12月1日は「世界エイズデー」。みなさん、ご存知でしょうか?
日本ではあまりなじみのない日かもしれませんが、1993年から毎年この日、岸谷五朗さん・寺脇康文さんの呼びかけで、チャリティーコンサート『Act Against AIDS』(略して“AAA”)が開催されています。このコンサートでは、ミュージシャン、俳優、タレントのみなさんが無償で出演し、コンサート収益のすべてをエイズに関する支援として寄付しています。
2005年には、当時アジア圏でHIV感染率の高かった「ラオス共和国」に支援先を切り替え、また翌年には、岸谷五朗さんがユニセフ協会スタッフとともに、ラオスの病院やサポート団体を視察するなど、より具体的なサポートができるよう、支援のありかたも年々見直しながら活動を続けています。
そして、24回目となる2016年は、「THE VARIETY 24~魂の俳優大熱唱!助けてミュージシャン!~」と題し、豪華アーティストがせいぞろい。
出演者には、岸谷さんと寺脇さんとともに、近年、AAA「THE VARIETY」を担う存在となっている三浦春馬さんをはじめ、ミュージカル界を牽引している実力派俳優・中川晃教さん、柿澤勇人さんが初参戦。そして、山崎育三郎さんも急遽出演決定!
また、元宝塚歌劇団男役トップスター・柚希礼音さんは、自身の代表曲『Maybe If…』を、若手舞台俳優の植原卓也さん、水田航生さんとともに初&生披露。
さらに、今春フジテレビ系月9ドラマ『ラブソング』でヒロインを演じたシンガーソングライター・藤原さくらさんも天性のスモーキーな歌声を武道館に響かせます。
コンサート直前、AAA「THE VARIETY」発起人のおふたり、岸谷五朗さんと寺脇康文さんがこの活動にかける想い、そしてふたりの想いを継承する存在になりつつある三浦春馬さんについて語ってくれたインタビューをお届けします。
Woman Insight編集部(以下、WI) 日本ではまだまだ「エイズ」を身近に感じている方のほうが少ないと思いますが、これまで活動を続けてきて感じることはどんなことですか?
岸谷五朗さん(以下、岸谷) まず絶対的に必要なのは「教育」なんです。HIVやエイズの話になると、貧困国における教育は全然足りてないはず。例えばスラム街の公衆トイレにコンドームを置くという活動をしていても、気付いたら子供たちが風船にして遊んで終わってしまっているんです。つまり、なぜそこに「コンドームが置いてあるか」ということを教育しなくてはいけないのに、その教育が足りていない。このことが、いろんな国によって格差があるというのが現状なんです。僕らが寄付をしてるラオスもそうだし、タイもそう。国のコミュニティが「エイズ」に対しての考え方がまだ固まっていないので、たとえば、両親がHIV感染者で子どもも感染しているという家がいっぱいあるんだけど、周囲には言えない。なぜ言えないかというと、HIVに感染してるとわかった瞬間に「差別」が生まれるから。HIVに感染していることで、「差別をしてはいけない」という人間のいちばん大切なところを壊してしまう……人間関係を壊す差別というものが生まれてしまうこともどこかでやらなきゃいけないことだと思うんだよね。
WI もともとAAA「THE VARIETY」という活動を通して、HIVやエイズへの理解を深めようという活動を始めた明確なきっかけがあったのですか?
岸谷 25年前、「HIVに感染している」という14歳の子から手紙をもらったんです。それを読んだら、「病気にかかってしまったことよりも、恐れていることは差別」というとても悲しい手紙でした。当時、エイズに対しての知識は日本人にはまるでなかった。「手をつないだら感染する」とか「しゃべっただけで感染する」といった間違った情報がまん延していました。僕が70年代のニューヨークにいったときもそうだったけど、エイズはとてつもなく“怖い病気”だったからね。感染したらバタバタ人が死んでいく……このままニューヨークに人がいなくなっちゃうんじゃないかというぐらい、恐怖を感じる病。だからこそ、医療に関係ない普通の人間も、この病気を理解して、間違った情報が広がらないようにしなければいけないと思いました。一般的な病気は、医師たちが話し合い、専門家が薬を作っていくものだけど、エイズに関しては、病気が人を蝕むだけじゃなく、病気にかかっていない人によって感染者が破壊されていく気がしたんです。それで、1993年に「Act Against Ais」を立ち上げ、たくさんのアーティストたちと“異業種共演”という形で「THE VARIETY」をつくりました。
WI 音楽を通してエイズのことを伝えるイベントですが、「音楽の力」をどうように考えていますか?
