「note」を知っていますか? ここ数年で一気に台頭してきたメディアプラットフォームで、だれもが簡単に文章や画像、音声、動画を投稿することができ、ユーザーがそのコンテンツを応援することができるもの。ここから素敵な文章やカルチャーが多数生まれています。
その中で注目されているのが、作家の岸田奈美さん。noteに投稿したエッセイが何度も反響を呼び話題を集めました。そんな岸田さんの初単行本『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』は9月23日の発売以来、何度も重版を重ねる人気ぶり。
11月19日発売のCanCam1月号『20代の転職』企画に登場していただきますが、それに先駆けてCanCam.jpではスペシャルインタビューをお届けします。
文章の話、世界を面白く見るコツ、そして「家族を愛したいのに愛せないとき、岸田さんのように『愛したのが家族だった』になるためにはどうしたらいいのか」…岸田さんの目を通して見る世界、早速見ていきましょう。
Q.どのエッセイも非常に素敵なのですが、人生で起きる数多くの出来事の中から「これを書こう!」とどのように決めていますか?
数か月前までは、「これまでの人生の中で、居酒屋などで話して、ウケた話から書いていこう」という順で書いていました(笑)。この「ウケる」はただ面白いだけじゃなくて、泣ける話や人が親身になって聞いてくれた話もあるんですが、とにかく人の感情が大きく動いて刺さったことから書いていきました。だから前までは過去の話が多かったんです。今回の本は、そんな今までのエッセイの中から書籍の担当編集さんが情熱を持って選んでくれたお話が多数収録されています。
今はそのときから少し変わって、私がマネジメントをお任せしているクリエイターエージェンシー・コルクの信頼できる編集者、佐渡島さんに日々あったことをとにかくたくさん話す中から「じゃあこれを書いていこうか」と決めています。
Q.日頃、文章を書くために心がけていることは?
とにかく「受信癖」をつけることです。
▼線を引きながら本を読む
作家として独立してから、かなり本を買って読むようになりました。
会社員時代は月3冊ほどでしたが、フリーになってからは月3万円くらい買って、いいなと思った文章に、30色は持っている蛍光ペンで線を引きながら読んでいます。
ただ線を引くだけではなく、たまに、線を引いた文章をパソコンに打って書き写しています。
言葉は使えば使うほど自分のものになっていきますし、大人になっても赤ちゃんと一緒で知っている言葉じゃないと使えないんです。素敵だと思った文章を自分で打ってみることで、言葉の出し方を自分の体に覚えこませています。
▼スマホのメモを習慣にする
インスタグラムを始めるとかわいい写真を撮るのが習慣になるように、私は気になった言葉をメモすることで言葉に気を配ることを習慣にしました。何をメモするかは多岐にわたっていて、たとえば本や誰かの言葉で気になった言葉を書きとめたり、自分の中でふと思い浮かんだ言葉をメモしたり…。今までだったら流してしまっていた言葉に気がいくようになりますよ。
▼たとえグセをつける
「ヤバい」と思ったことを伝えたいときに「胸が張り裂けそうなほどつらい」とか、そういった言葉はもう使い尽くされているので、違う言葉を探します。
先日糸井重里さんにお会いする機会があったんですが、今更言うまでもないことですが、文章が本当にめちゃめちゃうまいですし、言葉の使い方をものすごく意識している。たとえば私が「これおいしいですね」と言ったら「おいしいという言葉の価値が下がるからその言葉を使ってはだめ、おいしい以外の言葉を使っておいしいを表現しなさい」と言われたり…。何かを表現したいときに、とにかく意識的に他の言葉でたとえることを訓練しています。
Q.世界の見方が「岸田さんならでは」の面白さに満ち溢れているように思いますが、日頃どのように世界を見ていますか?
