「園子というひとりの女性を演じきったことは、ひとつ大きな恋を経験したような感覚でした」
そう語るのは、映画『花芯』で主人公・園子を演じた、女優の村川絵梨さん。
原作となっている恋愛文学『花芯』は、1957年、新進作家として賞を受賞するも「子宮作家」と批判を浴び、長く文壇的沈黙を余儀なくされた、瀬戸内寂聴さんによるもの(当時は瀬戸内晴美として執筆)。
『花芯』とは、中国語で「子宮」を意味する言葉。
園子は、親の決めた許婚・雨宮(林遣都さん)と結婚し息子を儲けながらも、夫の上司・越智(安藤政信さん)に恋をし、次第に肉体の悦びに目覚めていきます……。
昭和32年、当時の世相に反逆するかのような園子の生き様。単なる物語の主人公というだけでは見過ごすことのできないこのヒロインを、村川さんはどのような気持ちで受け止めたのでしょうか。
「女優というお仕事をやらせていただいている上で、いつかは必ず通る役と思っています。この作品は、瀬戸内寂聴さん原作ということで“子宮”という表現もされていますが、園子という役は、いろんな深いところを掘り下げて感じ取らなくてはならない人物で、そこに私が挑んでいけるかという不安はありました。でも台本を読んで、『この台詞を言いたい』と心から思ったんです。ここまで複雑な想いを簡潔に言える役はなかなかありません。言葉数が少ないがゆえの重みというか、こういう役に挑戦できるのはありがたいこと。だから、この役を他の人に取られたくないと思ったんです(笑)」(村川さん)
“園子”を「ぜひ演じたいと思った」という村川さんですが、「もし同じような役どころで『花芯』以外の作品だったら?」と聞くと、こんな言葉が返ってきました。
「この作品でなければ『やります。やりたいです』とすぐに返事ができなかったかもしれないです。私はいま28歳ですが、もし2年前にこのお話がきていたとしても覚悟ができていなかったかもしれないし、自分の中でのタイミングも合って、この作品に出演できたと思います。(セックスのシーンにも)抵抗は全くなかったです。必要不可欠なシーンですし、それを通じて表現できるものが集まっている作品だから」(村川さん)
演じていて、“園子”の生き方や振る舞いに共感する部分もあったそう。
「女性はどうしても受け身でしかいられない……そんな切なさを彼女から感じました。でも園子は『ただ黙って受け入れているんじゃないぞ』という反抗的な感じもあって(笑)。それってもしかしたら、男性と交際した経験があれば、女性なら少しは感じる気持ちなんじゃないかなと思うんです」(村川さん)
園子は口数が少なく、感情をあまり表に出さない人間。同性の目で見ても「いまこの人はどんな気持ちなんだろう」と思ってしまうほど。ただ、ある日突然恋を知った園子は、唇に紅をさし、口元にうっすらと笑み……。そんな園子の微妙な心の変化を表現する以上に難しかったのが、「言葉を発すること」だったとか。
「この作品では、話すことのほうが難しいという感覚に寄ってしまっていました。園子は恐らく、複雑に物事を考えてはいなくて、深く悩まないし、思い立ったら即行動というか、潔いタイプ。ただ佇んでいるだけのシーンでも、特別に演じることもなく存在できた気がします。だからこそ、台詞を発するときのほうが難しかった。ひとつひとつの言葉に重みがあり、男性にはグサグサ刺さるでしょうね(笑)」(村川さん)
実は、村川さん自身も言葉に出さないタイプ。
「自分の中で解決してしまうので、他人がかかわっている物事でも、どこか俯瞰して見ている自分がいるんです。周りからは『何を考えているかわからない』って言われることが多いですね(笑)」(村川さん)
園子を演じていて、村川さんが彼女の本心をいちばん感じたのは、夫、そして不倫相手と“体を重ねている瞬間”だと言います。
「女性って、男女の絡みをしている最中がいちばん情緒が不安定になると思うんです。女性は最中に『好き』『さみしい』『なんか嫌』とか、いろんな感情もあふれてくるけれど、“受け身”になることが多い。だからこそ本能的に、いろんなことを考えてしまうんじゃないかなって。だから、絡みの最中に園子がいちばん感情を出しているなと感じたので、彼女の本心というか、旦那とセックスしているのに、鼻をかいて興味がない素振りをしてみせたり、逆に本当に愛しているから越智には腕を回せるとか。女性は、行為のときがすごく感情的になる瞬間でもある。でも反面、嘘もつける……しかも男性が見えてないところで。それが女性のいちばん恐ろしいところですよね(笑)」(村川さん)
それはまさに、男性に知られてはいけない“女の秘密”。ところで、結婚に幸せを見出せてなかった園子ですが、村川さんは「結婚」にどんなイメージを想い描いているのでしょうか?
「私、昔から結婚に夢を抱いていないタイプだったので、そこは園子と考えが似ているかもしれませんね。甘い幻想を描くということもなかったんです」(村川さん)
「女の幸せのピーク」はどこにあるのか……それは人それぞれ。世間の常識に背を向けながらも、子宮の命ずるまま生きることを選び生きていく園子。「もしかしたら園子に説教したい女性もいるかも」と、村川さん。
最後に、この作品を通して現代の女性に伝えたいことを聞くと、意外な言葉が……。
「演じていたとき、園子は特殊な人間なのかなと思っていたんですけど、完成した映画を観て、園子は普通に生きている普通の女性であって、みんなが感じることを同じように感じている。ただ、嘘がつけず、自分に素直に生きたから孤独になった……でも彼女自身、孤独を孤独だと感じていない。そんな生き方もあるのかなって。だけど、園子の生き方が素晴らしいからと薦めるような作品でもありません。ただ、この映画を観ることで、女性がそれまでの恋や愛を見つめ直せる機会にもなるんじゃないかなと。映画館でひとりでしっぽり観たくなるような作品だと思います。観ていただければ、それぞれ感じることは違うはずだし、観た人それぞれに“深淵”があると思う。だから私、映画を観てくれた方と座談会がしたい! 『あなたの深淵はなんですか?』って、聞きたいです(笑)」(村川さん)
約60年の時を経て映画化された本作で、美しい裸体を大胆に披露している村川さんは、時代を超えて現代にも通じる、女性の「愛欲」や「性欲」の真実を全身で演じています。
そんな村川さんのことを、安藤尋監督は「女性としての意志の強さと儚さを兼ね備えた、稀有な女優」と表現。凛とした芯の強さ、そして繊細さ。両極にあるものを持ち合わせた村川さんだから演じることのできた“園子”。彼女の生き方から、愛、性、生の深淵をのぞくことになるのか……。みなさんぜひ劇場でお確かめを。(さとうのりこ)
■ヘアメイク:フジワラ ミホコ(LUCK HAIR)
■衣装協力」銀座いち利
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