「振付師という職業は今まさに過渡期」振付稼業air:manインタビュー(6)

OK Goの最新大ヒットMV『I Won’t Let You Down』の振付や、世界の広告賞を総ナメにしたユニクロのウェブCM「UNIQLOCK」の振付を担当するなど、今もっとも注目の振付ユニット・振付稼業air:manのロングインタビュー6本目! 先日出版した、中学校のダンス必修化に向けたテキスト『振付稼業air:manの踊る教科書』に込めた、ダンスを好きな人が増えて欲しいという想いと、振付師という職業を確立せねばという使命感。日本での振付師の歴史と、今、振付師に大切なことは……?

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Woman Insight編集部(以下、WI) やっぱり「個」じゃなくて「職業」として確立するには、そこにはいろんなプレイヤーがいないといけないですもんね。

振付稼業air:man・杉谷一隆さん(以下、杉谷)  そう、そうなんです。日本で言うと、長い間振付師っていうのはテレビと寄り添ってきたと思います。亡くなられたけどピンクレディーの振付をした土居甫さんとか、まだお元気な小井戸秀宅さんとかが第一世代だと考えると、その人たちはテレビの中でスイッチアウトとかスイッチングとかに限界があるうえにCGとかがない時分に、人物をどう見せようかと考えたときに、歌のことがわかっていて、その歌う人のこともわかっていて、画面の画をどうやって埋めるかというときに行きついたがのが、バストアップで成立する顔回りでの手振りなどの見せ方だと思うんですね。そういうテレビの申し子みたいな人たちが第一世代で、その後の世代にタレント兼振付師みたいな感じで流行った時代があったと思います。

その時代も、職業として確立させたいから自分たちで広告塔になってっていうのがあったと思うんですけど、その後はじゃあどうするのってなったときに、未だにボヤッとしているというか、テレビの中で自らタレントもやりながら出演者のタレントも振り付けたりっていう、すごい狭いところで掛け合わせができちゃったような気がします。

で、何かもっとそうじゃないところでできないかなって思ったときに、なるべく歌番組とかじゃなくて、CMだけにフィーチャーする形で、しかもユニットで、しかも限りなく表に出ないようにして、やってみたらどうなるのって考えてやってみたっていうのがうちらの世代ですね。それが今後うまくいくのかどうかはわからないですが、確実に段階は経ているので、その後に次の世代のやつらはどうするかなっていうところで、振付師という職業は今まさに過渡期に入っていると思います。

WI スタイルはユニットでないかもしれないですが、いわゆるair:manさんたちの「同期」にあたる振付師の方っていらっしゃるんですか?

杉谷 同期は……、いないかな……。同じようなシステムっていうのはほとんどないですね。自分たちは結成当時、ラッキィ池田さん、南流石さん、パパイヤ鈴木さん、香瑠鼓さんとか、すでに活躍されているいろんな振付師の資料を見せられて「こんな感じの振付を作ってほしいんですけど」って言われることが多くて。当時からウチらは「だったらそっちに頼めばいいじゃん」って言っちゃうタイプではあったのですが、さまざまな理由から、結局「はい、じゃあやります」ってことになって。では、その人たちっぽく見えるものっていうのはどういう動きだろう、っていうのを解明しながらずーっと何年間か過ごしてきたんですね。それと同じように、たぶん今、うちらの資料を見せられて、「air:manっぽいことやってください」って言われている人たちがいると思うんです。そうなったときに、発注側のオーダーが方法論のことなのか、踊りの形のことなのかっていうのを捉えられるかによって、きっと経験値が上がるんだと思います。そういうところこそ、盗み合って欲しいですよね。

WI 「○○さんっぽい」っていう発注って、受け手としては難しいですよね。発注した人が○○さんのどの部分を「○○さんらしさ」と捉えているのかがわからないですもんね。

杉谷 そうです。うちらに一番CMが合ってたのってそういう部分かなと思います。商品を見せないといけない、タレントさんも見せないといけない、ってなってくると、ダンスCMって言われているものでも、踊っているのってせいぜい8秒位なんです。