…「アホのふりをすること」(笑)。要するに知ったかぶりをしない、気になったことは素直に聞くことです。
たとえばラジオ番組の収録で、収録前にスタジオを見学しに行ったときにみなさんが進行を紙で見ていたんですね。パソコンでもいいじゃないかと思ってどうも気になって「その紙はなんですか」と聞いたら「まず、そんなことは聞かれたことがなかった」と言われて「パソコンだと誰がいつのバージョンのものを見ているかわからないけれど、紙だと第何版と大きく書いてあるから、パッと見て全員がちゃんと最新版を持っているかどうかがわかる」と教えてくれて。それってめちゃめちゃ面白いじゃないですか。
『聞く力』の阿川佐和子さんはまさにこの「素直に聞ける方」の代表格なんですけど、阿川さんって「ヘヴィメタルってなんですか」とデーモン小暮さんに聞けるんですよ。普通に考えると、デーモン小暮さんにヘヴィメタルってなんですかなんて、恐れ多くて逆になかなか聞けない(笑)。でも普段は聞かれないからこそ、デーモン小暮さんもめちゃめちゃ丁寧に答えるし、阿川さんもそれをめちゃめちゃ面白そうに聞くんです。つい誰かにお話を聞くときって、事前に調べなきゃ知っておかなきゃと思って調べてそれでわかったと思い込んでしまうけれど、そこであえて聞いてみると面白い話が出てくる。
「知らないこと」って面白いんですよ。「面白い」と人が感じることは「8割共感・2割発見」の比率だと思っているので、私がどれだけ驚いたかという発見を、共感を持てる文章で書いていくことが多いです。
Q.「家族」が大きなテーマになっている岸田さんのエッセイ。今回の書籍のタイトルも『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』です。「家族となかなかうまくいかない」という方も増えていますが「愛したのが家族だった」になるためには、どうしたらいいですか?
まず何より「家族だから愛そう」と思わないことです。無条件に愛するんじゃなくて、本当に愛せるかどうかを考えなきゃいけない。
一般的に「家族はいたわったほうがいい」「家族は大事にしなければいけない」ということは当たり前のように思われています。でも、あまりに当たり前だからこそ「なんで?」と聞かれたら誰も答えられない。これは要するに宗教に近い何かです。
そういう信仰は、ともすれば呪いに変わります。たとえば誰かに「お前はブスだ」と言われたら、その言葉を引きずって自分に「私はブスなんだ、ダメなんだ」と呪いをかけてしまうことってよくありますよね。それと同じように、家族に責任感を持ってしまうと、無意識のうちに「家族に愛情や責任を持てない自分はダメだ」という呪いをかけてしまいます。
家族と仲良くできないと悩んでいる方は、そもそも「本当に家族を好きになりたいのか、好きになったほうが幸せなのか」を考えてみてください。
正直「離れたほうが幸せ」な家族は、いくらでもいるんです。距離が近いことがいい家族だと思われがちですが、近いことが必ずしもいいわけではなく、離れるのが向いている家族もあるので、うまーく距離を取っていけばいいと思います。
実際、私も母とは近い距離で過ごしていても問題ないですが、弟とは年に1回1泊2日で会うくらいの距離感がちょうどいい。家族とずっと一緒にいるのがしんどいなと思ったら「1泊2日ならいける。でも3泊4日はきついな、じゃあ2泊3日はどうかな」くらいの「いちばん愛せる距離感」を探せばいいんです。「家族だから愛する」じゃなくて「愛せる距離感を探る」から始めてみてください。
そして、自分では選ぶことができない「自分が生まれた家族」をどうしても愛せないなら、自分でパートナーを選んで「自分が選んだ家族」を大切にする方法だってあります。
そうやって「いちばん愛せる距離感」を探ればいい。そうすることで「家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった」になるんじゃないかな、と思います。
岸田さんの書籍『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』やnote、Twitterなどで、ぜひその世界をもっと味わってみてくださいね。
→岸田奈美さんインタビュー後編【会社員時代と独立までのお話】
『家族だから愛したんじゃなくて、愛したのが家族だった』
岸田奈美・著
1,300円+税(小学館)
1991年生まれ。兵庫県神戸市出身。関西学院大学人間福祉学部社会起業学科卒業。「バリアをバリューにする」株式会社ミライロで広報部長をつとめたのち、作家として独立。100文字で済むことを2000文字で伝える作家。一生に一度しか起こらないような出来事が、なぜだか何度も起きてしまう。
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