岸谷 僕らがやっているAAA「THE VARIETY」では、“利益”を生まないといけないんです。利益とはつまり“寄付するお金”。正直なことを言うと、武道館クラスの規模でやらないと、寄付するための資金が作れません。ラオスの小児病棟を建てることができたのも、大きなお金を生み出せているからです。たくさん集客できるイベントは「音楽」か、演劇でロングラン公演をやるかのどちらか。演劇は一日だけでは100%赤字です。啓蒙啓発にはなるかもしれませんが、僕らが資金を作ってラオスにお金を送るためにはやはり「音楽」の力が必要です。でも武道館は本来、俳優が立つ場所ではないですよね。だからミュージシャンのみなさんの力を借りないとAAA「THE VARIETY」の成功はないんです。
寺脇康文さん(以下、寺脇) 武道館は、音楽を志した人は一度は目指す“聖地”のような場所ですよね。そこに我々のような俳優が立つのは失礼。チャリティーだからこそ、武道館に立つことができるんです。たとえば、僕らがトークだけのイベントを武道館でやっても、一度ならできるかもしれないけれど、毎年トークだけで……というのはやるほうも観るほうも厳しいでしょう。やっぱり、ミュージシャンをはじめ、いろんなジャンルの人たちとファンのみなさんが集まって、それぞれがエイズというものに関心を持ち、その話をして広めていくことで、結果的に啓蒙活動にもなるし、寄付するお金も生まれるんです。僕らが、毎年12月1日に武道館でイベントを行い、みなさんが「来年も行きたい」と思ってもらうには、やっぱり音楽の力がないといけないと感じていますね。
WI 今年は、例年以上に音楽を中心にしたような内容になっているようですね。
岸谷 いままで言ったことと全然違うんですよね……“俳優大熱唱”(笑)。タイトル通り、今年は役者が死ぬほど歌います(笑)。僕らも死ぬほど歌う予定です。まさに「ミュージシャンが助けに来てくれる」まで歌い続ける!(笑)
寺脇 俺たちじゃもう無理だ!俳優だけじゃ限界だ!というときに、「助けて!」と叫べば……『黄金バット』のように「バットさん助けて!」というとミュージシャンのみなさんが出てきますからね。
岸谷 武道館にいる人たちみんなに言わせますよ。せーの……「たーすけーて!」とね(笑)。
WI 期待しておきます(笑)。今年は、『ラディアント・ベイビー~キース・へリングの生涯~』で主演を務めた柿澤勇人さんだったりと、初めて出演される方もたくさんいらっしゃいますね。
岸谷 チャリティイベントですが、出演依頼をして、みんなどうにかスケジュールを調整してきてくれるという感じですね。
寺脇 チャリティなので仕事優先にしてもらっていますが、「もし仕事が早く終わって来られそうだったら、リハーサルもなくステージで歌うだけでもいいよ」といって実現したパターンも、過去にはありましたね。
WI 飛び入りのような感じのこともあったのですね。おふたりが、「この音楽に助けられた」みたいな想い出はありますか?
岸谷 いっぱいありますよ、勇気づけられること。だから音楽ってやっぱりすごいんだよなぁって。昔の曲も、聴く側の心の状況で聴こえ方が全然違うしね。
寺脇 歌に限らず映画音楽とかもそうですけど、いつも身体に音楽が流れてるなって思います。音楽がこの世界になかったら、味気ない毎日でしょうね。
WI 気がついたら頭の中で巡ってる曲はありますか?
寺脇 僕は、毎日違うんです。今日は何だったかな……いつも適当に口笛吹いてるんですよね、待ち時間とかに。周りに「今日はなぜその曲なんですか?」と言われることもあるけど、その日聴いた曲じゃないのに、急に頭の中で流れ出すんです。
岸谷 寺ちゃん、いつもすっごい鼻歌歌ってるもんね(笑)。
寺脇 ふたりで飲んでるときに鼻歌歌って怒られることがあります。
岸谷 ふたりで飲んでるのに、「ふふふん~~~~~♪」とか。なんでいま歌うんだよ!って(笑)。だけど、鼻歌って暗い曲出ないよね。
寺脇 確かに!
(この後、寺脇さんのタイガーマスクの曲から、アニメソングの話になり、80年代の曲ばかりかける飲み屋さんの話へ……。「今度一緒に行こうよ」という寺脇さんに、「鼻歌止まらなくなるんじゃない? 迷惑だよ(笑)」と岸谷さん。そんな会話をしながら、しばしふたりで数曲、楽しそうに歌われていました)
WI 昨年は、三浦春馬さんと3人で進行をしていましたが、三浦春馬さんに対して想うことはありますか?
