俳優デビューして10年。これまで100作近くの舞台作品に出演している、植田圭輔(うえだ・けいすけ)さん。
小柄な体格、愛らしく中性的な顔立ち。そんな容姿だけで「こんな人だろう」とイメージして彼を見ると、確実にひとつふたつ驚かされることがあるはず。意外と声は低く、おっとりしているようでよく動き、アドリブが必要とされる場面では誰よりも機転が利く、という印象。もちろん経験値が高いからこそという部分もあるけれど、舞台上での安定感も彼の魅力のひとつ。
知れば知るほど、ギャップが見つかる人。でも「今まで意外と思われていたことも最近はポピュラーになりつつあるんですよね(笑)」と植田さん。そして、「よく毒舌だとかオヤジっぽいとか言われるんですけど、お芝居以外では飾れない人間なんです」とも。
そんな植田さんが“植田圭輔史上最高の写真たち”と語るフォトブック『月刊 植田圭輔×小林裕和』をリリース。「芝居以外では飾れない」という彼が、「お芝居を切り取ったような写真にしたい」と考え、一冊にまとめたこのフォトブック発売を記念して、植田圭輔さんを直撃。彼が「今」、胸に秘める想いに迫ります。
■『月刊 植田圭輔×小林裕和』制作秘話。一発勝負に緊張も
『月刊 植田圭輔×小林裕和』は、プロデュースも手掛ける写真家・小林裕和さんによる、新世代の俳優シリーズ第4弾。本シリーズは、俳優自身の新たな可能性に挑戦するというのがコンセプト。
植田さんのテーマは「悲しみ」。
笑顔を封印し、タバコやお酒を片手にブラックのスーツをまとったものに始まり、淡い色合いの和装で水辺に佇んだもの、ペンキを使ったアートワークと、いずれも他ではあまり見せたことのない姿ばかり。
撮影は、タイトなスケジュールで慣行。日が落ちてから東京を出発し、千葉にある海辺で夜中撮影。朝4~5時に終了したその足で、山梨の奥地に向かい、和装で水に浸かり撮影をし、東京へ。ほぼ一日がかり。総移動距離は約500キロに及んだとか。
「楽しい旅ではなかったです(笑)。でも、いいものを作るためには何か背負うものが絶対に必要というか、だからこそ生まれるものがあるんだなと。クルー全員の一体感みたいなものが生まれたのも思い出深いです」(植田さん)
大変だったのは、その山梨での撮影。5月の水温は想像以上に冷たく、「すごくきれいに撮っていただいたんですけど、あの下にはウエットスーツを履いていて、それでも寒かった」と撮影を振り返っていました。
植田さんがお気に入りに挙げたのが、取材当日に着ていた“つなぎ”で撮ったカット。白ホリの壁に一発勝負で、植田さんが自由にペイントして仕上げた傑作。
「真っ白の靴、真っ白のつなぎ、真っ白な壁から始まり、終わってみれば、チーム全員で、その時の表情や瞬間を衣装にも詰め込んだものが表れているんじゃないかなと思います。この衣装での撮影がフォトブックのスタートだったので、“この作品いけるかも”と思った瞬間でもあるので、お気に入りです」(植田さん)
このカットで使用したカラーは、ブルーやブラック。いくつかある中から、何色使うのかも含め、その場で決めたのだとか。
「ここで表現しているのは悲しみから一個抜き出た状態なのか、心が暴走しているモードなのか……それも全部読み手次第。自分からこうと押し付けはしたくないので、失恋してそうなったのか、大切な人を失ってそうなったのか、というのも全部ご想像にお任せしたい」(植田さん)
ブルーとブラックに交じり、赤いペンキでたったひとつだけ記されているのは、植田さんの“心臓”をイメージしたもの。「自分自身を表現した」というアートワークの撮影にかかったのは約2時間。手の届かないところにもジャンプしてペイント。全身を使って仕上げたため、翌日は筋肉痛に襲われたというエピソードも。一発勝負の撮影に、緊張もしていた様子。
「正直、失敗できないという気持ちが強すぎて……でもやってみたら憶することなく、最悪、弁償すればいいかぐらいの気持ちでやってました(笑)。無心というか、自分の感情のままにやっていて、それをいい角度から撮っていただいた」(植田さん)
仕上がった一冊に、植田さんは自信をもって「100点」と自己採点。今後も、「その時代時代で変わっていくと思っていくので、それに敏感でいたいし、その時々の新しいこと、驚かせられることを、意外な盲点から違った形で見せていきたい。新しい作品を作る時も『あの時を超えたな』と思えるぐらいの作品作り、そういう姿勢でやっていけたらと思います」と、貪欲な姿勢を見せていました。
■「稽古が足りないなと思った作品はこれまで一作品もない」
囲み取材のすぐ後、イベントまでの貴重な空き時間で、植田さんに直接話をうかがう機会をいただきました。
連日の過密スケジュールを聞いていたので、つい「疲れていませんか?」という言葉が出てしまったのですが、「不思議なもので大丈夫なんですよね」という返事が。続けて「毎日忙しく過ごしているのでどうやって生きているのか気になって……」と言うと、「“うえちゃんは何人いるの?”とよく言われます(笑)」と笑いながら答えてくれました。そしてこんなことも話してくれました。
