何百もの温泉地を見続けてきたプロが思う「本当におすすめする温泉」3選

新型コロナウイルスの影響で私たちの生活がこれまでとがらりと姿を変えてから早数か月。これまでは極力出かけずに過ごしてきたものの、なんとなくリスクが低い行動がどういったものかが少しずつ体系化されてきた今、Go To トラベルキャンペーンの後押しもあり、少しずつお出かけを検討している方も多いのではないでしょうか。

そんな中でやっぱり、何より頭に出てくるのは「温泉に行きたーい!」というもの。ゆっくり広い温泉に浸かって、のんびりして、美味しいものを食べてお酒を飲んでリフレッシュしたい…なんて、考えるだけで楽しいですよね♪

でも、世の中には本当にたくさんの温泉があります。温泉地も、旅館も、本当に選べないほどの数があり、なんとなく値段で選んでみるけれど、どう選べばより素敵なところに行けるのかわからない…。

そこで本日は、これまでに何百何千もの温泉宿を見てきた、温泉に特化した宿泊予約サービス『ゆこゆこ』編集長の上野彩子さんに「本当におすすめする温泉・温泉宿」についてうかがいました。

 

Q.そこまで高くないけど快適な温泉を見つけるコツはありますか?

A.「昔ながら」の温泉。料理重視ならペンションや漁師宿がおすすめです!

何を重視するかによって変わるかと思いますが、「温泉の質」を重視するのであれば、昔ながらの歴史ある温泉や、共同浴場のある温泉地は「安いけれど、温泉の質が良い」ということが多いことが多いです。
食事を重視したいときは、私は「ペンション」や、漁師の方が営んでいる「漁師宿」、もしくは「料理長の方が支配人をやっている宿」を選ぶことが多いです。

▼ペンション

ほとんどが個人経営のペンション。料理にこだわりを持っていて、絶対に料理には満足して帰ってもらいたい、と考えている経営者の方が多いです。通常の旅館とは料理にかけるコストの考え方が異なっているため、もし旅館でこれを食べたいなら別注で1万円はかかりそう…というメニューが普通に出てくることも。

▼漁師宿

漁師宿も同様に、お宿の方は「特別なものを出しているつもりがない」というくらいの意識で、非常に新鮮で良質なお魚が出てくることが多く、おすすめ。ただ、料理に特化しているぶんお部屋は手頃感があったりお風呂が狭かったり…ということもありますが、そこに目をつぶれるならかなりお得に美味しいものをいただけます。
私自身長く伊豆周辺を担当していたのですが、伊豆は首都圏から行きやすく、そういったペンションや漁師宿が多くあります。

▼料理長=支配人の宿

通常のホテルや旅館でも、料理長が支配人を兼任しているお宿は、やはり料理が美味しいところが多いです。
実はこちら、探すと結構見つかります。お宿のwebサイトの「支配人からの挨拶」のようなページをチェックすると、兼任しているのであれば「料理長兼支配人」と書かれているので、そういった表記のあるお宿を見つけてみてください。

Q.旅館やホテルを探すとき、どこをチェックすべきですか?

A.「口コミ」への返信を見ると、お宿の姿勢がわかります。

お宿を探すときにやっぱり「口コミ」は気になるもの。そのお宿に寄せられた口コミ自体もある程度指標にはなりますが、注目したいのは「口コミへの返信が丁寧に行われているかどうか」。返信が丁寧なお宿は、良い接客をしていただけるところが多い傾向にあります。

また、口コミ点数順に並び替えて上位にあるお宿ほど良いかと言われると、そうでもないこともあります。たとえば1泊3万円のお宿と、数千円のお宿ではそもそものお宿への期待値が異なるので、リーズナブルなお宿ほど、それなりのサービスでも「コスパがいい宿だ」と満足して高い数値がつく傾向にはあります。
さらにこの口コミ評価は個人の主観なので、たとえば大多数の方が喜ぶようなものすごく丁寧な接客を「しつこい」と感じてしまい、そのまま口コミに書かれる方もいないとは言えません。
ひとつでもマイナスな口コミがあると気になってしまうものですが、他は褒めている方が多い場合はそこまで信憑性がないものとして気にしなくていいと思います。

Q.ズバリ、おすすめの温泉地はどこですか?

A.「渋温泉」と「万座温泉」、それに「城崎温泉」です!

「渋温泉」と「万座温泉」は昔から大好きな温泉。「城崎温泉」もいろいろと面白い試みをしているので、ぜひいつか一度は行ってみてほしいです。

▼万座温泉のおすすめポイント

群馬の万座温泉は「温泉好きであればもはや行くのは義務!」と言いたい温泉。
万座は「日本一の温泉が湧く温泉地」と言われていて、感動すると思います。何がすごいかというと、一種類ではなくいろいろな泉質や色みの温泉がそこらじゅうにボコボコと湧いています。

万座高原ホテル(※2020年10月現在は宿泊休止中・宿泊営業再開未定・露天風呂の日帰り入浴のみ営業中)という有名なホテルがあり、そこの露天風呂には成分や濃さの違い、空気に触れる温度などの関係で、白のにごり湯、エメラルドグリーン、黄色、透明とさまざまな色の温泉があります。ひとつの露天風呂にあらゆる色の温泉がある風景は、一度見ていただきたいほどなかなか感動的な風景。「入浴剤を入れているの?」と思ってしまうくらい真っ黄色の温泉もありますが、もちろん入浴剤などは入れていません。

