原 嘉孝、初主演映画♡『初恋芸人』をTikTokでバズりまくりのしんのすけがレビュー!

しんのすけ@今月のMOVIEコレミトコ!

TikTokの映画レビューでバズりまくりのアニキ・しんのすけさんがイチオシの映画をナビ☆

紹介してくれたのは…

しんのすけ
1988年、京都府生まれ。映画感想TikTokクリエイター。映像作家、株式会社MEW Creators代表。映画レビュージャンルを開拓し人気を集める。

Q.大好きな冬映画は?

A. アーノルド・シュワルツェネッガー主演の『ジングル・オール・ザ・ウェイ』と、クリス・エヴァンス主演の『スノーピアサー』!


今月の映画は『初恋芸人』

STORY

怪獣をネタにするピン芸人の佐藤賢治(原 嘉孝)は、鳴かず飛ばずで売れない日々をすごし、妄想の世界でイヤな相手を怪獣に見立てて、ヒーローとして戦うことで心の平静を保っていた。そんな中、賢治を「面白い」と言ってくれる市川理沙(沢口愛華)が現れ、惹かれていくのだが―。原作は、UMA(未確認生物)研究家でもある中沢 健の作家デビュー作。


彼女いない歴イコール年齢の売れないピン芸人・賢治は、怪獣ネタを武器に小さな劇場のステージに立ち続けています。ほとんどウケない客席の中で、ある日、ひとりだけ心から笑ってくれる女のコと出会い、彼女の「面白かったです」というひと言から、賢治の〝初恋〟が静かに始まっていくのです。

そんな今作の中で、僕の心に強く残ったのは、先輩芸人が口にする「恋をしたら途端に面白くなくなるんだよ」という言葉。今回は、この言葉が投げかける「恋と夢のバランス」というテーマと、「尊重しすぎて気持ちが伝わらない恋の痛み」について書いていきたいと思います。

賢治は人生で初めての恋に舞い上がっています。そんなタイミングで先輩芸人のネタが滑っている姿と、ニヤニヤと恋人と電話している姿をセットで見せつけられます。恋人ができてから明らかにキレがなくなった先輩を見て、「ああはなりたくないな」と頭をよぎらせる賢治。それでも賢治は、この初恋をやめることはできません。「あの先輩とは違う」「自分はちゃんと両立できるはずだ」と、自分に言い聞かせるように進んでいきます。失敗例を見てもなお、「僕はああならない」と信じるしかない、その危うさとまっすぐさが、賢治というキャラクターを一気に身近な存在にしてくれていました。

中盤、この作品の流れが一気に変わる展開があります。賢治が彼女から〝とある真実〟を打ち明けられるシーンでは、カメラはふたりの顔に寄らず、お店全体を映したまま、長回しのワンカットで時間を進めていきます。テーブルの上のグラスや、店員さんもそのまま映り続ける中で、ふたりだけが小さく揺れているように見える。この引きの画が、あのヒリヒリする空気を、僕たちにも容赦なく刺してくるのです。賢治は相手を傷つけないように、負担をかけないようにと尊重しすぎた結果、自分の本当の想いはほとんど伝わっていなかった。その残念さが、沈黙や視線の泳ぎ方ににじんでいて、見ていて胸がギュッとなりました。

一方で、もっと距離感が〝雑〟な人のほうが、するっと恋人ポジションに収まってしまうこともあります。ちゃんと相手を思いやってきた人よりも、少し踏み込みすぎるくらいの人のほうが選ばれてしまうことがある。あのワンカットには、「尊重したからこそ届かなかった恋」と「雑だからこそ手に入ってしまう恋」の矛盾した痛みが同居していました。

『初恋芸人』は、恋心の恐ろしさを描いているのかもしれません。怪獣芸人である賢治は恐ろしくも愉快な存在である怪獣を愛し、ネタにする。賢治は自分では扱いきれない「初恋」をネタにできたとき、怪獣と同じように、恋をすることができるのだと思います。

初恋芸人

配給:ギグリーボックス/公開中
©「初恋芸人」フィルムパートナーズ
CanCam2026年2月号「CCC!」より
構成/小山恵子 WEB構成/久保 葵