脱ストレス!職場で本音を出しても嫌われない3つのコツ
友達に見せている顔と家族に見せている顔が少し違うように、職場でも「仕事用の自分」の顔を見せている人は多いものです。
キャラクターを多少使い分けることによって楽になる気持ちは、多くの社会人が経験しています。とくに新人にとって職場は未知の世界。素の自分を出すより、上司ウケするキャラクターを演じる方が良いのではないかと感じること、ありますよね。
それで自分が楽に働けるなら良いのですが、「言いたいことが言えない」とストレスを抱えてしまっているなら、なんとかしたいところ。
「職場で素が出せない、本音が言えない」というストレスについての解決策を、職場の悩みのエキスパートに教えていただきましょう。
▼お悩み其の六「空気を読みすぎてストレスが溜まる」
■新人Hさんの悩み
「普段はそんなキャラでもないのですが、職場ではすごくおとなしくて物分りの良いキャラクターで通しています。和を乱すのが嫌なので、先輩や上司が言うことにはとりあえず『そうですよね』と同意してばかり。それが自分の意見と違っても、多少おかしいと思うことでも、反論はしません。
空気を読んで周りに合わせることで仕事がスムーズになると思い、そうしてきました。でも最近それがしんどくなってきて、精神的に参っています。ストレスを溜めないためにはどうしたら良いですか?」
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Hさんの悩みは「空気を読みすぎて正直な意見を言えず、ストレスが溜まる」というものです。空気を読むスキルは仕事においておおいに役立ちますが、使い方によっては自分が苦しくなってしまいます。和を乱さないようにしながらストレスを上手に回避するには、どうしたら良いのでしょうか?
今回も解決策を教えてくださるのは、株式会社リクルートマネジメントソリューションズの桑原正義さん。新人・若手の育成ノウハウ研究の第一人者で、企業向けのセミナーも多数開催。研究者というフラットな立場から新人サイドと上司サイド、両方の悩みに日々直接触れている、まさに職場の悩み解決のエキスパートです。
このままでは心身の健康を害する可能性もある、今回のお悩み。心地よく働くためのコツを伺っていきましょう。
▼キャラクターの使い分けは新人世代に多い特徴
桑原さんによると、「その場によってふさわしいキャラクターを使い分けることは、決して悪いことではありません。そしてこの使い分けが得意な人が、新人・若手世代に今増えています」とのことです。
◆ほとんどの人が相手によってキャラクターを使い分けている
人は誰でも無意識のうちに、相手によってさまざまなキャラクターを使い分けています。明確に演じ分けているわけではないにせよ、家族、友達、職場の同僚、上司……といった関係性により、少しずつ異なる対応が自然に出てくるものですよね。
上手にキャラクターを使い分けながら暮らす生き方を、小説家・平野啓一郎氏は「分人主義(分人化)」と呼んでいます。現代日本の若い世代はこの生き方がとても得意だと言われており、ここ数年注目を集めています。
◆キャラクターを使い分けるのは「悪いこと」ではない、けれど…?
求められる役割を演じるのに適した「分人主義」は、多くの場合仕事や人間関係を円滑にするのに役立ちます。
桑原さん「分人主義は、従来の価値観では八方美人とも言えるため、良いイメージを持たれないかもしれません。しかし複雑で多様性の高い現代の環境においては、生きるための術と考えられますし、決して悪いことではないと思います。
キャラクターを使い分けることで仕事がスムーズに回り、自分にとっても生活を充実させる方向に作用するなら、ためらわず活用した方が良いと、私は思います。
ただ問題なのは、キャラクターを演じることでかえってストレスが溜まってしまうケースです。Hさんのように空気を読みすぎてつらくなってしまうなら、職場にいるときの自分を少しずつ『素の自分』に近づけていくと良いかもしれません」
▼会社の自分を「素の自分」に近づけるメリットは?
会社でも素の自分を少し出していけるようになると、ふたつの大きなメリットが得られます。
ひとつは、自分らしさが発揮できて気持ちが楽になり、仕事も充実すること。
桑原さん「会社は収入を得る場所と割り切って、期待される役割を演じきる。その分プライベートでは好きなことを好きなようにする。そんな生き方も良いと思います。
でも会社にいる時間って、けっこう長いですよね。その時間を割り切って過ごすよりも、自分らしく意味ある時間にしていける方が、幸福度は高くなると思います」
そしてもうひとつのメリットは、職場の人との信頼関係が深まる可能性があることです。
桑原さん「上司や親の世代はやっぱり『本音で接してほしい』と思っている人が多いんです。なぜかというと、彼らが新人の頃は今より本音で接することが社会的に自然だったから。上司は仕事関係の人とも『お互いに素を出し合える関係が信頼関係』という感覚で接してきました。その背景があるので、本音で接してこない若手に対して寂しさを感じがちな傾向があります」
なるほど。上司世代が若手に対して「何を考えているのか分からない」と言うことがありますが、それは自分たちが比較的本音を見せて仕事をしていたからなのですね。
桑原さん「反対に言えば、本音で会話してくれる部下には好感を抱きやすいということ。素の自分を少し見せることで信頼関係が深まり、かえって仕事がスムーズになるケースもあります」
▼職場で少しずつ「素の自分」を見せる3つのコツ
もっと楽な気持ちで仕事をするためには、少しだけ「素の自分」を出していくのが良いのかもしれません。
でも実行するにはコツが必要な気がします。どこまで本音を言って良いのか、どうしたらトラブルを起こさずに済むのか、具体的なポイントを事前に知っておくと良さそうですね。
具体的な3つのコツを桑原さんに教えていただきましょう!