岸谷 春馬のような後輩が出てくると思っていなかったです。春馬がAAAの活動に対して、自分なりの気持ちをすごく持っていて、本当に一生懸命参加してくれています。僕らの気持ちを継承して「AAAを広めていきたい」という感じで、責任を持って、自主的に僕ら側に入ってくれています。それはすごいことだなって。本当に大変なんですよ、チャリティを続けてくことって。自分たちのことながら、「よく24回も続いてるな」と思います。数を重ねているので慣れてきてはいますが、このコンサートを成功させて、その後に寄付をして、それがどこでどう使われてるかをきちんと見届けるところまで、いま春馬はひとりのつくり手側になろうとしてくれています。もちろん、他の後輩たちも頑張ってくれている気持ちは感じていますが、なかでも春馬に関しては、より強く感じていますね。
寺脇 これが俳優としての仕事だったらと考えると、もっと簡単なんです。出演をオファーして断られたらそれで終わり、ですからね。でもこれはチャリティで、なぜこのイベントをやるのかという“想い”も伝えなければいけません。こちら側の気持ちを真摯にぶつけないと相手にも響かない。お金がない中で、どんな想いで、どういう子たちのために何をしたいか……初対面の人に対しても自分の口で説明することを春馬も知っていて、「自分もその中に入っていきたい」と言ってくれました。彼は人間性も最高なやつですけど、若いときから才能を持ちながらもひねくれることなく、素直にいい青年に育ってくれてるので頼もしいですよ。
WI 三浦さんとは、この活動のことやエイズのことに関して、普段からプライベートでもお話されているのですか?
寺脇 春馬のほうから「この人と仲良くさせてもらっていて、コンサートに出てもらいたいんですけどどうですか?」とか僕らに提案してくれるんです。僕らが知らない若い俳優さんとかミュージシャンの人を春馬は知ってるので、頼り甲斐はありますよね。
岸谷 支援を継続し続けることは本当に大変なんです。1年や2年は、頑張れば誰でもできると思いますが、20年以上やってきて心底思います。
寺脇 本当は寄付の必要がないほどエイズがなくなればいいんですよね。でもなかなかそうはならないから啓蒙活動も辞められないんです。
WI 続けるという話で少し脱線してしまいますが、おふたりはプライベートで続けていることは何かありませんか?
岸谷 鼻歌かな(笑)。鼻歌以外は……ないなあ(笑)。
寺脇 他にもあるでしょ(笑)。これは五朗ちゃんに教えてもらったんだけど「半身浴」。毎日絶対にやってます。……5年くらい。
岸谷 短い! 5年かよ(笑)。
寺脇 それまでは“カラスの行水”みたいだったからね、僕。夜はシャシャシャシャって終わるけど、朝はたっぷり30分。浴槽に入って新聞を読みながら汗をかいて、水を飲み、汗をかいて、水を飲み。お風呂から上がったらストレッチ。そしてジョギングへ。仕事があるときは、出発の1時間半前に入るようにしてます。汗がなかなか引かないからね。
岸谷 汗が引かなくて出られないね、特に夏は。ほとんど裸みたいな状態で、迎えに来てもらった車に乗るもん(笑)。ストレッチのタイミングを間違えちゃうと、いちばん頂点で汗が出てるときって、なかなか引かないんですよ。でも出なきゃいけないから、家を出るギリギリまで裸でいて、車が着いたら短パン履いて、タンクトップ着て、車に乗り込んで、車内で汗拭いて……みたいな(笑)。
寺脇 彼は、ものすごく代謝がいいんですよ。たとえば、「今日のお昼はカレーライスにしよう」って話して、パッて見たら、バーッて汗が出てる。“カレーを食う”と考えただけで汗が出るという代謝のよさ。カレー屋に入ったら「どうした!? まだ食べてないぞ?」というぐらい汗をかいてます。
岸谷 いま「カレー」と聞いただけでも、ちょっとジワッと……。僕が続けていることも「半身浴」。相当長く続けていて、僕クラスになるとすごいですよ。半身浴歴30年! 僕は40~42度くらいのお湯に入って、4分半ぐらいで汗が出てきますね。
寺脇 僕は15分ぐらい経たないと出ないなぁ。
岸谷 前は、ふたりで一緒にサウナに入っても、全っ然汗をかかなかったのに、いまはすごいよね。
寺脇 でも半身浴を始めてから、風邪を引かなくなりましたね。あと、乾布摩擦もやっています。冬なんかは、お風呂に入る前に体を温めるために乾布摩擦をしてから入ります。
岸谷 そうなんだ! 効き目あるの?
