一人ひとりの人生の選択に関わっています。

ジェンダーにまつわる素朴な疑問! 都市と地方、進学に差がある?

/同世代の友達とも意外と話す機会がなかったテーマ!\

【トラ】おふたりが出版された本『なぜ地方女子は東大を目指さないのか』を読んで、ぜひお話を聞いてみたくて! まずは、地方で暮らす女子学生の選択肢を広げる活動を始めたきっかけをうかがえますか?

【川崎】私は兵庫県の小中高一貫女子校の出身で、学校自体は「難関大を目指すぞ!」と競い合うよりはのびのびした雰囲気。そこがよかったのですが、同級生の兄弟たちは東大や京大に進学していて。同じ家庭で育っているのに、なぜか男女で親の期待感が違う。「この背景には何があるんだろう?」と疑問を持つようになりました。

【トラ】受験で浪人するかしないか、という点も男女で差があると言われますよね。

【川崎】私の母校でも「浪人は恥ずかしい」という空気があり、どこか違和感を覚えていたんです。大学でジェンダー論を学ぶ中で、それが個人の問題ではなく社会構造に根ざしたものだと気づき、もっと深く知るべく支援団体を立ち上げました。

【江森】私は静岡の公立進学校に通っていましたが、東大を志望する男子は多い一方で、女子は少数派。当時は「そういうものかな」と思っていたけれど、いざ1浪して東大に入ってみると、首都圏出身の女子たちは先人の情報やロールモデルが豊富で「東大を目指すのが当たり前の選択肢だった」という感覚で衝撃を受けました。地元では、偏差値的には同じ学力層でも、「身の丈に合わないんじゃないか」と東大を進学先から除外している女子が多かったんですね。

【トラ】環境の影響って大きいですね。

【江森】そうなんです。ジェンダー論の講義で学んだ中京圏のある高校の進学実績のデータでも、男子に比べて女子は現役で地元の国公立大に進む傾向があり、浪人が少ない。地方という要因より、女性だから選択肢が狭まる部分が大きいと感じました。

【トラ】こういった障壁がなければ、東大を目指す女子はもっと増えると思われますか?

【川崎】はい。世界に目を向けると、先進国の大学進学率は女性のほうが高く、難関大学でも女性がほぼ半数を占めているんです。でも、日本の東大・京大ではまだ20%程度でして。

【トラ】理系はさらに男女比が偏るとか…。

【江森】理系に特化した東工大(現・東京科学大学に統合前)では、学部生の女性比率は15%。対して、米・マサチューセッツ工科大学では46%(共に2024年度)ですから、やはり社会的な要因が考えられます。近年、日本の理系大学では女子枠を設けるなど改善を図っていますが、「少数派で居心地の悪さを感じる」という理工系女子の声はよく聞きますね。

【トラ】周りに仲間がいないと、心理的な負担度も上がりますよね。おふたりにもご経験が?

【川崎】大学1年生の頃は、特にジェンダーに関する議論はしづらかったですね。まだ自分に知識がなく、授業に女子が2人しかいないとなると、発言するのもためらってしまって。

【トラ】フェミニズムも、本来は「誰もが生きやすい社会」を目指すもの。それでも「ひと括りにしないで」という女性の声が上がることも。つい「一緒に頑張ろうよ」と思う瞬間があります。

【江森】特にSNSでは、フェミニズム=男性批判と受け取られがちですよね。「男性を攻撃している」「女尊男卑だ」といった誤解から対立が生まれてしまうのは、本当にもったいない。難関大の女子学生の中にも「自分は頑張ったからここにいる。報われない女性は頑張りが足りないから」と考える人がいます。もちろん努力は大事だけど、努力以前に選択肢を持てない人がいるという視点がなかなか伝わらないもどかしさを感じます。

【川崎】東大生の2人に1人は、世帯年収950万円超の家庭出身という調査もあります。将来のリーダー層である学生が恵まれた環境の影響を見落とし、「すべて自分の努力の結果」と思い込んでしまっては本質的な課題に気づけない。社会の構造の中で自分がどこにいるのかを意識することは、大切だなと感じます。

【トラ】地方に暮らす女子の進学支援を進める中で、意外な発見はありましたか?