万座高原ホテルの有名な露天風呂。

立地は、草津温泉から車で30分くらい山を登った標高の高い自然のど真ん中。その立地もあってか、かなりお得な値段のお宿が多いです。スキー客用に多めの客室数になっている大型ホテルが多く、そういうところだとスキーシーズン以外は平日だと2食ついて7000円台というところも…。

万座温泉は、正直「温泉に入る以外、何もすることがない!」という温泉地です。でも、温泉だけで十分楽しく過ごせるくらい質が良いので、ただひたすらお湯を楽しみたい、というときに行ってみてください。混浴がある宿もあるのでカップル旅行にもおすすめです。

▼渋温泉のおすすめポイント

長野の渋温泉は、昔からある歴史が長い温泉で、温泉の質が非常に良く、新鮮な濃いお湯を楽しめます。
そんなに広くはない、奥まったところにある温泉地で、石畳の坂道の脇に温泉宿が点在しています。どこかのお宿に泊まると、9つある外湯に入れる鍵をもらえるので、その鍵を使って宿以外にも点在している外湯を自由に楽しめます。こういった温泉街はすごく珍しいので、一度体験してみてほしいですね。

地元の人たちがずっとみんなでそこで商売をしているので、居酒屋さんや蕎麦屋さんなど、飲食店もあります。どこかの外湯に入って、坂道を散策して、また近くの外湯に入って、あたたまったら近くのお店に入ってお蕎麦を食べたりビールを飲む…など、「温泉街自体を楽しむ」過ごし方ができます。結構夜遅くまで浴衣姿で下駄をカラコロ鳴らして人が行き交っていて、居酒屋さんやバーも「お客さんが帰るまで」が営業時間だったりと、ゆるく営業していて夜遅くまで楽しめます。


地元に住んでいる方も観光客同様に外湯を使っているので、地元の方とお話できるのも特徴です。
最近は一度宿に入ったら宿の中にずっといる、ということが一般的ですが、本当にずっと外をめぐっていられる稀有な温泉地です。状況を見ながらにはなると思いますが、いつか是非行ってみてほしいですね。

 

▼城崎温泉のおすすめポイント

兵庫県北部にある城崎温泉は、渋温泉同様外湯めぐりや温泉街自体を楽しめるのですが、さらにお洒落に洗練されたイメージです。
場所は東京からだと「この世の果てにあるの?」と思ってしまうこともあるくらい遠いですが、それがまた旅情を感じられていいんです! 東京から朝イチの新幹線に乗って向かっても着くのは昼。大阪や京都から特急や車で行ってもだいたい3時間はかかります。そんな立地ではありますが、温泉人気ランキングで上位に入ることも多い魅力的な場所です。

城崎の施設はだいたい若い世代に代替わりをしています。大阪や兵庫の大学に行って戻ってきている方が多いこともあり、都会的な感覚が活かされているからか、行われているイベントもお洒落なものが多いんです。城崎温泉を舞台にした志賀直哉の小説『城の崎にて』にあやかって「文学の町」としてのブランディングを行っており、湊かなえさんなどの有名な作家さんによる城崎でしか買えない限定本も。
ここも渋温泉同様に、夜遅くまで通りを下駄でカラコロ歩く人の足音が聞こえ「あ、温泉地に来たな」という体験ができます。

Q.改めて思う「温泉の魅力」とは何ですか?

A.何もしなくても心から癒され、リフレッシュできるひとときであること。

改めて考えてみると、大げさな何かをしなくても「ただただ温泉に入っているだけで一気にリフレッシュできる」ということが温泉の魅力だと思っています。

実際「温泉に行きたい」と思うとき、その言葉にはたくさんの意味が含まれています。もちろんお湯の効能を見て、美肌効果や健康面のメリットを求めて行く方もいると思います。でもおそらくそれよりも多いのは「なんかちょっと疲れたな、リフレッシュしたいな」「最近家族との時間を持てていないから、ゆっくりしたいな」というさまざまな気持ちを「温泉に行きたいな」という言葉に込めている方。効能がどうとかとはまた違う「心から癒される場所」として、温泉は日本人に刻み込まれているように感じます。

広いお風呂に入るだけで心も体も解放されますし、そこに加えて「肌からいい成分を取り込んでるな」「今、体にいいことしてるな」「いい景色だな」という気持ちで温泉に浸かってリフレッシュをする…ということは、あらゆる意味ですごく日本人的。
さらに、さまざまなレジャースポットは、人が作りあげたものが多い中、温泉はもとをたどれば自然の恵み。そんな自然の恵みの中で癒されリフレッシュできる…それが温泉の魅力のように感じます。

人によって「そろそろ対策をされている宿を探して経済を回しにいこう」「いや、仕事の関係もあるし、まだ控えておこう」など、さまざまな考えがあると思います。この秋に行くことを検討しているあなたにも「今じゃないけど、いつか行きたい」あなたにも、どうか参考になると幸いです。
安心して温泉に行ける日が、早く訪れますように。

取材協力/ゆこゆこ
構成/後藤香織
*事前に宿やお店の営業状況などご確認の上お出かけください。