寺脇 俺の家、脱衣所が寒いんだよ。
岸谷 すぐ風呂に入ればいいじゃないか!
寺脇 お風呂に入っても半身浴だから、最初は上半身が寒いじゃん。だから乾布摩擦してあったかくしておくの。五朗ちゃん家は、風呂の中にあっためとくの何かついているんでしょ? 俺の家、そういうのないからさ。半身浴以外にも、五朗ちゃんにはいろいろ教えてもらっていて、僕はタバコも止められました。
岸谷 いまタバコ、大嫌いでしょ?
寺脇 うん。「煙、向こう行け! バカヤロー!」とか「ニオイがする……誰だ!」って(笑)。タバコを止めるまでは、ごはん食べながら吸ってたのにね。それくらい僕らタバコが好きだったんですよ。
岸谷 僕なんか一日3箱くらい吸ってたから……え、60本!?
寺脇 僕らが吸っていた理由は、「タバコが吸いたいから」じゃなくて「男だったら吸って当たり前」という感じで、映画でもテレビでもかっこいい男は全員吸っていて、タバコの吸い方がかっこいい男は素敵だなっていう。俳優さんの吸い方を研究したりしてたよね。
岸谷 演技のひとつ、役作りのひとつみたいになっていたんです。いまはテレビドラマでタバコを吸ってるシーンって、めったにないよね。
寺脇 いま考えたら、寿司屋で平気で吸ってたけど、自分が食べる寿司とか皿が手元にあるのによくタバコを吸っていたなって思いますね。
岸谷 タバコの話をしていて思い出したけど、N.Y.がこの1年でタバコが吸えなくなったんです。僕がタバコを吸っていたときは、モクモクの煙の中でバーボンとか飲んでいるってイメージだったのに、ある時期から店の半分くらいが吸えなくなり、僕もまだタバコを吸ってたから「なんだよ」と思っていたけど、翌年になったら全部の店が、あっという間に吸えなくなりました。でも当時、東京ではまだ吸える店も多くて、「N.Y.で起こっているようなことが東京では起こらないだろう」と思っていました。だけどそれから何年かしたいま、東京もほとんどの店でタバコが吸えないじゃないですか。結局、巨大な先進国の影響を受けて、日本も真似している状態なんだなと思ったんです。
寺脇 たしかにあっという間に広まったよね。
岸谷 だからエイズの問題も、アメリカが大きく動き出せば、遠からず日本にも何かしらの動きがあるはず。いま教育がなされていない貧困に陥っているアジア諸国では、まだまだタバコを吸える場所も多いし、それを見て、いつかの日本を見ているような気持ちになるんです。僕らがアメリカなど他の先進国から受けた影響を、日本が先頭に立ってアジア諸国に影響を与えていかないといけないと思っています。それは「エイズ」のことももちろん。「エイズとはこういう病気なんだよ」とか、「こういうことをしたらエイズになってしまうんだよ」ということを、僕らがいま支援しているラオスでももっと広めていかなくちゃいけないし、そうしなければいけない時がきている気がします。
WI 徐々に変わっていく世界に対して、それを若い世代に次々に受け継いでいかなければいけないということですよね。
岸谷 そうですね。早く受け継いでくれるといいなぁ。
AAA「THE VARIETY」のいままでの寄付金の総額は、約2億5,000万円。世界のエイズを取り巻く状況をみれば、決して大きな額ではないけれど、AAA「THE VARIETY」を通して会場からメッセージを伝え、エイズと闘う子どもたちへ寄付金を送り続けることに大きな意義があります。
おふたりが願うのは、エイズを撲滅し、AAA「THE VARIETY」といった活動がなくなる日がくること。
会場に足を運べない方も、12月1日の「世界エイズデー」に、少しだけエイズに目を向け、考える機会になればと思います。(さとう のりこ)
~魂の俳優大熱唱!助けてミュージシャン!~
2016年12月1日(木)17:30開場/18:30開演 @日本武道館
【出演】岸谷五朗 寺脇康文 三浦春馬
柿澤勇人 平間壮一 松下洸平/小池徹平/中川晃教/柚希礼音 植原卓也 水田航生/山崎育三郎 古屋敬多(Lead) ミュージカル「プリシラ」キャストの皆さん/大黒摩季/岸谷香 高橋みなみ/サンプラザ中野くん パッパラー河合/島袋優(BEGIN)×ポルノグラフィティ/Da-iCE/武田と哲也/藤原さくら 他
http://www.actagainstaids.com/
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