「人に頼るのが苦手」なあなたへ。仕事で上司や同僚に上手に頼るコツ
仕事において、人との関わりは避けられません。
「うまく人に頼りながら仕事を進めるのがベスト」ということはわかっていながらも、「自分でやったほうが早い」「遠慮してしまう」などの理由でなかなか人に頼れない…という人は多いのではないでしょうか。
企業の人材育成や組織活性を研究し、支援する、リクルートマネジメントソリューションズの主任研究員・桑原正義さんによると「成果・成長につながる仕事の姿勢として、やはり周囲にうまく支援を得ることや、素直に聞くこと」が重要とのこと。
とはいえ、慣れていないと「頼る」って本当に難しい。特に「周囲になんでもかんでも丸投げする人がいる」と、責任感の強い人はそれを必要以上に反面教師にしてしまいがちです。
本日は「上手な人への頼り方」についてご紹介します。
Q.周囲に頼るのが苦手です。どうやって「周囲の力を借りる」のがおすすめでしょうか?
A.タイプによって対処法はまったく変わります。
これは「基本的に自分でやりきりたいストイック系」の人と「本当は頼りたいんだけど相手に気を使ってしまって頼れない人」で、やるべきことは変わってきます。
【1】とにかく自分でやりきりたい、ストイック系の人
このタイプは「本当は人に頼りたくなくて自分でやりたいけど、もう少し頼ったほうがいいと言われたり本で読んだりしていて、どうしたらいいかわからない」型の人です。
そういう方におすすめなのは「じゃあどうなりたいのか」「この仕事を通じて、どういうアウトプットを出したいのか」という目的を考えることです。
自分でやりきることは確かにやりがいもあるしかっこいいですし、大事なことです。でも「仕事をひとりでやりきりたい」は、あくまで手段です。手段よりも、目的のほうが大事です。
なんのために自分は今自力で仕事をやろうとしているのか。この「なんのために」を一度考えてみてください。お客様に役立ちたいのか、社会の問題を良くしたいのか。その「やりきった仕事」で、どういう価値を生みたい、どういう目的を実現したい、どういう人になりたいかと考えると、意外と「その道に長けている人の意見を聞いたほうがいい」「いろんな人と関わったほうがいい」「頼ったほうが成果やなりたい自分に早く近づけるな」と思えることがあります。
これはスポーツの世界でよくあることです。「ヒットを打ちたい、勝ちたい、優勝したい」という目的のためには、自己練習で鍛えるよりも、コーチに聞きにいったほうが早い。仕事でもこれに近いことがあります。
【2】本当は頼りたいんだけど、相手に気を使ってしまう人
本当は頼りたいけど、相手は今忙しいんじゃないか、負担なんじゃないかと気を使ってしまう配慮型の人は、とにかく「やりやすい人」から頼ってみるのがおすすめです。
いきなり「自分に評価をつける上司」など利害関係があるような人に行くのではなく、頼りやすい先輩や優しい先輩から、少しずつ始めてみる。そうやって遠慮を徐々に下げていく練習をしてみてください。
1回頼ってみるとどんどん免疫がついてきて「人って、思っているより頼ってみてもいやがらないんだな」と気づきます。ほとんどの場合「負担なんじゃないか」というのは思い込みです。「意外と平気」な経験を積んで「次はあの先輩に頼ってみよう」と、心のバリアを解いてみてください。
Q.周囲に丸投げする人がいます。ああはなりたくないので、頼る塩梅が難しいです。
A.「仕事の当事者意識」を持ち続けることが大事です。
まずは「仕事はひとりで完結させるのではなく、協働していいものをつくっていくもの」という認識を持つことが大事です。そもそも上司も周囲も、自分ひとりでやることは期待していません。「よりよい成果につなげること」が全員共通の目的で、そのためには「積極的に周囲の力を借りてよいものにしていってほしい」という期待があります。
だから、支援を得ることは恥ずかしいことでも、周囲の負担になることでもなく、むしろ「やってほしいこと」なんです。
ただし、ひとつ大事なのは「仕事の当事者意識を持ち続けること」「自分に任された仕事を、よりよいものにしていく」という意識です。それがないと、お願いされた側は「丸投げされた」という印象になる可能性があります。
そこを常に見据えて「そのために自分ひとりではわからないこと、できないことについて力を貸してください」というスタンスです。
あくまで、その仕事の責任者は自分。知識やスキル、経験は補ってもらっても、意識は自分の中に置いておくように進められれば、周囲も「丸投げしてきた」と思わず、むしろ協力してくれるはずです。
Q.上司がまったく部下に協力する気がなさそうな人です。どうしたら良いでしょうか。
A.上司も「部下の困っていることがわからない」と悩んでいます。素直にヘルプを出してみましょう。