8秒って言ったら、これくらいのテンポでも4小節が限界なんですね。思うほど、いろいろなことはできない。わかりやすい形だったり、印象に残る構図……人はキャッチーって呼ぶことが多いんですけど、面白い形のオンパレードをやっても、流れるようなダンスCMにはならないんですよ。ちょっと変なポーズ集みたいになる。そうではなくて、CMの何が楽しいかっていうと、カット割りを計算するのが楽しかったりします。

単純に短い秒数しかないので、このカットでこう見せて、次のカットでこう見せたらどうなるんだろう。そのカットとカットの間に挟まるタレントさんの表情とかも計算した振付を考えるのが楽しい。そこがキャッチーに繋がる理由になると思うし、それがうちら流ってことなんだと思います。

単なる面白い形と面白い形をポンポンとやると、情報量過多で、商品よりもタレントよりも「踊りのヘンテコさがウリです」って感じになっちゃうんですよね。その理(ことわり)を理解できているか、演出コンテを読み込めているかっていうのが一番大事だよっていうことに気付けているかどうかですよね。

でも今の振付の流れって、踊りを魅せる、音に合わせて踊るっていうことに逆に特化されすぎている部分もあります。踊りで言うとちょっと前にLAスタイルっていう踊り方のブームがあって、更にはニュースタイルっていうのが流行っているんですが、そういう根本的な踊りのスタイルの新しさも大事ですが、企画があって演出コンテがあるんだから、そこにどういうふうに踊りが入っていくのかを想像してつくったほうが、結果的にはダンスCMとしてキャッチーと言われるものになるような気がします。そういうことに気づくことを楽しむ人が増えると嬉しいです。

今、うちにも16歳の女の子がいるんですが、そういうことを自然に経験できているので、彼女が10年後ずっと振付をやっていたら、すごいことになるだろうなと思います。

WI 「キャッチーな振付」というと、今こういうのがキてる等、新しい踊りのトレンドだったりに囚われがちになってしまうんですね。

杉谷 それも大事なんですけど、それをどのように流れに組み込むかのほうが大事だと思います。動きの面白さだけでいったら、手が(関節の動き方を無視して)こっちに曲がったほうがありえなくて本当は面白いじゃないですか。でも人間の体の可動範囲って決まってるんで、出来ないじゃないですか。だったら面白い型を見出すことだけにこだわるより、見せ方も含めて面白くできないかを考えたほうがいいんです。あくまでもCMだったら、このタレントさんがこの商品をPRして売れましたっていうのが正解。まずクライアントが、この商品を売りたい。それを売るためにプランナーが何をやりたいのかを考える。それで、このタレントさんを使って○○をやりたいという発注を受け、監督が演出する。っていう流れの中に僕らはいる。この流れの中にカチッとはまる答えがあって、それにきちんと寄り添えるかっていうのが一番大事で、そういうふうに考えるのがうちらの性格にも合っているし、自分たちを一番よく出せると思っています。短い秒数だからこそ出せる。

WI 短さだけではなくて、CM制作のように役割が明確で、それぞれのプロフェッショナルが集まって作る体制も、air:manさんたちのやり方にフィットしているんでしょうね。

今ノリにノッている振付稼業air:man。第一線を走り続けていられるのは、明確なビジョンに基づく徹底した仕事っぷりにあることがわかります。さらにすごいのが振付稼業air:manとして一定のクオリティをキープしたまま稼働できる体制づくり。次回はこのair:manの体制について聞いていきます!(安念美和子)

【air:manインタビュー】

★1本目→  OK Goの最新MVを担当!教科書も出版!?今もっとも熱い振付ユニット、振付稼業air:manインタビュー(1)

★2本目→  振付業界の曖昧さに挑戦し続けて10年!振付稼業air:manインタビュー(2)

★3本目→  「ギャラは1人分、仕事の出来は人数の乗数倍」で作り上げた実績~振付稼業air:manインタビュー(3)

★4本目→  中学のダンス必修化を良い方向へ導きたい!振付稼業air:manインタビュー(4)

★5本目→  「ダンスが本当のコミュニケーションツールになる可能性」振付稼業air:manインタビュー(5)

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『振付稼業air:manの踊る教科書』(¥2,160/東京書籍刊)
http://www.amazon.co.jp/dp/448780796

 

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