「実際、休みは今まったくないですし、プライベートと呼べる時間はごく限られた時間しかないんですけど、『JUNON』のコンテスト(2006年 第19回ジュノン・スーパーボーイ・コンテストのファイナリスト)に出た後、いきなり主演舞台をやらせていただきました。その後、全然俳優の仕事がなくてバイトしかしていなかった時期もあったので、今この状況が嬉しいんです。自分がずっと夢見ていたことですし、それで無理をしてはいけないと思ってはいるんですけど、やっぱり好きなことでご飯を食べているからこそ頑張れる、みたいな感覚です」(植田さん)
ひとつの作品が終わると同時に、すでに始まっている次の稽古へ参加し、ほどなくして本番。それらの合間をぬって、ドラマの撮影、アニメのアフレコなど、とにかく休む間もなく走り続ける植田さん。彼がそこまで頑張る理由は一体どこにあるのでしょうか。
「気づいている人もいるかもしれないですけど、ゲスト出演とか細かいものも合わせると、実は去年のほうが舞台本数は圧倒的に多いんです。去年までは本番と稽古がかぶっていたことも多かったのですが、それだと舞台以外の仕事がなかなかできない。それに、いつかどれかをおろそかにしてしまいそうな自分がいたので、それだけは絶対に嫌だと、去年ふと思ったんです。去年のような生活は続けようと思えばできるけど、そのうちに覚えの悪さだったりとか自分の欠点が絶対に出てくるだろうし、仕事が詰まっていると頭の回転が鈍くなって、普段ならしないミスをすることが怖くて……なぜなら、ミスをしていない自分しか知らないから。先日終わった『ヘタリア』もそうですけど、僕は稽古が足りないなと思った作品はこれまで一作品もないです。後悔したくないし、何より、観に来てくださるみなさんにも申し訳ないので、そうならないために、今年は本数を減らしています。それでも忙しいと思われているみたいですけど(笑)、今の生活のペースは自分でミスなくできる範疇(はんちゅう)なんですよ」(植田さん)
大変な時もあるけれど、「つらいことはまったくない」と真っすぐな目で答える植田さんは続けて、「ただ、応援してくださっている人たちを心配させてしまっているのかもしれないなと思っているんです……」と、少し苦笑い。
■植田圭輔、応援してくれるファンを「すごく誇りに思っている」
今回のフォトブック発売では大阪と東京で計6回のイベントを行い、植田さんは自身のファンと直接向かい合い、言葉を交わすことで、よりファンの存在の大きさを実感し、あらためてファンのパワーを感じたとか。
「今日も結局、集まったみなさんから元気をもらってしまいましたね……。朝早くからあんなにたくさんの人が集まってくださり、僕に直接いろんな言葉をくださって。「この前の舞台観ました」「あの演技、すごく良かったです」「次の舞台楽しみにしています」とか。めちゃくちゃ礼儀正しい方ばかりなんですよ、みなさん。自分のイベントを行うと、その時のスタッフさんから「植田さんのファンは本当にきちんとされてますね」とよく言われるんです。僕自身のことも応援してくれてるけど、僕が演じるキャラクターや作品、そして舞台作品が好きで観に来てくださる方が多いと思うので、そういう方々を裏切りたくないと思っています。だから、今、僕を応援してくださっているみなさんのことをすごく誇りに思っています」(植田さん)
イベントの短い時間で、「自分がずっと芸能生活をやってきたなかで、自分が歩いてきた道は間違ってなかったと思えるぐらいすごく嬉しい瞬間もあったりので、自分は本当に人に恵まれているなと思った」と、ファンとの触れ合いに感謝をする姿も。
■植田圭輔が芸能界入りするきっかけは、姉の“ある一言”
芸能界デビューのきっかけは、2006年に出場した第19回ジュノン・スーパーボーイ・コンテスト。でもこれは二度目のチャレンジ。その前年、「お姉ちゃんが勝手に僕の資料をオーディションに応募した」ことがすべての始まり。
そしてこの“芸能界入りあるある”には、続きが……。
「そのオーディションで僕は、書類審査に通らなかったんです。しかも、お姉ちゃんにバカにされたんですよ。『あんた学校でモテはやされてるけど、たいしたことないなぁ』って。それにムカついて『じゃあ来年自分で送って受かってやるわ!』と出してみたら、それが通って、逆に『どうしよう……』って(笑)」(植田さん)
まさに、売り言葉に買い言葉。「それまでまったく芸能界に興味がなかった」という植田さんが、この世界に足を踏み入れるきっかけになったエピソード。でもこれがなければ、俳優・植田圭輔の誕生はないのも事実。10年前には想像もしていなかった今の生活ですが、「セリフ覚えは圧倒的に早いほう。年々スピードは遅くなっていますけどね(笑)」という彼は、やはり、なるべくして役者になったのだと思わずにいられません。
「今の自分を見て喜んでくれている親とか、小さいころからお世話になっている方々がすごく誇らしそうに僕の話してくれている姿を見ていると……『まだまだ頑張らな。もっとやな』って強く思います」(植田さん)
そんな植田さんは、お姉さんと妹二人の4人兄弟。どこか中性的な雰囲気もあるのはそのせいでしょうか。小さいころの性格は、現在の彼とまったく違っていたようです。
「僕今はけっこう目立ちたがり屋ですけど、小さいころは、すっごく臆病で人見知り! 人の目を見て会話もできないような子だったので、この仕事を始めて、本当に人生が変わりました」(植田さん)