「憲法第9条」「集団的自衛権」。そんな言葉が、連日新聞やテレビを賑わせる昨今。今、日本が進むべき道は?──『ジブリアニメから学ぶ宮崎駿の平和論』の著者、創価大学平和問題研究所助教・秋元大輔さんに、宮崎作品からにじみ出る現代の日本の姿をうかがいました。
★1回目はコチラ→ 「ジブリアニメから学ぶ宮崎駿の平和論」著者インタビュー(1)
★2回目はコチラ→ 「ジブリアニメから学ぶ宮崎駿の平和論」著者インタビュー(2)
Woman Insight (以下、WI) 『紅の豚』の背後には、どんな政治情勢が潜んでいるのですか?
秋元大輔さん(以下、秋元) 湾岸戦争の影響が色濃く見られます。1992年に公開された映画ですから、冷戦が終わって宮崎監督がはじめてリリースした作品になるわけです。1990年にイラクがクウェートを侵攻して、多国籍軍をつくるにあたりアメリカは日本の参戦を望んだわけですが、このときの日本の態度は「憲法第9条があるので参戦はできない」と。ただ日本は「殺さない」方法で、機雷除去のために掃海艇を送ったり、その後PKOに参加したり、不殺生主義の主人公の豚=ポルコと相通じるところがあると思います。
WI そのときの日本の態度に対し、宮崎監督は肯定的にとらえていたのでしょうか?
秋元 湾岸戦争に対する怒りはもちろんありますが、しかし武力によって平和を達成するということ自体は肯定的にとらえていません。では日本にどうしてほしいかというと、「憲法9条を維持して、戦争には参戦しない」ということになると思います。それはイタリア空軍に戻ることのなかったポルコに反映されています。イラク戦争ののち、「殺さずに」自衛隊が任務を遂行して帰ってきたことは偉い、と宮崎監督自身が述べています。護憲派の中には自衛隊そのものも認めないという人もいるのですが、宮崎監督ご自身は認めているようですね。
WI 平和学の視点からみると、自衛隊はどう映るのでしょうか?
秋元 平和学者の中には自衛隊そのものも否定する人も少なくない。これは平和学者によって意見が分かれるところなんですが、個人的には、「自衛隊は自衛のためで戦争のためのものではない」ととらえています。国家間を個人間にたとえると「正当防衛」のみということですので、殺人のためではない、つまり法に基づいてピストルを持っている、いわば警察力としてとらえています。きちんと法の力でコントロールされた警察力ということです。
WI 主人公ポルコの存在というのは、世界における日本という存在に近いのですね。でもなぜそもそも主人公が豚なのでしょう?
秋元 動物になった理由はイタリア空軍の徴兵から逃れるためということもあったと思いますが、でもなぜあえて豚なのか。宮崎アニメで豚といえばもうひとつ、象徴的なシーンがあります。『千と千尋の神隠し』でも両親が欲深さゆえに豚になってしまいますね。ここでも豚は欲望や醜さの象徴として描かれています。ポルコが豚になったというのも自らの欲望を自省する意味もあったのではないでしょうか。「自分だけは生き残りたい」「自分の親友を見捨ててしまった」という利己心・エゴイズムにさいなまれて、「豚のほうが人間よりまだマシだ」と豚になった。戦争をする人間たちより豚のほうがまだマシだという、かなりの皮肉を込めてあえて豚を主人公に据えたのだと思います。
WI 『ハウルの動く城』はどんな見方が成り立つのでしょう?
秋元 『ハウルの動く城』も興味深い見方ができます。ポルコとハウルに通底する不殺生主義というのは、「憲法第9条」と考えられます。憲法第9条を体現しているのが『ハウルの動く城』のヒロインのソフィーなんですね。だから「戦争なんてやだねえ」と言って、はじめから最後まで戦争に行くハウルを引き留めようとする、戻そうとする。火の悪魔カルシファーは、ハウルと契約を結んでハウルが戦うときに力になる「自衛力」、すなわち「自衛隊」のような存在です。そして9.11以降の作品ですので、ハウルを戦争に参加させようとする王宮付き魔法使いマダム・サリマンは、アメリカ、特にブッシュ政権を象徴しているとも取れますね。
WI 『もののけ姫』が先生の今回の著作に所収されていないのは、少し意外でした。
秋元 『もののけ姫』こそ、平和学の題材にすべきなんですが、今回の本のテーマである「不殺生」からははずれてしまうのであえて割愛したんです。『もののけ姫』は「集団的自衛権」とまず関連づけられます。物語は、アシタカが村と娘たちを守るために「タタリ神」を殺して呪われてしまうところから始まります。国家間にたとえると、アシタカが呪われてしまったのは「集団的自衛権」を行使したから、という形になります。アシタカがいったん集団的自衛権を行使してしまうと、予期せぬ強い力になってしまう。そして自分の意図しないところで次々と人を殺めてしまいます。国家間でいえば、集団的自衛権がもし行使しなければいけない状況が生まれたとすると、そのときはもうすでに緊張状態がかなり高まっているはずなので、いったん行使されてしまうと抑制が利かなくなってしまいかねない。そのことをアシタカの異常な力が示唆しているように映ります。
ジブリアニメに透けて見える、苦渋の日本。どの作品を通じても、日本が進むべき道をほのかに照らしているような気がしてくるのは、宮崎駿という天才の偉業といえるかもしれません。日本人が本当に大切にすべきことは何なのか? ぜひ、秋元先生の著作を手に、思いを巡らせてみてください。(ナスターシャ澄子)
★1回目はコチラ→ 「ジブリアニメから学ぶ宮崎駿の平和論」著者インタビュー(1)
★2回目はコチラ→ 「ジブリアニメから学ぶ宮崎駿の平和論」著者インタビュー(2)
『ジブリアニメから学ぶ宮崎駿の平和論』秋元大輔著・小学館新書
定価:本体720円+税
【あわせて読みたい】
※全世界の人気観光都市1位になった”京都”、今こそ行くべきな理由
※まるで天国!疲れた心を癒してくれる「理想の美しい南の島」の写真集を発見
※巨大吊り橋、樹齢千年を超える森…バンクーバーの自然を味わいつくす!