【川崎】安全面の不安が想像以上に壁でした。東京は夜でも明るい場所が多く、むしろ地元の夜道のほうが不安なくらい。でも、「東京で女子のひとり暮らしは危ない」という先入観が根強くて。実際、人口あたりの住宅侵入事案の遭遇率で見ると、東京は全国で44位と低いのですが。

【江森】他には、刷り込みの影響力の大きさでしょうか。例えば、首都圏出身でも東大に落ちて第2志望の大学に受かると、諦める女子が多い。合理的な理由というより、「みんな浪人しないし」「自分だけレールを外れるのが怖い」という感覚が強いんです。

【川崎】女子には「浪人したら婚期が遅れるんじゃないか」とおっしゃる保護者の方も珍しくありません。よくよく考えたら関係ないはずなのに、社会的な刷り込みによって漠然とした不安が生まれてしまう。

【トラ】漠然としたものほど、取り除くのが難しいですよね。自分自身、昨年25歳になったときに〝リミット〟が近づいているような感覚がふとよぎり、「私、こんなふうに思ってしまうんだ」とびっくりしたんです。男性タレントの25歳は「まだまだこれから」という印象なのに、女性タレントは「30代を見すえてこの年齢までに何か確立していないと、先が厳しい」といった感覚があって。まさに言語化しづらい刷り込みが、自分の中にもあると気づいて、ドキッとしました。

ジェンダーバイアスは私たちの日常にも潜んでる?

/自分の発した言葉で誰かの選択肢を狭めない\

【トラ】おふたりはこの春から就職されるとのこと。就活中に何かジェンダーギャップは感じましたか?

【江森】教育のジェンダーギャップを改善するプロジェクトに取り組んだ経験を話すと、男性から「そういう話はあまり聞きたくないな」という空気を感じることはありました。「それの何が問題なの?」と聞かれることもあって。女性の面接官の方は関心をもってくださることが多く、その違いは印象的でした。

【川崎】ある面接で「うちはすごく男社会の職場だけど耐えられますか?」と聞かれました。特に伝統的な組織では、いまだに男性が中心で、現状は変えずに女性が順応すべきという認識が根強いんだなと。

【トラ】メディア業界、特にテレビ番組MCはほとんどが男性。かつては報道でも、意見を述べるのは専門家の男性が一般的でした。でも最近では、スタッフの方々と意見を交わしながら、私もよりよい伝え方を模索できるようになってきたのはうれしい変化! おふたりは、違和感を覚えたときに意見を伝えられていますか?

【川崎】私は言えないタイプです。自分が活動している教育の分野であれば知見の蓄積があるので言えるのですが、それ以外だと空気を乱すのが怖くて。

【江森】 友人たちとはお互い配慮し合って本音で話せますが、社会に出るとパワーバランスの違いがあるので、簡単には意見できなくなる気がします。

【トラ】私は以前、仕事現場で決裁権のある年配男性から「トラウデンさんは、ニコニコ座ってるだけでいいから!」と言われたことがあって…。

【川崎】【江森】えー!

【トラ】 内心「この人、どういうつもり!?」と思いながら、本番ではガッツリ発言して帰ってきました(笑)。もし私が男性だったら、伝え方は違ったかも? 女性にならこういう言葉をかけてもいい、と思われているのかなとモヤッとして。悪気がないとしても、積み重なると「期待されていない自分は、挑戦してはいけないんじゃないか」と刷り込まれていく感覚がありました。

【川崎】無意識に刷り込まれた価値観を変えるのは、本当に難しくて。調査に協力してくれた九州出身の女子学生は、親戚一同から「女は大学に行かなくていい」と言われながら、学費も生活費もすべて自分で負担して国立大学へ進学。一方、兄は親の仕送りで東京の私立大学へ進み、さらに彼女のアルバイト代がその仕送りに充てられていたそうです。

【トラ】 親族の価値観が負の連鎖に…こうした声は、プロジェクトに自然と届くものですか?

【川崎】最初は現地で募集のビラをまいたり、人づてに話を聞いたりしていました。でも、大学に入って周囲と話して初めて「うちの家、おかしかったんだ」と気づくこともあり、進路選択で最も大事な高校生の時期には声を上げづらいのが現実です。

【トラ】 「自己責任」で片づけられる風潮で、「自分が頑張ればいい」と抱え込んでしまう人も多いのでは。

【江森】そうなんです。もちろん難関大学への進学だけが人生の正解ではないのですが、男性と比べて、ただ勉強したいという理由では進学が許されない女性もいると知っていただけたら。

【トラ】 私たちがより自由に選択できる社会のために、これから意識できることはありますか?

