「日本文化は“かわいい”!」和樂編集長が語る驚きの日本の伝統【編集長インタビュー】

WI 「日本美術」「京都」に並んで、7月号では「かわいい骨董」、12月号では「かわいい日本美術」と、「かわいい」という単語が2度も特集に登場していたのが非常に印象的だったのですが、この「かわいい」というキーワードを2回取り上げた理由はなんでしょうか?

高木 これにはふたつ理由があります。ひとつは『和樂』は「日本文化の入口マガジン」と名乗っていますので、とっつきやすい言葉を使いたいんです。「日本文化」って、とかく「難しく、高尚で、鑑賞するもの」と思われがちですが、そんなことはありません。もっと私たちの身近にあって、ファッションやビューティと同じように、皆さんの生活を彩って、人生を豊かにしてくれる選択肢のひとつになってよいのではないか、と思っています。そしてもうひとつの理由としては、そもそも、日本文化って、「かわいい」そのものなんですよ。

 

WI 「かわいい」そのもの! それってつまり、どういうことなのでしょうか?

高木 日本美術って「もったいぶって鑑賞するもの」とか「侘び寂びの文化」のように思われがちですが、探していくと、平安時代からずっと「かわいい」が続いてきています。たとえば現代では、ギャルのファッションが海外で「かわいい」という言葉で通用していますが、まさにこの「かわいい」は日本文化の代名詞。私は「日本美術の本質は“かわいい”にある」とも思います。12月号で「かわいい日本美術」を特集したときも、「かわいい日本美術を見つけるのに苦労したか」と聞かれたら、まったく苦労していません。

 

WI そうなんですか!?

高木 ええ、もちろん厳選はしましたが、本当にかわいいものがたくさんあったんです。先ほどの「京都」もそう。かわいいものがいっぱいあります。京都の町家に行くと、ちょっとした扉の格子戸とか、入口を入って奥に続く飛び石に生えている苔がかわいいとか……「かわいい京都」という特集を組みたいくらい、いくらでも見つかります。……ちょっと話がそれて恐縮なんですが、最近「日本の伝統」ってなんだろう? ということをすごく考えるんですよ。

 

WI どのように?

高木 「明治以降につくられたもの」を「日本の伝統」と思っている方が多いのでは、という気がしています。『和樂』では、縄文時代や弥生時代から江戸時代くらいのものを「伝統のもの」と考えています。現代で「日本の伝統」と言われているものって、明治時代に国策として作ったものを「伝統」と呼んでいるものがかなり多いんです。たとえば「茶道」もそう。

 

WI え、そうなのですか!?

高木 はい。もちろん茶の湯自体は、室町時代に村田珠光によって「わび茶」が創始され、安土桃山時代に千利休が「わび茶」を完成させ、それ以降ずっと続いてきているものではありますが、侘び寂びのことを「これが日本の伝統文化だ!」と言いだしたのって明治政府なんですよ。「侘び寂び」「武士道」といったものばかりが「日本の伝統文化」と言われていますが、あれは「伝統文化のほんの一部分」。日本の伝統文化はもっとキラキラしていたり、かわいいもたくさんあって、本当に多種多様なんです。私は『和樂』で、彬子女王殿下の記事の担当をしていますが、殿下も「日本文化の本質は多様性にある」とおっしゃっています

 

WI 『和樂』はまさに多様な文化が紹介されているな、と読んでいて感じます。

高木 「かわいい」ものも「侘び寂び」も、とにかくたくさんのものがあるので、その多様な文化の魅力を紹介していきたいと思って雑誌を作っています。「日本文化ってこうじゃなきゃだめだ、これが美しいんだ」ということは、絶対にしたくない。そうじゃなくて、基本的には、これ「も」美しいんだ、というスタンスでありたいんです。いろいろな楽しみ方や入口があっていい。そんな多様性を打ち出していった1年です。

 

WI 私が特にそれを感じたのは、11月号の「仏像」で、そのときの、みうらじゅんさんといとうせいこうさんの「見仏」の記事が、すごく好きでした。これまで「仏像を観る」って、もっと難しいもののように考えていたのですが、そうじゃなくていいんだって……。

高木 ありがとうございます。私個人としても学生時代からずっと仏像めぐりが好きでいろいろめぐっていて、見仏歴は30年くらいになるんですけれども、あのふたりが「見仏」という概念を打ち出してくれるまでは、仏像を観るって「拝観」しかなかったんです。今のように仏像の後ろに回って眺める、という雰囲気もなく、ただただ拝むものだった。それまでは彼女とデートするときに「仏像を観に行こう」と言ったら断られていましたが(笑)、90年代はじめにふたりが出した「見仏記」が大ヒットしてからすごく変わって、デートで行っても大丈夫になりました。ああいった提案は素晴らしいな、と思います。本当に明日着る服を選ぶように、明日観に行く美術館を選んだり、明日体験する日本の伝統文化を選べると、生活がすごく豊かになります。そもそも日本という国は、非常に文化度が高い国なんですよ。

 

 

WI なんとなくヨーロッパなどは文化度が高そうだけど、日本はそんなことはないのでは……と思ってしまいますが、どうなんでしょうか?

高木 ヨーロッパは格差社会なので、実はそういった知的な経験をしている方はごく少数です。でも日本は、たとえばうちの母のような、ごく普通の人でも美術館に行ったり伝統文化を体験しに行ったり……そんな素養があります。それってものすごい国民性。最近話題の「春画展」などはまさにその象徴と言ってもいいかもしれません。

 

WI どういう意味ででしょうか?

高木 日本で春画が流通していた時代、ヨーロッパでではポルノアートはほぼなくて、『裸のマハ』のような裸の絵を、一部の貴族たちがサロン形式で仮面をつけて鑑賞していました。そんな時代に日本では、長屋に住んでいるような普通のおばちゃんが堂々と春画を見ていました。しかも春画って文字が書いてあるんですけれども、あの中には『源氏物語』や、在原業平の『伊勢物語』のパロディがあるんです。それを楽しめる、ということは、それらの古典を江戸時代の普通のおばちゃんが知っている、ということなんですよ。それは、平均的な大衆の文化度としては群を抜いています。本当に昔から日本人は美術館に行くのが好きな人が多いので、もっともっと広げていきたいな、と思います。

 

お話が「2015年の振り返り」から、「日本文化とは何か」ということや「美術の楽しみ」まで行ったところで、次回は「2016年の予想」へ。『和樂』編集長が注目するものとは……いったいなんなのでしょうか? 1月4日の更新をお楽しみに!(後藤香織)

 

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