◆コツ1.少しずつトライ&エラーで試す
桑原さんいわく「素の自分を出すためには、やはり意見を言葉にしていくことが大切です」とのこと。
桑原さん「ただし職場によって風土がそれぞれ異なります。100%素の自分というのは出す方も勇気が要りますし、職場によっては受け入れられないケースもあるでしょう。
だから一気に素を出そうとするのではなく、ほんの少しずつ自分の意見を言葉に変えて、口に出す。これがおすすめのやり方です。トライ&エラーでちょうどよいラインを探っていきましょう」
一番大事なのは自分の気持ちです。自分がどれだけストレスなく、居心地よくいられるか。それを基準にすると、さじ加減がしやすくなります。
「今日は空気を読みすぎてストレス溜めちゃったな」と感じたら、翌日は少し素の自分を出してみる。「今日はちょっと素を出しすぎて、逆に疲れたな」と感じたら、翌日は少し素の自分を引っ込めてみる。いきなり全員に素を出そうとするのではなく、まずは本音を言いやすい人から言ってみる、など。
最初から意見を口にするのが難しそうなら、「無理に同意する」行為をやめるだけでもストレスは軽減されます。たとえば「違うと思ったら同意の言葉を口にしない」「不快な話題では笑わない」といったアクションを、こっそり心がけてみる。それだけでも素の自分に一歩近づけますよね。
小さなトライ&エラーを繰り返し、居心地の良いラインを探りましょう。
◆コツ2.言葉にする際「意図」も一緒に伝える
素直な意見を伝えることは、勇気が要ります。今日は本音を言おうと思ったのについ飲み込んでしまう、ということも多いでしょう。
桑原さん「素の意見を言葉にするときは、それを言う『意図』も一緒に伝えるのがおすすめです。『意図』とは言葉の奥に隠れた本当の目的のことで、これを一緒に伝えるように心がけると、本音を言う自分も受け取る相手もぐっとハードルが下がります」
たとえば、営業として働き始めた新人が毎日セールスの電話を20本かけるよう指示されたとします。この新人が数日後に「電話営業を減らしたいです」と口にしたら、上司はどう感じるでしょうか。
新人の意図を何も知らない状態だと、おそらく「やる気がないの?」とムッとしてしまうでしょう。
でも新人の側になってみれば、次のような考えがあって発言したのかもしれません。
「まだスキルがないのでもっと練習してから頑張りたい」という思いがある。
「電話するより、お客さまに直接会って話したい」という熱意を持っている。
「電話をかけることで得られるメリットが分からず、モチベーションが湧いてこない」と悩んでいる。
などなど。
「電話営業を減らしたい」という言葉だけでは、これらの思いは伝わりません。言葉の裏にある本当の意図までしっかり言葉にする必要があるのです。
この電話営業のケースでも、本当の考えを理解してもらえたら、「そういうことだったのか」と上司も納得しやすくなります。
◆コツ3.本人に言えない場合は周囲に相談する
職場の風土や人間関係によっては、「おかしい」と思うことを本人に伝えるのが難しいケースもあるでしょう。でも一人で抱え込んでしまうと、ストレスが溜まるばかりです。
その場合、まず周囲に本音を伝えて相談に乗ってもらいましょう。
相談する際に心配なのは、やはり先ほどと同じく「意図を誤解されてしまうこと」です。先輩に「電話営業減らしたいんですよね」と言うだけでは、「なんだこの新人は」と思われてしまうリスクがあります。
でも次のような相談の仕方ならば、だいぶ印象が変わります。
「電話をかけられる相手は限られているので、もっと練習してからかけた方が成果が上がるのではないかと感じています。先輩はどう思いますか?」
「本当はもっと外に出て直接お客さまとやりとりしたいです。先輩にもそういう時期はありましたか?」
「電話営業のメリットが分からなくてモチベーションが上がらず、困っています。先輩はどんな点がメリットだと思いますか?」
こんなふうに相談されたら、先輩も自分の経験や考えを教えてくれるでしょう。
*自分の意図を伝えるコツについては、こちらの記事でも詳しく説明しています。
意見を言うときに「意図」までセットで伝えることは、職場のあらゆる人間関係に応用できます。同じ部署の人たちやランチで同席するグループなど、さまざまな場面で活用していきましょう。
▼まとめ:職場の自分と素の自分、心地よいmixレベルを見つけよう
どのくらい「素の自分」を出せば心地よく働けるのか。そのボーダーラインは人によって、また職場によっても異なります。自分にとって最適なラインを見つけられるまで、少しずつ試していきましょう。
それでもやっぱり、職場で素を見せるのは抵抗がある。職場の雰囲気的にもちょっと難しい。そう感じる場合は、「友達に話しても良いし、日記に書くのもおすすめです」と桑原さんは語ります。
一番大事なのは、モヤモヤした気持ちを自分の中に抱え込まないことです。どこかに本音のはけ口をつくって、ストレスを上手に発散していきましょう!
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次回(最終回)は「学生時代と就職後のギャップにまつわる悩み」について解決策を伺います。
1992年、人事測定研究所(現リクルートマネジメントソリューションズ)入社。営業、商品開発、マーケティングマネジャー、コンサルタント職を経て、現在は「新人・若手の育成」をメインテーマとした企業向けトレーニング・研修の開発に携わる。育成ノウハウの体系化に取り組むと同時に、上司・育成担当者向けのセミナーを広く開催。時代に即した新たな「育成のアタリマエ」の普及に尽力している。東京都公立幼稚園・こども園PTA連絡協議会副会長。https://www.recruit-ms.co.jp
(取材・文/豊島オリカ)