テレワーク時代の仕事のコツは?集中力のキープ法から報連相の極意まで、専門家に聞きました
新型コロナウイルス対策の影響で、在宅でテレワークを行っている人が増えています。
最初は「通勤しなくていいし、家での作業は快適かも♪」と喜んだものの、実際に始めてみたら「思っていたより難しい……」と悩んでいる人もいるのではないでしょうか?
「家だと集中できない」
「ついサボりたくなっちゃう」
「チャットやメールでは報連相がうまくいかない」
こうした悩みを解決するために、テレワークを行う際に意識したい仕事のコツを、リクルートマネジメントソリューションズ組織行動研究所の主任研究員・藤澤理恵さんに伺います。
今回は同社が行った調査結果を基に、テレワークで多い悩みを解決する具体的なコツを教えていただきました。
■テレワークは便利だけど「不安や孤独」を感じやすい
「テレワークでは、仕事上での人とのつながりが希薄になりがちです。仕事をしていて不安や孤独を感じやすくなりますし、ちょっとしたアイディアや相談事を共有するといった行動や、お互いを気にかけて助け合う行動が減ってしまう恐れもあります」と語るのは、株式会社リクルートマネジメントソリューションズの藤澤理恵さん。
同社がこの4月に行ったアンケート「テレワーク緊急実態調査」(対象者:全国の一般社員2040名、管理職618名)でも、次のような結果が出ています。
上の図は、テレワーク経験者がオフィスで仕事する場合と比較して感じた「コミュニケーションの変化」を示すグラフです。
・感謝の言葉をかけたり、かけられたりする機会
・雑談や思いつきレベルのアイディアの共有
・同僚と、お互いの仕事の進捗を気にかけ、助け合う機会
……などの項目では、「減る・やや減る」と答えた人が「増える・やや増える」と答えた人を上回っています。たしかにテレワークをしていると、上司や同僚とちょっとした相談や雑談をする機会が少なくなりますよね。
では、仕事仲間と一体感やチームワークを保ちつつ効率的にテレワークをするには、いったいどうしたら良いのでしょうか?
■調査から分析!テレワーク時代の仕事をこなす6つのポイント
前述の調査結果を踏まえ、藤澤さんたちチームが着目している「テレワーク時代の仕事を上手にこなすポイント」は、次の6つです。
●テレワーク時代の仕事を上手にこなすポイント
1. 文章で、情報や要望を分かりやすく伝える
2. 文章で、思いやりや気遣いを伝える
3. 上司への報告を適切に行う
4. 適切な計画を立て、進捗を自己管理する
5. 集中力を保ち、自分を律する
6. 気分転換や休息を適切にとる
……たしかに、これらはテレワークをする上で重要に感じるポイントばかりですよね。ただ、「これを上手に出来たらうまくいくのは分かるけど、実際に何をすればいいの?」と悩んでしまう人も多いかもしれません。
そこで、それぞれの項目について「具体的にとるべき行動」も併せて教えていただきました。
■具体的に何をすべき?「テレワーク時代の6つのポイント」実践法
【1】文章で、情報や要望を分かりやすく伝えるコツ
テレワークでは、チャットやメールなど文章を使ってコミュニケーションをとる機会が増えます。文章で情報や要望を分かりやすく伝えるには、対面で伝えるのとは少し異なる工夫が必要です。
たとえばメールで業務を依頼するときは、細かい作業を「あれやって」「これもやって」とこま切れに伝えるのではなく、
・その業務全体の目的
・ゴールイメージ(どんな結果になれば成功と言えるのか)
といった事柄を添えて、業務全体に関する情報をトータルで伝えましょう。
断片的な頼み事を思いついたときに送るようなやり方はNGです。文字でのやりとりで気まぐれな依頼を行うと、対面で行うケースよりもずっと大きな疲労感や誤解を相手に与えてしまいます。
【2】文章で、思いやりや気遣いを伝えるコツ
テレワークで人と離れて仕事をしていると、多くの人は孤独感を覚えます。
ひとりで黙々と仕事をしていると「自分の仕事には意味がないのではないか」「チームや世の中に貢献できていないのではないか」……と、わけもなく不安な気持ちになるもの。こうした不安や無力感は、サボりたくなる心理にも繋がってしまいます。
そこで意識したいのが、メールやチャットのやりとりでお互いに気遣いや思いやりの言葉を伝え合うことです。
具体的には、
「ありがとう」
「いつも助かっている」
「おかげでお客様から喜ばれた」
「その意見はすごく面白い」
など、相手の行動が生み出したポジティブな結果、ポジティブな気持ちをあえて文面に記しましょう。
ポジティブな感情を伝え合うことで、「仕事を通じて他者に良い影響を与えられる」という手応えを感じ合うことができます。この手応えが、仕事へのモチベーションと活力をキープしてくれるのです。
【3】上司への報告を適切に行うコツ
テレワークの環境を考えると、細かい業務の全てに上司から指示をもらうことは難しいですよね。作業が1つ終わるたびにいちいち進捗報告しないと上司も自分も安心できない……という状態からは、できれば早めに抜け出したいところです。
そのために意識したいのが、報連相のタイミング。作業が終わってから「どう報告しようかな」と考えるのではなく、作業を開始する前に「こういう目的で、こんな業務を行います」と話す機会を持つのがポイントです。
事前に上司とすり合わせておくべき項目は、
・業務の目的
・作業内容
・ゴールイメージ(どんな結果を目指しているか)
・予想されるトラブルと対処法
