世界一幸せな国で根付く、幸せを底上げするヒント。「ヒュッゲ」って何?

「ヒュッゲ」という言葉を知っていますか?

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もとはデンマーク語で「人と人との結びつきから生まれる、あたたかな居心地のよい空間」といったことを意味する言葉。ざっくり日本語で言うと「ほっこり」のニュアンスにも近いかもしれません。今はデンマークを飛び出して「hygge(ヒュッゲ)」は世界の公用語としても採用されています。

この「ヒュッゲ」。毎年発表されている世界幸福度ランキングでTOP3常連となっているデンマークにおいて、幸せのヒントとしてかなり重要な言葉。
近年は日本でも書籍が出版されたり、「ヒュッゲ」をテーマにしたイベントが行われていたり……と、少しずつ広まってきている言葉です。

「なんか人生うまくいかないなぁ」「もっと幸せになりたいなぁ」と思っている方、この「ヒュッゲ」について、夏休みの自由研究気分で少しだけ学んでみませんか?

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お話をうかがったのは、「ヒュッゲ」な時間・空間を提案し続けている、デンマーク発祥のブランド・フライング タイガー コペンハーゲンにて、マーケティング部部長を務める柘野英樹さん。
カラフルで心躍る雑貨の数々は、この「ヒュッゲ」を大切にする、というところから生まれています。「ヒュッゲって何?」というところから、フライング タイガー コペンハーゲンの企業哲学までたっぷりとお話をうかがいました。

Q.結局のところ、「ヒュッゲ」って何ですか?


「ヒュッゲってつまりどういうことですか」と質問されたら「人と人との結びつきから生まれる、あたたかくて居心地のいい空間といった意味で、ひとことでは表現できない言葉です」と答えています。
……でも、よくわからないですよね(笑)
僕たちが「ヒュッゲ」という言葉をしっかりと使うようになったのは、2017年の頭くらいからです。ちょうどそのとき日本では「ホームパーティ」や「ピクニック」が注目され始めていました。そういった時間の過ごし方は、まさに絵面としてわかりやすい「ヒュッゲ」の世界ですし、確かにフライング タイガー コペンハーゲンでもホームパーティやピクニックにまつわる商品はたくさんあります。でも「ヒュッゲ」にとって大事なことは「何を買うか」「何を使うか」ではありません。

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Q.では、どのようなことが大切になってくるのでしょうか?


型にとらわれずに「自分らしくいられる、心地良い時間」ということです。モノを消費することではなく、トキを消費するということ。
たとえばデンマークでバールに行くと、入口に出ているメニュー表には、ビールやワインの値段の下に「ヒュッゲ 0クローネ」と書いてあるところがあったりします。ここには人が集って、あたたかくて居心地のいい空間があるよ、ということを示すくらい、デンマークでは毎日に根付いている言葉です。

 

Q.「ヒュッゲな生活」とは、どういったことから始めたら良いのでしょうか?


もともと「ヒュッゲ」は北欧から出てきたものなので、「ヒュッゲ的な時間をわかりやすく表すもの」として、「キャンドル」「暖炉」「トランプ」などが象徴として使われがちです。でも、「北欧っぽいこと」を表面的にやろうとするのではなく、どうやったらみんなが居心地よくあったかく楽しく過ごせるか、ということを考えることが大切です。
キャンドルや暖炉それ自体が「ヒュッゲ」ではありません。「人が集っている居心地のいい時間」こそが「ヒュッゲ」であって、キャンドルなどはあくまでもその空間を演出するツールです。「ヒュッゲな時間を過ごすために、あれもこれも買わなくちゃ」なんてことはなくて、たとえばトランプをやったらみんなで向き合って楽しめるよね、蛍光灯よりキャンドルの光のほうがあったかい空間になるよね、と、あくまでヒュッゲな空気を作りやすくするものとして考えてください。

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かたくるしく難しく考える必要はありません。たとえば日本の一般的な家庭でも行う「お鍋」や「こたつ」だって、みんなで一緒に同じ空間を楽しく囲む、という、わかりやすくヒュッゲな時間です。夏なら庭でするバーベキューや花火だってそうですね。
とはいえ、絶対に誰かと一緒じゃなければヒュッゲじゃないのか、なんてこともありません。たとえば誰かのことを思いながら編み物をすることだって、人との結びつきを感じながらあたたかい時間を過ごしているという意味で、とてもヒュッゲ。
意味が広いからこそ余計に「ヒュッゲ」は難しく考えられてしまいますけど、思ったよりいたるところにすでに「ヒュッゲ」があるんです。

Q.フライング タイガー コペンハーゲンはそんなさまざまな「ヒュッゲ」を提案していますが、お客様などと接していて「こんなヒュッゲの形があるんだ」などと思うことなどはありますか?


