【ゆとり以上バリキャリ未満の女たち】第8弾「がんばらないWワーク」Vol.1
「ゆとり以上バリキャリ未満」を生きる女子のルポルタージュ連載の第7弾がスタート!
今回の主人公は、28歳の千絵。千絵の長所はおじさんウケがすこぶるいいこと。保険の外交員をやっても、ゴルフに行っても、そつなく接して、近すぎず離れすぎずの距離感を上手に保つ。短所は理想が高いことと飽きやすいこと。だから彼氏ができにくく長続きしない。こんな千絵が幸せになれる場所はどこに?
●中田千絵(28歳)人材紹介会社勤務
1990年 千葉県出身、中野区在住(1人暮らし)
短大在学中からイベントコンパニオンやモデルのアルバイトを始める。卒業後、生命保険会社に就職し1年半で退社。現在の会社(人材紹介会社)は2年目。
似ているタレント:山本彩(NMB48)
理想のタイプ:大谷翔平
パートナー:なし
手取り月収:25万円
「がんばらないWワーク」Vol.1【2年目で会社辞めました】
■秋葉原でナンパ? からの就職
身長157cmの千絵は、モデルやコンパニオン仲間ではいちばん小さい。けれど、接客のときの笑顔や気配りの早さでは群を抜いている。だからいろんなイベントから指名がかかる。このアルバイトは短大2年のときからやっていて、経験している現場の数も仲間よりかなり多く、すでにベテランの域だ(それを言われるとすごくイヤだけど)。とはいえ、実年齢より4〜5歳は若く見られるので、年下のコンパニオン仲間と一緒にいても違和感はない。
平日の昼間は美容系の人材紹介会社で経理事務をやっている。仕事は9時半から5時半。残業なし、完全週休二日だし有給もとりやすい。会社に対しての期待とかやりがいとか、そういうものはそもそもない。けれどアフター5の合コンや週末のコンパニオンのバイトが続けられるという意味では「いい職場」。この職場に転職してもうすぐ2年になる。
「短大を卒業して最初に就職したのは、大手生命保険会社でした。といっても私、これというやりたいことがなくて、就職も後ろ向きで、どうしたらいいかわからなくて。とりあえずで、名前がある会社の面接――マスコミとか化粧品とか、あと不動産や電気関係も――をちょこちょこ受けたりしてました。ほぼ落ちてましたけど。」
「その就職活動中に、乗り換えの秋葉原で声をかけられたのが、その生命保険会社の人でした。『就活しているんだったら、話聞いてみませんか』みたいな感じで。最初はナンパだと思いました。そのままお茶して、生保の外交員に関心はあるかと聞かれて。関心があるかはわからないけど、就職はしなくちゃと思ってる。そう伝えて。名刺をもらって別れました。3〜4日してから『面接に来ませんか』と連絡があって、会社を訪問。面接は、最初が支部長(名刺をくれた人)で2回目が所長。案外あっさりと内定をもらいました」
同時に採用されたのは、同じ営業所内で5人。千絵は自分のことを「もったとしても半年」と読んでいた。自分の意思で選んだ就職先ではなかったし、依然としてやりたいことはわからないままだし。半年のうちに、別のやりたいことが見つかればいい。それくらいに考えていた。
■お金もらうより遊びたい
「特に楽しいことは……なかったかな。ただ、始めてすぐ辞めるのは悪いし……という感じでした。最初の3ヶ月は研修で毎日授業みたいのを受けて、最後にテスト。保険募集人の合格をもらって、それからは所長と一緒に顧客を回りました。社内にいるときは、契約者の休眠リストに電話をして営業のアポ取りもしました。保険の契約をしている人でも、営業担当者が辞めたりして不在の場合アポをとって、挨拶に行ったついでに新商品を案内するんです。訪問するときは上司と一緒に。1人で行くことはなかったですね」
コンパニオンのバイトでは、声を少し高めに、口角を上げて話をするトレーニングを受けていたので、電話で人にいい印象を与えるのはそれほど難しいことではなかった。だからアポの成功率もまあまあ高かった。そして何より、千絵はおじさん受けがすごぶるよかった。反対におばさんからは、とかくつらく当たられた。それもあって、おばさん相手のアポはあらかじめ避けて、効率よくおじさん狙いで営業するようになった。
「払う保険料は今のままで、保障内容のいいものに替えませんか」と勧めるのが千絵のいつものパターン。
「1年目は固定給で20万円くらい。2年目からは、歩合もついて30万円を超える月もありました。それはうれしかったけど、なんでしょうね、たくさん契約を取りたいとかお金が欲しいとかは思わなくて。それより、私まだ20なのに何やってんだろう。もっと遊びたい。正直そう思うことのほうが多かったかな。私は短大卒業してすぐ就職したけれど、同級生の多くはまだそのとき、大学3・4年生。バイトで青春したり、遊んだりしてたときでした。」
「私も仲間と一緒にいたくて、仕事後に合流して一緒に飲みに行って、オールして翌朝そのまま会社に行ったり、″がんばって″遊んでました。そうすると、昼間の営業中に眠気が襲ってくるんです。そんなときは、1人になって山手線一周しながらウトウト……(笑)。休日を仲間に合わせて、いっしょにダイビングやゴルフ旅行にも″がんばって″行きました。どれも、仲間が仲間を呼んで、だいたい男女半々にして。婚活って意識は、あんまりないです。女の子のぶんもお金を出してくれる、年上の男性が多かったから、私の恋愛対象ではないので(笑)。お相手は経営者やエリート系ビジネスマン、既婚者も多かったですからね」
そうした遊び上手な大人のことを、千絵は役割別に「ゴルフおじさん」「ごはんおじさん」と心の中で呼んでいた。おじさんといっても、みんな30代後半くらいの若き成功者で、でもギラギラ感は少なめだった。セクハラっぽいセリフや強要はゼロで、とてもスマートに、食事もゴルフも一緒に楽しめる、居心地のいい相手だ。
だから会社を辞めようと決めたのは、「もっとこうして遊んでいたい」が大きな理由。あともうひとつ、千絵が入社2年目になって、上司から「そろそろひとりで営業に行っても大丈夫なんじゃないか」と言われたこと。
「いやいや、勘弁して。なんか、この流れ、仕事がんばる方向にいきそうな。そんなつもりないんですけど、私」
>次回「頼りになるのは『ゴルフおじさん』」へ続く
「CanCam」や「AneCan」、「Oggi」「cafeglobe」など、数々の女性誌やライフスタイル媒体、単行本などを手がけるエディター&ライター。20数年にわたり年間100人以上の女性と実際に会い、きめ細やかな取材を重ねてきた彼女が今注目しているのが、「ゆとり世代以上、ぎりぎりミレニアル世代の女性たち」。そんな彼女たちの生き方・価値観にフォーカスしたルポルタージュ。