中谷美紀、男性諸君に「女性の恐ろしさを観にきて」【インタビュー前編】

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WI 稽古期間はどれくらいだったのでしょうか?

中谷 『猟銃』に関しては稽古期間が3週間で、1日5時間のお稽古でした。でも、短い稽古時間なのに、雑談に費やす時間が多くって、私自身は不安になってしまったほどなんです(笑)。

WI どれくらい雑談に費やされていたのですか?

中谷 最初にお茶から始まって、1時間ごとにお茶を入れてくださって(笑)。そのお茶の時間に「キャラクターについてどう思うか」と、本当に雑談的にほかのスタッフやプロデューサーに尋ねてみたり……。私は“いつ稽古するんだろう?”と不安になって“そんな暇があるなら稽古をしたい!”と思ってしまったんです。でも、むしろ演出家にとってはその時間が大切だったんだと思います。

WI 本当に日本とは違うんですね。

中谷 不思議ですよね。我々日本人って勤勉でひっちゃきになって働いて「苦労を伴わないと、どこかいいものができない」と思ってしまいますが、海外の方はきちんと土日はお休みになって……。稽古期間が3週間しかなかったので、「土曜日もお稽古してください」と無理やりお願いしました。それでも、週に1回(日曜)は必ず休み、1日たった5時間の稽古でも良質な作品ができるのですね。

WI その5時間にお茶の時間もある(笑)。

中谷 そうです。5時間のうちほどんど稽古していないですけれどね(笑)。そういう仕事の仕方もあるんだな。と思いました。

WI 気になったのですが、出ずっぱりの1時間半にもおよぶセリフをどうやって覚えられたのですか?

中谷 もう必死です。余裕がありませんでした(笑)。

WI 初演はモントリオールがスタートで、初舞台が海外となりました。いかがでしたか?

中谷 モントリオールのお客様には、日本語が分からない分、多少間違えても大丈夫だろうという安心感みたいなものがありました(笑)。それに震災の後だったのでわりと日本人に対する温かい眼差しというのを感じました。それこそ「お客様がひとりも来ないのでは」と思っていました。でも、おかげさまで本当に多くのお客様にご覧いただけて、スタンディングオベーションまでいただけたというのは「温かい気持ちで迎えてくださったのかな」って思います。

WI 私も、モントリオールでも多くの観客の皆さんがお越しくださったと聞きました。

中谷 演出家がモントリオールのご出身なんですね。でも、世界中でオペラや「シルク・ドゥ・ソレイユ」の演出、映像のお仕事をされている方なので、なかなかモントリオールに戻られて演出する時間が無いようなんです。ですから地元の皆さんが、演出家の作品を待ち望んでらして「ようやく帰ってきてくれた!」という思いもあったようです。私も、取材を受けた時に注目度の高い作品だったんだと感じました。

WI その後、日本に凱旋しましたが、日本の観客の皆さんの印象はいかがでしたか?

中谷 やはり、日本のお客様のほうが緊張しました。素晴らしい作品を見慣れたお客様が、私の初舞台をご覧くださるわけですから、本当に緊張しました。初日に緊張しすぎて、一番最初の暗がりの中でマッチに火をつけるというシーンなのに、マッチに火がつかなくって、焦ったらさらに火傷をしてしまって。そうしたら今度は体勢を崩して転びそうになりました(笑)。

WI その時セリフは?

中谷 転びそうになりながらも、セリフを間違えないように必死でした。火がつかなくってもセリフだけは進めないといけないので(笑)。