そうですね、フライング タイガー コペンハーゲンファンの方のコミュニティがあるんですが、そこのアンバサダーの女性と話していたときの話です。その方に「ヒュッゲという言葉をどう思いましたか」と聞いたときに「私がこれまで普通にやってきたことは、ヒュッゲって言うんだ、というくらい、フィットする言葉でした」とおっしゃっていたんです。

その方は何か人前に出るような特別な仕事をしているわけでもなく、ひとりのお子さんをお持ちの、都内在住の主婦の方です。どんなことをしているのか聞いてみると、まずお子さんや学校の繋がりで、コミュニティをいくつか持っている。そして子どもが帰ってきたあとに出かけなければいけないときに、子どもを「近所の○○くんのところで遊んできてね」と預ける。そして用事が終わって帰ってくるときに、家にあるちょっとしたお菓子を持っていって「預かってくれてありがとねー」「全然気にしないでーそのままうちでごはん食べてく?」「いいねー!」ということが、特別なことをしている感覚はなく、日常的にあるそうなんです。

そうすることで、自分はもっと外に出ていろんなことを吸収してやりたいことができる。子どもは友達と楽しい時間を過ごすことができる。もちろん一方的に預かってもらうだけではなく、他の誰かが出かけたいときは、持ちつ持たれつで自分がそこの子どもを預かる。そうやって「みんながガマンする」ではなく「お互いがお互いを補完しあう関係になって、やりたいことができるようにみんなが助け合う」というスタイルで生活するのが、すごく居心地が良くていい関係なんですよね……と。

そういった関係の作り方や地域のコミュニティって、ヒュッゲなのかもしれないですね、ということをお話していました。

変に気取って何かをするわけではなく、日常生活の中で「自分らしく生きる」ことをやりやすくするために、周囲にいる大切な人たちを尊敬して大事に思って、お互いを想いあうことで、自分の幸せレベルも、家族や周囲の人の幸せレベルも上がっていく……って、まさに「ヒュッゲ」のように思います。
その当時、僕たちは「ヒュッゲ」ということをわかりやすくホームパーティやピクニックなどを使って表現していたけれど、よくよく考えると、その方がしていたその暮らし方のほうがよほど「ヒュッゲ」の本質であって、パーティもピクニックも、そのひとつのパーツでしかない。そういったことを、あのとき実感させてもらいました。

 

Q.子どもがいるとそういった地域でのコミュニティ作りもしやすいような気もしますが、たとえば私のような、独身・地方出身東京在住・ひとり暮らし……という場合は、どのようなことから始めたらよいでしょうか?


それこそそう難しく考えることもなく、仕事で仲良くなった同僚や趣味の友達など、気兼ねしない仲間と時間を過ごしながら一緒に何かを作ったりごはんを食べたり、そういったこともヒュッゲのひとつです。実際、デンマークの人の約9割は、家と仕事のコミュニティ以外にまた別のコミュニティを持っていると言われています。地域のクラブや趣味の仲間など、自分が存在できるコミュニティが5つくらいある。その中でみんながお互いを刺激しあって生活をしているんです。
仕事でも趣味でも、信頼できて気兼ねしない仲間がいる空間があれば、それはもうすでにヒュッゲが始まっているんです。

 

Q.そう難しく考えずに、意外と普段やっていることが「ヒュッゲ」なんですね。


そうです。たとえばそれこそ「ホームパーティやピクニックのような空間がヒュッゲなんだ」と聞くと、ついつい写真映えや見てくれのことを考えてしまうじゃないですか(笑)。そこで気を遣いすぎたり構えてしまったり、見てくれだけを装ってしまうと、またヒュッゲとは別の方向にいってしまう。写真映えがどうとかより、一緒にいてぼーっとしてごはん食べてるだけだけど、なんか居心地よくて楽しいよね、というほっこりした時間がヒュッゲな時間です。

 

Q.日常にあるシーンで、他に「実はこんなものもヒュッゲだよ」というものはありますか?


