千利休って、ちょっとイジワルな人でもあったんです。
「茶の湯の完成者」として歴史の教科書にも掲載されており、織田信長、豊臣秀吉とふたりの天下人に重用された、最も有名な茶人と言ってもいい、千利休。「茶聖」と呼ばれており、崇高なイメージさえありますが、彼の茶会は、招いた相手に合わせてさまざまな趣向を繰り出し、豪胆さや遊び心、そしてときにはイケズな面もあったとのこと……。そのすべてはお客さんのために行われた「おもてなし」。
さあ、彼のサプライズあふれるおもてなしエピソード集を、『和樂』3月号よりご紹介します!
【1】派手好きな秀吉に、シンプルな美を提示する剛胆さ。「朝顔の茶の湯」
数ある、千利休と豊臣秀吉のエピソードの中でも最も有名な話です。
ある人が、「利休の家の庭に朝顔が見事に咲いている」と、秀吉に申し上げました。当時はたいへん珍しく貴重な花だった朝顔を見に行こうと、秀吉は朝の茶会に出かけたのですが、庭には一輪も朝顔など咲いておらず、秀吉は不機嫌に……。ところが、小座敷に入ると、そこには色鮮やかな朝顔がたった一輪、床に生けられていました。貴重な花を潔く切り落とす贅沢。そして、一輪のみ飾ることでより際立った朝顔の存在感や美しさ。それを見て、秀吉はたちまち上機嫌になり、利休はたいそうな褒美をたまわったとのこと。
金の茶室を作るなど派手好きで有名な秀吉に真逆の美を提示するところに、利休の剛胆さも感じます。
【2】戦国大名たちに遊び心あるイジワルサプライズを!
あるとき、利休は「よい花入(花を入れる器。大切な茶道具のひとつです)が手に入りましたので」と、細川三斎、前田利長、蒲生氏郷らを茶会に招きました。しかし、いつまでたっても「よい花入」は見当たりません。3人は「拝見したいとお願いしてみようか」とひそひそ相談するのですが、ついに茶会は終了。釈然としないまま席を出た3人に、利休は「今日は花入をお見せするためにお招きいたしました。ご覧になっていただけましたか?」と言います。3人が茶室にも庭園にも見当たらなかった……と答えると「もっともなことです」と、利休は3人を庭園に連れ戻し、茶席の入口にある小さな穴を示しました。するとそこにはなんと見事な椿の花が! 普通なら花を入れることのないところを花入に見立てて花を飾っておき、そうとは知らない客人に探させるとは……3人の気持ちを考えると、ちょっとイジワルなサプライズです。
【3】ミニマムな空間で、最高にゴージャスな演出。
春のころ、秀吉が利休のもとを訪ねた際に、「一畳台目」と呼ばれる、二畳もない狭い空間でお茶を差し上げました。その空間には、咲き乱れたしだれ桜をあふれるほどに生けた花入をいくつも天井間際の柱から吊って飾っていたので、部屋に入った秀吉は、しだれ桜の枝の中で立つこともできず、ひざをついたまま少しずつ籍の様子を眺めることになりました。枝をよけながら少々外れたあたりに着座せざるを得なかったにも関わらず、ゴージャス好きな秀吉はこの趣向をたいへん気に入り、ご機嫌になったとのこと。空間を切り詰めたミニマムな部屋の中での最大限のゴージャスな演出……利休の発想力には驚かされるばかりです。
【4】秀吉からの難題にもさらりと応戦。
ある春。秀吉が床の間に、水を張った大きな鉢を置き、そのかたわらに紅梅一枝だけを添えました。そして利休に「この鉢に、この梅を入れてみよ」と命じたのです。その様子を見ていた側近たちは「これは難題だ」とささやきあいました。おそらく、その鉢に枝をそのまま入れるのではバランスが悪かったのでしょう。しかし、利休は平然として紅梅の枝を逆手に取ると、紅梅の花とつぼみだけをさらりと水鉢にしごき入れたのです。水面に浮かんだ紅梅の花の風情に、秀吉は「なんとかして利休を困らせようとするのだが、まったく困らぬやつじゃ」と、上機嫌になったといいます。
ただ「茶の湯」に通じていただけでなく、「自分にしかできないもてなしをする」ことを心がけ、空間を総合演出し、プロデュースする達人だった千利休。彼の心を尽くしたもてなし術には、学ぶところがいっぱいのようです。(後藤香織)
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