「歌舞伎」は、役者の方がテレビなどに多く出演されていて知っていたり、なんとなく話を理解しやすいイメージがあったり、比較的親しみやすい古典芸能かもしれません。
では、同じく古典芸能でよく知られている「能」はいかがですか? 「ちょっと難しそう」「どう鑑賞すればいいのかわからない」なんて、苦手意識をもつ人が多いのでは。
『和樂』6月号では、70年にわたって能を見続け、数多くの能を舞ってきた馬場あき子さんが、初心者向けに観能のポイントを指南してくださっています。その中から今回は特に初心者向けとなる5つをご紹介。能において見るべき箇所や席の選び方など、素朴な疑問もこれで解決です!
■何から見る?
→ 『船弁慶』や『隅田川』など劇的要素が多い“四番目物(よばんめもの)”から
最初だから典型的な能らしい能をと考えがちですが、能の代名詞とも言われる『井筒』や『野宮(ののみや)』は、動きも少なく「初心者向けではない」と馬場さんは言います。
神(脇能)、男(修羅物)、女(鬘物)、狂(雑能)、鬼(切能)の5つに分類される能の中で四番目物、つまり4番目の雑能が、心理描写が濃厚で最も演劇的なジャンルなので、入門編にぴったり!
■どの席がいい?
→ 正面四列、右寄りが馬場さんのお気に入り
“見所(けんしょ)”と呼ばれる能楽堂の客席は、正面席、舞台を真横から見る脇正面席、その中間で扇状のゾーンの中正面席で成り立っています。
馬場さんのお気に入りは、正面の4、5列目、舞台に向かって少し右寄りの地謡座(じうたいざ)の前あたり。値は張りますがその価値ありな、舞台全体をよく見渡せる良席なのだそうです。
■どこに注目して観る?
→ まず見るべきは、役者の魂が宿る面と足です
一見、表情が停止しているように見える能面ですが、ほんのわずかな角度の違いによって、ありとあらゆる表情が現れるのです。それが、世界にある他の仮面劇との決定的な違い。
もうひとつ、役者の魂がこもっているのが“足”。たとえば、長い旅路の後に“着いた”ことを観客に感じさせられるかどうかは、たった一歩の足の出し方にかかっているといいます。
■事前の勉強は必要?
→ あらすじや詞章(ししょう)を読んでおけば、さらに楽しめます
能の台本である“詞章”は、活字にすればなんとA4サイズの紙2枚におさまってしまう程度の長さ。複雑な物語の展開もほとんどありません。
「あらすじさえ知っていればストーリーが分からないということはないですし、さらに一歩興味を進めて、作品には書かれていない時代背景や当時の社会状況、登場人物が置かれた立場などを知っておけば、単純そうな物語が何倍、何十倍にも深まるのです」(馬場さん)
詞章が書かれた謡本(うたいぼん)は、能楽堂で購入することができます。
■拍手はどこですべき?
→ 作品によって、臨機応変に
歌舞伎や文楽と違い、現代の能は途中で拍手が起こることはまずありません。江戸や明治の頃は作品によって拍手や声がけなどがあったそう。
動きの多い作品で見事な瞬間に出合ったら拍手をしたくなりますが、周囲との調和も大切にしましょう。
こうして教えていただくと、能は意外と気軽に楽しめそうな気がしてきますね。 さまざまな古典芸能、日本の伝統に触れることで、深みのある大人の女性になれそうです。(鈴木 梢)
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