「自律神経失調症」って、結局どうすればいいの?体と心を整える4つのコツ【専門家監修】

メンタル不調の原因について調べていると、よく見かけるのが「自律神経」の文字。ストレスと関係があって、調子が崩れると「自律神経失調症」になるらしい……という、なんとなくのイメージはありますよね。

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ですが、そもそも「自律神経」って何なのでしょうか? 自律神経失調症にならないためには、具体的にどう生活したらいいのでしょう?

そんな疑問を解消すべく、自律神経失調症の原因・症状・予防策などについて、産業保健師の劉 詩卉(りゅう しひ)先生にお話を伺いました。

●今回教えてくれるのは……
劉 詩卉(りゅう しひ)先生
産業保健師。看護師として国立国際医療研究センター病院で勤務したのち、治療用アプリ開発ベンチャーを経て産業保健サービスを提供するエムステージに入社。企業における従業員の健康管理、予防医療に携わっている。産業保健や一次予防の重要性について、メディアを通じた啓蒙活動も行う。

■「自律神経」は、人体のアクセルとブレーキのようなもの

Q.そもそも「自律神経」って何ですか?

自律神経系(以下、自律神経)とは、体内環境を調節する役割(体温や心拍数・呼吸数の調節など)を担う神経系です。脳内の視床下部という場所でコントロールされていて、体性神経系(感覚神経、運動神経)とは異なり、自分の意識とは関係なく内臓や血管などに働きかけます。

自律神経は、「交感神経」「副交感神経」という2つの神経がバランスを取り合うことで機能しています。車の部品に例えると、交感神経はアクセル、副交感神経はブレーキに似ています。

危険に立ち向かうときや「何かを頑張るぞ」というときは、興奮を司る交感神経が優位になります。反対に、休むときや体力を温存すべきときは、リラックスを司る副交感神経が優位になります。

自律神経は、ストレス対応の司令塔のような役割も担っています。

たとえばレーシングゲームでミスをしそうになったとき、心臓がバクバクしたり、反対にスッと冷静になったりしますよね。これは、自律神経が「ミスをしそうな状況」というストレスに対処している証拠です。

危険を回避するために、脳がアクセルを踏んで心拍を上げたり、ブレーキを踏んで冷静になったりする。その脳の働きをコントロールするのが、自律神経です。

Q.では、「自律神経失調症」とは何ですか?

自律神経失調症とは、自律神経の2つの機能(交感神経と副交感神経)のバランスが崩れ、心身に悪影響を及ぼしている状態のことです。

ストレスを上手に受け流してくれる自律神経ですが、対処できるストレス量には限界があります。あまりにも大きなストレスを受けたり、本人がストレス反応を無視してガマンし続けてしまったりすると、自律神経がアクセルとブレーキをうまく調節できなくなってしまうのです。

このときに生じる不調が「自律神経失調症」です。

誤解されやすいのですが、「自律神経失調症」には確立した疾患概念や診断基準があるわけではありません。自律神経のバランスが大きく崩れて正常な働きができなくなっている状態を表す、非常に広い定義に使われる病態名として、医療機関から一般まで広く用いられています。

■自律神経失調症の症状と、早めに気づくポイント

Q.自律神経失調症になると、どんな症状が現れますか?

自律神経失調症の症状は人によってさまざまですが、主に、

・慢性的な倦怠感や疲労感
・めまい
・頭痛
・動悸や息切れ
・食欲不振
・不眠
・集中力や決断力の低下

といったものが挙げられます。

放置すれば「うつ」を招くケースもあるため、バランスが崩れやすい時期を知っておき、早めに気づいて対処することが肝心です。

Q.「バランスの乱れ」に早めに気づくポイントは?

自律神経のバランスが乱れているときは、心身に次のようなサインが現れます。

◆自律神経が乱れているサイン
・休んでも疲れが取れない
・いつもなんとなくだるい
・眠りが浅い
・食欲が減っている など

このほかにも、「何かおかしいな」「いつもとちょっと違うな」と感じたときは要注意です。

また誰にとっても自律神経が乱れやすい「要注意のタイミング」もいくつかありますので、ご紹介しておきましょう。

■要注意のタイミング(1)気候の変化

自律神経は体温調節にも関わる器官です。温度や湿度が急激に変化する「季節の変わり目」には負荷が増えます。

とくに気をつけたいのが「冷え」です。体が冷えると生命維持に支障が出るため、温めようとして交感神経が優位になります。この状態が続きすぎると、自律神経のバランスが崩れやすくなります。

冬はもちろん、夏の冷房にも注意しましょう。冷えた室内で仕事をする際は、はおり物や飲み物で体を温めたり適度に立ち上がって体を動かしたりと、工夫してみてくださいね。

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■要注意のタイミング(2)環境の変化

自分を取り巻く環境に大きな変化があったときも、自律神経のバランスが崩れやすくなります。

たとえば、春から新生活を始めた人。職場で人事異動があった人。自分の立場は変わらなくても、新入社員が入ってくるなど周囲に変化があった人。こうした変化は、無自覚であっても自律神経に大きな負担をかけています。