例えば「女子会」もそうです。美味しくて居心地のいいお店で、友達と楽しくしゃべっている空間はヒュッゲに近いと思います。おそらく女性はそこでヒュッゲを感覚的にわかるのではないでしょうか。書籍や雑誌を見ていても、少しずつヒュッゲ特集が増えてきているんですが、まだまだ主体は女性です。

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男性は、現時点では「ヒュッゲ的な感覚」がよくわからない、という方も多いかもしれません。新橋などによくいる「フラリーマン」もそうですよね。本当は仕事が早く終わっていて帰れるんだけど、家に帰るとなんだか居心地が悪くて居場所がないから、ふらふらゲーセンに行ったり立ち飲みに行って、夜9時10時になってようやく家に帰ったりする。そういう男性は結構いると思うんですけど、こういった方はヒュッゲからは縁遠いところにいるように思います。

 

Q.男性がヒュッゲ的なものから縁遠いのは、何か理由があるのでしょうか?


日本では、なんとなく男性側が「家のことは女性がやるもの」など、上下関係を作りたがる傾向にあり、それも原因のひとつかもしれません。そして家庭はかえりみず、仕事一筋で頑張って定年退職をして、仕事がなくなったときに家の中でどう家族と向き合えばいいかわからない、近所に友達もいない、でも奥さんは地域や他のところで心を通わせるコミュニティを持っている……。そういったケースはまだまだあるのではないでしょうか。
だからこそ、男性にこそ「ヒュッゲ」的な考えを意識的にもっと取り入れて欲しいと思います。デンマークの家庭の形は、かなり理想のように思いますね。

 

Q.デンマークはどういった考えの方が多いのでしょうか?


デンマークの夫婦には、上下関係だとか、そういった感覚はありません。どちらかに負荷がかかるような関係性ではなく「お互いに楽しいことをして、やりたいことを達成する時間を過ごす」のが当たり前。たとえば仕事のあとに預けている子どもを迎えにいくのもどちらかだけが負担するのではなく、今日は奥さんが忙しいから旦那さんで、明日は旦那さんが忙しいから奥さん、など、お互いにバランスを見て分担。そしてみんなでごはんを作って、みんなで食卓を囲んで、おしゃべりをしながら北欧の長い夜を過ごします。「どうやったらみんなが対等で楽しくいられて、お互いを補ってサポートしあえるのか」ということをとても大切にしています。
夫婦の間に、お互いを思い合う気持ちや、繋がる時間を大切にしよう、相手に貢献しよう、お互いに新しいものを吸収できて新しい発見があるような関係になろうという、お互いがいることによって意味があること。それをデンマークの人たちはすごく大事にしていて、それを幸せの秘訣のように思っています。

国連が毎年出している「世界の幸福度ランキング」は、北欧の国々が必ず上位を独占しています。2019年の最新版では、デンマークは昨年3位から2位にランクアップした一方で、日本は残念ながら昨年の54位から58位にランクダウンしてしまいました。

北欧の国々は「ヒュッゲ」的な感覚を当たり前のように思っているのが、幸福度が高い理由であると考えられます。日本ではまだまだ「ヒュッゲ」な瞬間は少ないですが、少しでも「ヒュッゲ」な時間を感じられるようになれば、日本の幸福度は上がって、もっともっと幸せな国になるんじゃないか……というのは、僕たちが目指しているところです。

Q.日本での「男性とヒュッゲ」はどのような現状にあると思いますか?


「スーパーダディ協会」というNPO法人がありまして、そこの男性たちには「そうそう、俺たちがやっていること、やりたいことはそういうことなんだよ、ヒュッゲなんだよ」と共感してもらえていますね。そのNPOの方々とお話しをしていると「日本の男性はもっと頑張って家事育児に参加したほうがいい。そうすることで奥さんにゆとりが生まれて時間ができて、奥さんも好きな仕事をしたり、自分の時間で新しい技能を身につけることができる。そうすると奥さんが幸せになる。奥さんが幸せになるということは、家族が幸せになる。そうやってみんなで楽しく時間を過ごせるって幸せだよね。だから男たち、頑張ろうぜ。といったことを、かっこよく提案したいですよね」と盛り上がります。ここに属していなくともそういった考えを持つ方は増えているように思いますので、その流れで男性にももっと「ヒュッゲ」が広まって、いよいよ日本のムーブメントになっていってもおかしくないな、と感じています。

Q.「女性は感覚でわかるけど、男性は意識的に取り入れてほしい」とのことですが、たとえば女性側からヒュッゲ的な考えを働きかけると男性側も変わっていく……ということはあるのでしょうか?