【江森】女性が置かれている状況に関心をもち、自分事にして一枚岩になって変えていけたらうれしいです。親はもちろん、上の世代からの声かけのひとつひとつが刷り込みになっていく。私自身もその集積なので自発的に気づくのは難しいのですが、職場でも家庭でも「自分の発言で選択肢を狭めないか」という視点を忘れずにいたいです。

\20代の女性として「期待されていない自分」を認識してしまう瞬間も…/

\自分が取らなかった選択肢も肯定できるようにしたい/

アップデートが必要な価値観は?

【川崎】いつか保護者になったときは、自分が選ばなかった道も肯定したいですね。時代は変わるので、自分の経験や常識で否定しないように。

【トラ】 ちなみにおふたりは、これまで大人からかけられた言葉で、励みになったものはありますか?

【江森】現役受験に失敗したとき、「東大に行きたいならまた頑張ってみたら?」と浪人の選択肢を示してくれた父の言葉。ピアノの先生が「やればできるのにやらない」と叱ってくれたことも、信じてくれていると感じ、生きる糧になっています。

【川崎】 言葉ではないですが、親が私をひとりの人格として尊重し、親子で対等に接してくれたことが自己肯定感につながっていると思います。

【トラ】  素敵! では、社会で働き始めるにあたり、ご自身はどのように関わっていきたいですか?

【川崎】 就職先の中央省庁で、ダイバーシティ推進のためにまだまだできることもあると思っています。新人だからこそ、男性が多い会議でも自ら手を挙げて、少しでも変化を生み出せたらと思っています。

【江森】社内の多様性支援や企業のD&Iにも積極的に参加したいですね。ただ、特定のメンバー内で完結するのではなく、ジェンダーの話題も一歩引かずに、部署の異なる同期にも伝播させていきたいです。

【トラ】  男性も「強くあるべき」「家族を養うべき」といった固定観念によるプレッシャーが、社会のひずみとして表れることもあると思います。性別を超えて対話を重ねることで、見えてくる課題がきっとあるはず。私自身も今回『話せる場があることの大切さ』を改めて実感できました。おふたりが現場に入ってどんな発見や変化を経験されるのか、これからの歩みがとても楽しみです!

対談を終えて…トラ’s MEMO

■違和感を言葉に出して、無意識の刷り込みをほどいていく

今月のトラの気づき:自分の当たり前を更新し、動き始めた変化を止めずに未来へつなぐ

おふたりとの対話で、今までジェンダーギャップを感じても冗談交じりには話せても、本当に困っていることや不利益は話題にしてこなかったと気づきました。事なかれ主義に慣れてしまうと、自分の子供にも同じ課題が残ってしまう。自分の『当たり前』とは違う視点を意識して、次世代に接していきたいです。

目指せSDGs! トラの一歩

\ドイツ連邦議会前では、極右政党との協力に抗議するデモが開催され、16万人が参加/

私のルーツでもあるドイツで2月に選挙があり、極右ポピュリズム政党が第二党となりました。ヨーロッパ全体でも政治状況が揺れ動き、右派勢力の台頭が目立っています。右傾化の背景やリベラルな価値観に対する不満がどこから生まれているのか、その構造を理解したくて、国際ニュースや新聞で勉強しつつ、父や現地の知人にも情報を聞いています。

今月のSDGsブランド「BAUM UND PFERDGARTEN」

1999年、デンマーク・コペンハーゲン発祥。クラシック×アバンギャルドなデザインに、遊び心あふれるプリントのコントラストが魅力。オーガニックコットンやリサイクル素材など、環境や動物への負荷が低いものを厳選し、期限と共にSDGsに向けて明確な目標を掲げて世界にブランド展開している。

ブラウス¥28,600・シャツ¥44,000・スカート¥39,600(S&T<バウム・ウンド・ヘルガーテン>)、靴¥33,000(銀座かねまつ6丁目本店)、ピアス¥19,250・リング¥25,850(ココシュニック<ココシュニック オンキッチュ>)、ネックレス¥25,300(ヴァンドームヤマダ<エル・エー・エイチ>)