など。
「ゴールイメージ」なんて言うと難しそうに感じるかもしれませんが、要は、その業務を遂行した先で「喜んでくれる人の顔」や「うまくいくようになる仕事」について、具体的に上司と相談しておくということです。
また、自分なりに「起きるかもしれない」というトラブルを予測して、それに対する対処法まで先手を打って報告・相談できるようになれば、もう完璧。そこまで行けば、上司としても安心して仕事を任せられるでしょう。
【4】適切な計画を立て、進捗を自己管理するコツ
1日のスケジュールを立てる際に「どのくらいの作業量を目標にしたらいいのかな?」と悩むこともあるかもしれません。実現不可能なほど無謀な計画では意味がありませんし、「楽勝」というほど簡単すぎるスケジュールでは、なかなか成果が見えてきませんよね。
ちょうどよい計画を立てるコツは、「30分〜1時間ほど集中して取り組めばできる、手応えを感じられる」というラインを目標にすることです。
人間は、休憩なしで長時間集中し続けることはできません。30分〜1時間集中して作業したら、5〜10分程度の休憩を挟むことで集中力をキープしやすくなります。無理なくこなせて手応えもある、そんな計画が立てられるようになればベストです。計画・進捗を自分で管理できれば、上司にも「この作業をこの日までに進めます」と事前に言えます。
最初のうちはちょうどいい作業量の見積もりに苦労するかもしれません。でも毎日練習を繰り返すことで、だんだんと自分にとって適切なスケジュール感覚が掴めるようになっていきます。
【5】集中力を保ち、自分を律するコツ
会社と違って他人の目がないテレワークでは、「ダラダラしたい自分を律して仕事する」ことを難しく感じる人も多いのではないでしょうか。
先程もご紹介したとおり、人間は長時間ずっと集中し続けることはできません。ですから、「集中力を保つスキル」は「適切に休憩をとるスキル」と必ずセットで考えることが大切です。
集中力を保ちながら心地よく作業するためにおすすめなのが、Webなどで話題の「ポモドーロテクニック」という時間管理法です。
「ポモドーロテクニック」のやり方
1. 行うタスクを選択する
2. 25分間タイマーをセットして、タスク開始
3. タイマーが鳴ったら作業をやめ、内容を簡単に記録する
4. 5分間休憩する
5. 2〜4を繰り返す
6. 4セット繰り返したら、20〜30分間の長い休憩を入れる
やり方は以上です。
作業内容を記録するのは、1セット(25分間)で自分がどれくらいの作業量をこなせるのかを把握するため。記録をとって見返すことで各タスクにかかる時間を予測し、より正確なスケジューリングに役立ちます。
【6】気分転換や休息を適切にとるコツ
モチベーションと集中力をキープするには、休憩時間に小さなご褒美を用意しておくのがおすすめです。
ご褒美の内容は、時間内にできることなら何でもOK。好きな曲をかけて一緒に歌うもよし、美味しいスイーツを食べるもよし。目を閉じて頭を休めることや、軽くストレッチすること、冷たい水で手や顔を洗ってさっぱりすることも、「気持ちいい」と感じるなら立派なご褒美になるでしょう。
忘れないでいただきたいのは、「集中力は続かないのが普通なんだ」という考え方です。「今日はなんだか調子が悪い。作業がうまく進まないな」というときも、焦ったり自分を責めたりする必要はありません。
スケジュールどおりに進まないときは、無理に作業を続けるよりも、きちんと休憩をとりましょう。その方がかえって集中力を取り戻せます。
■「あくまでも今は非常事態」自分への思いやりも忘れずに
最後に、慣れない在宅ワークや社会の状況への不安から「思うように仕事がはかどらない」と悩んでいる皆さんへ、藤澤さんからアドバイスをいただきました。
「ここまで述べたことは、いずれも『平時』(普通のとき)のセルフマネジメント術です。自分や家族、大事な人たちの健康や生活を心配しながら、テレワークをしている。今のこの状況は、あくまでも『有事』(非常事態)であることを忘れないでください。
自分に厳しくなりすぎたり、自分を責めすぎたりしないことが大事です。もし“理想のおばあちゃん”がここにいたら、自分にどんな言葉をかけてくれるか、どんな眼差しを向けてくれるか……と考えてみると良いかもしれません。
心理学には『セルフ・コンパッション』という言葉があります。これは『自分への思いやり』という意味です。
『こういうときだから無理もない』という思いやりをまず自分に向ければ、自然と他者への思いやりも生まれます。思い通りにならない状況下でも、どうにか工夫して仕事をしようというエネルギーも湧いてくるでしょう。
新しい環境のもと、生活の質と仕事の成果の両方をUPさせる方法は必ず見つかります。その知恵と柔軟さを私たちはみんな持っているのだと、私は思います」
今は大変なこともありますが、テレワークそのものは仕事を快適にする大きな可能性も秘めています。コツを押さえて上手に活用していきましょう。
リクルートマネジメントソリューションズ組織行動研究所 主任研究員 藤澤 理恵
2001 年に入社後、人事制度設計のコンサルティングや、研修開発、組織調査などに従事。
東京都立大学大学院・経営学研究科・経営学専攻にて2015 年修士号を取得後、博士後期過程に在籍中。
企業人の社会貢献・プロボノ活動、育児休業、HRM の柔軟性などを題材とした調査を手がけ、
組織を出入りする「越境」経験をテーマに研究を行っている。
構成・文/豊島オリカ