そうですね、奥さんがヒュッゲ的なことを実践されていて、男性も変わっていくというパターンは見かけます。たとえば奥さんが家に友達を呼んで、友達のご家族とも仲良くしているうちにいろんな異業種の知り合いができて、そこから刺激をもらえて、これまでと違う仕事以外のコミュニティができて感化されていく……というようなパターンなどでしょうか。

そこまで大がかりなことじゃなくても、たとえば誰かの誕生日やクリスマス、ひな祭りやハロウィンなど、何かのイベントをきっかけに「何かを一緒に作ってみる」のも、最初のとっかかりとしていいと思います。

やってみれば楽しいし簡単だし、いろんな発見があることなのに、何かが邪魔して最初の一歩が踏み出せないということが、男性にはよくあります。まずそこを「一緒にやってみる」ことでハードルを越えてみるのが大事ですよね。たとえば「いやいや男がお菓子作りなんて」と思っていた男性が、彼女や奥さん、子どもと一緒にケーキを作ってみたら「あれ、俺ケーキ作るのうまくない?」と感じて簡単にハードルを越えられる。そこから「もしかしたら次はこう作ってみたらもっと美味しくできるかもしれない」と楽しくなって「今度はびっくりさせるために俺ひとりで何か作ってみようかな」と思えて、それによって誰かが嬉しくなって……ということは実際にあります。

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Q.それってすごく素敵ですね……! 「一緒に何かを作る」以外でも、他に何かできることはありますか?


本当に「居心地のいい楽しい空間」であることが重要なので、難しく考える必要はありません。

デートをするにしても、「とにかく高級なレストランに行って、高くて美味しい料理を食べておけばそれでいいだろう」という考えは、あまりヒュッゲではないと思います。それよりは、近くのスーパーで買ってきた食材を使って、ふたりで鍋でも作って、家で美味しく鍋をつついているほうが、よほど居心地がよくて楽しいと感じることってありますよね。そういうことです。

もちろん、人にはさまざまな価値観があるので「高いお店に行くことが何よりも幸せ」という人もいると思いますが、そこで大事なことを見落としてしまうのはもったいない。

近年よく言われていることではありますが、日本の消費の形が「モノ」からどんどん「コト」になり、その先に今度はどんな「とき」を過ごすのか、ということが重視されるようになり、どんどん本質に迫ってきています。だからこそ、日本も少なからず近い将来に男女問わず「ヒュッゲ」な時間を「いい過ごし方だな」という価値観になるような気がしています。従来の「名誉」や「お金」とは違うところにある、幸せのひとつの形ですよね。

これはやっぱり、2011年の震災がターニングポイントになったように感じます。何が幸せな暮らしで、大切な人と過ごす時間がいかに貴重なものか。そこに気づいて考えるようになったけれど、まず何から始めていいのかがわからない、というときに、家に友達を呼んでおうちパーティをするようになり、それがどんどんカルチャーになって「人と人の結びつきから生まれる、あたたかくて居心地のいい空間」、つまり「ヒュッゲ」な考えが、どんどん時代の流れになっていったように感じます。

 

ピクニックやおうちパーティ、そしてここ数年流行し、もはや定番となったいわゆる「ていねいな暮らし」といった考えは、確かにこの「ヒュッゲ」的思想と近いように感じます。
目先の欲しいものをただただ消費するより、人々が本当に重要なことはなんなのかしっかり考えるようになった……そんな流れはありますよね。

さて、「ヒュッゲとは何か」「結局、何をすればいいのか」についてうかがったところで、次回は「お仕事シーンでのヒュッゲ」についてうかがいます。
「仕事といえば大変なもの」。そんな「当たり前」だと思っていることは、ちょっとしたアイディアで変えられるはず。
次回、たっぷりご紹介します♪(後藤香織)

 

取材協力/フライング タイガー コペンハーゲン

▼INFORMATION

フライング タイガー コペンハーゲンでは毎月ヒュッゲな時間を創出する様々な商品が数百アイテム登場します。
詳しくは下記URLからご確認ください。
https://blog.jp.flyingtiger.com/
商品以外にも体験イベントやコミニティ活動にも積極的です。
好きな趣味でつながるコミニティ『フライングタイガー部活』を展開しています。オンライン上での投稿企画やオフ会、ワークショップなどの活動など幅広い活動をしています。そしてファンの方々と一緒にするファン感謝祭2019も10月に開催予定です。
詳しくは下記URLからご確認ください。
https://fun.jp.flyingtiger.com/

 

画像/Shutterstock.com

 

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