とくに今年はコロナ禍による生活の変化も重なり、例年よりもいっそう注意が必要です。

自律神経に負担をかけるのは、ネガティブな変化だけではありません。結婚や昇進といったポジティブな変化も、じつはストレスになります。お祝い事がストレスだなんて意外かもしれませんが、新しい物事にはワクワクと不安の両方を感じるものです。

自分を取り巻く環境が変わったときは、それがどんな変化であれ「自律神経に負担がかかりやすくなっている」という心構えをしておきましょう。

■要注意のタイミング(3)生理周期による変化

女性の場合、生理周期でも自律神経に乱れが生じます。この理由は、生理に関わるホルモンの分泌が自律神経をコントロールしている脳の部分のすぐ近くで行われるためです。

生理でホルモンバランスが崩れやすい時期は、「自律神経も乱れやすくなる」と意識しておきましょう。

■自律神経失調症にならないために…今すぐ始める4つの習慣

自律神経は、自分の意志ではコントロールできません。交感神経と副交感神経をバランスよく動かすためには、生活習慣や行動を工夫する必要があります。

具体的には、次のような習慣を心がけましょう。

(1)意識して「副交感神経」を優位にする

環境に変化があったときは、緊張やプレッシャーから交感神経が優位になりがちです。そこで、自律神経のバランスを取り直すために「副交感神経が優位になること」を生活に取り入れていきましょう。

具体的には、リラックスする時間を意識して作ります。時間を決めて趣味に没頭したり、好きな香りの入浴剤でバスタイムを楽しんだり、呼吸法や瞑想法を試したり、など。

オススメなのは「吐くこと」を意識した呼吸法を取り入れることです。人間は、息を吸うときに交感神経が、吐くときに副交感神経が優位になります。

▼呼吸法のコツ

息を吐くとき、長く細く「ふーっ」と吐き出すように意識します。息をたくさん吐けば吸う息も自然と深くなります。そのまま何度か深呼吸を繰り返すうちに、体も心もリラックスしてくるでしょう。

また、「マインドフルネス」の実践もオススメです。マインドフルネスとは「今ここ」に意識を集中させるための瞑想法で、副交感神経を優位にする効果も期待できます。

▼マインドフルネスの手順

1.床でも椅子でも、リラックスできる場所に座る。
2.目を閉じて(または半目で)、ゆっくりと深く呼吸を繰り返す。
3.呼吸だけに意識を向ける。他のことに気がそれたら、また呼吸に意識を向け直す。

瞑想というと難しそうに聞こえますが、実際の手順はこれだけです。毎日寝る前に5分間、試してみてくださいね。

(2)生活にメリハリをつける

薄暗い部屋で1日中ダラダラと過ごす……といったメリハリのない生活も、自律神経の乱れに繋がります。

・朝起きたらカーテンを開けて光を取り入れ、交感神経を目覚めさせる
・日中はよく動き、よく休む
・夜は暗めの部屋でゆったり過ごし、副交感神経のスイッチを入れる

というように、メリハリを意識して1日のリズムを作っていきましょう。

(3)テレワークでも始業・終業時間を守る

自宅で働くテレワークでは、仕事とプライベートの境目があいまいになってしまいがち。これはまさにメリハリのない状態で、自律神経の働きを妨げてしまいます。

家で仕事をする際も、始業時間と終業時間をきちんと決めて守りましょう。1日の仕事を終えたら頭をプライベートモードに切り替え、リラックスできる時間を過ごしてくださいね。

(4)コロナ禍でも、できる範囲で「今までどおり」を取り戻す

コロナ禍の影響で、「長年の趣味や習慣が急にできなくなってしまった」という人も多いのではないでしょうか。急激に起きたこの変化は、やはり大きなストレスになっているはずです。

そこで、できる範囲で工夫して「今までどおりの習慣」を生活に取り入れてみましょう。

たとえば、職場で人と接するのが好きだった人は、テレワークでも「チャットツールを通して積極的にコミュニケーションを取ってみる」。旅行が趣味という人は、「散歩に行ける範囲で、まだ行ったことのない場所に足を運んでみる」など、少し考えてみると、近い行動はできるもの。

今までと全く同じことはできなくても、続けてきた趣味や習慣に「できるだけ近い行動」を探して実行することで、自律神経のバランスはぐっと保たれやすくなります。

■誰もがバランスを崩しやすい今だからこそ、意識していこう

コロナ禍、そして春の新生活。大きな変化とストレスが重なり、今は誰もが自律神経のバランスを崩しやすくなっています。「いつもと違うな、おかしいな」と感じたら、自律神経が乱れ始めたサインかも。早めにバランスを整えていきましょう。

文・構成/豊島オリカ
取材協力/株式会社エムステージ