実際のところ「まったく協力するつもりがない上司」というのは、かなりレアな存在です。
【1】上司の本音は「部下の困っていることがわからない」
たいていの上司は「忙しいからこちらから全員には声をかけられないけど、何かあったら声をかけてきてほしい」と思っています。
新人や若手は「こんなことで相談していいのか」と遠慮しますが、実は上司の大多数は「部下が話に来てくれない、困っていることがわからない」と悩んでいます。
だから自分から「このへんがちょっとわからないので困っています、アドバイスをいただけませんか」「この件については誰に聞いたらいいですか」などと、素直にヘルプを出してみてください。多少忙しくてもそれ自体を負担に思う上司はほとんどいないと思いますし、それは上司としての仕事だと思っているはずです。
【2】上司が協力してくれる相談の方法
もちろん「相談の仕方」にもある程度のスキルが必要です。
基本的には「いいアウトプットをしたいから、アドバイスが欲しい」という姿勢がコツです。先ほどの「当事者意識」ですね。「自分なりにここまでは考えたんですけど、不安なのでアドバイスをください」などと「いい仕事をしたいから教えてほしい」という姿勢で聞けば、協力しない人はほとんどいません。
【3】上司が協力したくないと思ってしまうパターン
来ても相談に乗ってくれないという人がいるとすれば「自分都合でいきなり来られて時間を使わされている」と感じるときでしょうか。
たとえば営業担当から私のところに、用件も知らされずにただ「1時間ください」とスケジュールが飛んでくると、あまり協力したくないな…と思ってしまうのが正直なところです。でも「お客様の困りごとを解決したいから」という理由を教えてもらえればこちらも快く時間を使います。ひとこと添えるだけで印象が変わることはあります。
【4】レアパターンとしては「背中で盗め」型の上司はいる
協力してくれない上司の中には「本人に力をつけさせたいから」という考えを持っている人がいる場合があります。
嫌がらせをしているわけではなく「自分自身でやるから成長できる」と思っているパターンです。こういう上司は、相談をしても「あなたはどう思うの」「どうすればいいと思っているの」と質問返しをしてくるばかりで「あの上司は自分に嫌がらせをしている」と思ってしまいがちですが「背中で盗んで、自力でやってほしい」という期待値がすごく高い場合です。
そういう人に対しては「自分ではここまで考えたのですが、どうしてもここだけはわからないので教えてください」という聞き方は「自分なりにできるところまでやったのね、じゃあヘルプしよう」と有効なことが多いです。
Q.質問をしたり何かを言ったら「こんなこと聞いてくるな」「そんなこともわからないのか」と周囲に思われるのが怖いです。
A.必要なステップを踏み、そう思われないスキルを身につけましょう。
【1】最初は少しのハードルから超えてみる
こちらも、できそうなところからやってみて、慣れていきましょう。「言ってみたら意外と平気だった」という経験を積むことが大事です。
もともとは人に聞くのが怖かったけど、次第に「恐れがなくなった人」の経験談で多いのは「人は自分が思っているほど、自分に注目していない。気にしていない」ということ。だから、どんな理屈よりも「とにかく慣れること」が重要です。
言いやすい人や、言いやすそうな内容から始めてみましょう。
【2】何かを伝えるときは「意図」をセットで
発言や意見は「どうしてそう思ったか」の意図がわかると理解されやすくなります。
たとえば「こう思った・こうしたい、それは違うと思う」だけでは誤解を呼ぶ可能性があるかもしれません。でもそこに「こういう理由からこう思った」「この観点が大事だと思ったので、こうするのが良いのでは」「自分はこういう経験があったので、こう思う」と意図とセットで伝えることで、意見そのものは「違う」と思われても、意図が「そういうことか」「その観点は必要だね」などの理解につながるケースは多いと思います。
これは相手に対してもそう考えるのが効果的です。発言を聞いて「なんか違うな」と思ってもすぐには否定せずに「どうしてそう思ったのですか?」と意図を聞いていくことで理解できるケースが意外と多いものですよ。
株式会社リクルートマネジメントソリューションズ主任研究員 桑原正義さん
1992年4月、人事測定研究所(現リクルートマネジメントソリューションズ)入社。営業、商品開発、営業企画、コンサルタント職を経て2015年より現職。
新人・若手が育つ職場づくりを専門テーマとした10年以上にわたるコンサルティング経験の中で、今の時代で実効性のある育成ノウハウを構築。現在は研究・開発の立場でさらに研究を深めつつ、ノウハウの体系化・汎用化に取り組んでいる。
構成/後藤香織