月に1度やってくる生理は、来ても面倒くさいけれど、来なくても不安になってしまう。生理期間だけでなく、その前にもPMSをはじめとした不調があるなど、私たち女性の心身や生活に大きな影響を与えていますよね。
一方で、長年何度も経験しているにも関わらず、生理にまつわるお悩みへの解決法を実は知らずにやり過ごしている…という方も少なくないはず。そこで今回は「すべての女性のかかりつけ医でありたい」という思いで日々診療に取り組む、産婦人科医の尾西芳子先生に、今改めて知っておきたい生理のキホンについて答えていただきました。
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Q.そもそも、生理って何?
排卵後に、妊娠に備えて分厚くなった、受精卵を受け止めるはずの子宮の内膜が、妊娠しないために不要になり、血液とともに出てくるのが「生理」。
妊娠すると生理が来なくなるのは、子宮内膜が剥がれ落ちずに受精卵を受け止めているからです。
Q.生理前や生理中、肌が荒れやすくなるのはどうして?
生理の2週間前〜1週間前、排卵後に増加する「プロゲステロン」という男性ホルモンに近いホルモンによって、皮脂の分泌が過剰になり、ニキビができやすくなるから。
一方で生理の直前(2〜3日前)には、女性ホルモンの代表格・エストロゲンと、プロゲステロンが急激に減少し、肌の潤いを保ちにくくなり、カサつき、ゴワつきが気になりやすくなります。この時期には「敏感肌用スキンケアを使う」「できるだけ新しいスキンケアやコスメを試さない」などを心がけておきましょう。
また、ピルを飲むとホルモンが一定になるため、この肌荒れが起きにくくなります。
Q.生理前に食欲が止まらなくなる理由はありますか?
こちらも肌荒れ同様「プロゲステロン」のしわざ。このホルモンの影響で、血糖値を下げる「インスリン」というホルモンの効き目が普段より悪くなり、血糖値が急に上がったり下がったりしやすくなります。
そのため…
甘いものを食べると、インスリンの効きが悪いため、急激に血糖値が上昇
→それを下げるためにインスリンが多く出て、今度は急激に血糖値が下がる
→食べたばかりなのに、すぐにおなかが空く・甘いものが食べたくなる
という現象が起きます。
「生理前はイライラするから、甘いものを食べてもいい時期」にしがちですが、できればこの時期は血糖値を上げ下げしない低GI値の食品を摂ることを心がけましょう。「どうしてもお腹が空いて甘いものが食べたい…」というときは、干し芋、ハイカカオチョコレート、市販の大豆バーなど、低GI値のおやつを選んで。特にハイカカオチョコレートは鉄分も多く含まれるため、食べ過ぎには注意しながら、上手に取り入れましょう。
Q.生理前にむくみます。和らげる方法はありますか?
こちらも「プロゲステロン」の影響で、体に水分を溜め込みやすくなるのが理由。塩分の取りすぎに気をつけて、バナナ・ほうれん草・アボカドなど、カリウムを多く含む野菜や果物を積極的に食べましょう。
この「むくみ」は、脚のむくみなどわかりやすい部位だけではありません。脳のむくみは頭痛、腸のむくみは便秘など、見えない部分のむくみがPMSの不調の原因になっています。
そこに腸の動きが悪くなり便秘になりやすくなる現象も加わるため、1〜2kgの体重増加はよくあること。ほとんどの場合生理後に自然に元に戻るため、気にしすぎる必要はありません。
Q.生理前・生理中に食べたほうがいいものはありますか?
生理前はカルシウムとタンパク質。貧血になりがちな生理中は、鉄分と水分を意識的に取りましょう。
以前より「カルシウム」がイライラに効くことは知られてきましたが、最近大豆油などに含まれるγ(ガンマ)-トコフェロールやγ(ガンマ)-トコトリエノールもPMSに有効という研究結果が出ています。
もちろん大豆で摂ることによりタンパク質も一緒に摂取できるのでおすすめですが、サプリでも登場しているので、気になる方はチェックしてみてください。
生理中はやはり定番ですが鉄分です。できれば植物性の「非ヘム鉄」よりも、赤身のお肉やお魚に含まれる「ヘム鉄」がおすすめです。
Q.少しでも早くやせたいです。生理前のダイエットって、どうしたらいいですか?
生理前のカラダは排卵後、妊娠に備えている時期。そのため、食欲が増す、便秘になる、身体に水分を溜め込むなど、どうしても体重は増加しがちです。繰り返しになりますが、月経とともに便や水分が排泄されるため1〜2kgの増加はあまり気にしないで。
もし何かしたいならば、下記の2つは心がけてみてください。
・塩分と糖質を控える
むくみやすい時期なので塩分と、血糖値の上下が激しい時期なので糖分の強いものに気をつけて。
・軽い有酸素運動を
生理前は1駅分の距離を歩くくらいの、20分前後のウォーキングをはじめとした有酸素運動がおすすめ。憂うつになりがちな気持ちも、体重も落ち着きやすくなります。
生理中は貧血になりがちなので、ウォーキング程度の運動はしても構いませんが、無理して運動する必要はありません。
Q.生理痛がひどいです。どこまでが普通で、どこからが病院に行くべきですか?
そもそも「病院に行くかどうか」迷った時点で来てほしい、というのが産婦人科医の本音です。生理痛は「あることが普通」ではありません。
もし1〜2日だけ痛み止めを飲んで治まるようであれば様子見でもOKですが、生理期間中にずっと薬を飲んでいる、学校や仕事を休むなど日常生活に影響が出るのであれば、病院で治療をしたほうが楽になるはずです。
Q.生理周期がまちまちです。生理周期は何で決まっていますか?
周期を作っているのは「排卵」です。排卵がなかったり、遅れたりすると、生理も連鎖します。
排卵がなくなる原因はホルモン異常や体質のほかに、引っ越しや転職など環境の変化も影響しています。もし「ここ2〜3か月だけ生理不順になった」ということであれば、そういった心身へのストレスが原因かもしれません。また、最近でいえば新型コロナウイルスに感染した、ワクチンを打ったなども体にとってはストレスなので、一時的に遅れる現象もあります。これは新型コロナウイルスのみならず、従来のインフルエンザウイルスでも起きうることです。
一時的なストレスによる生理不順は2〜3か月程度でたいてい元に戻る傾向にありますが、3か月以上続くようであればホルモン異常やその他婦人科の疾患の可能性も考えられるため、婦人科を受診しましょう。生理不順だと思っていたら、子宮頚がんの不正出血というケースもあります。
病院へ行くハードルが高いという印象を持たれますが、何か少しでも気になることがあれば、気軽に相談を。
Q.どの婦人科に行くか迷います。どう選べばいいですか?
やはり「話しやすいこと、きちんと相談できること」が大切です。せっかく行っても話を聞いてもらえなかったら残念ですよね。
何か悩んでいることの原因に病気が潜んでいないか調べるために内診することが多いですが、無理にということはないので、医師としっかり相談してみましょう。
婦人科の先生にも、産科が専門、がんのスペシャリストなど、専門分野に特化していて、専門外のことはあまりお受けしていない方もいらっしゃいます。
「日本女性医学学会」という学会の認定医の先生は、婦人科系のホルモンに詳しく、細かい相談にも乗ってくれます。クリニックのwebサイトにも掲載されているはずなので、クチコミも参考にしながら、病院選びをしていきましょう。
Q.「ピル」が気になります。結局どういう薬ですか?
ピルは排卵を止め、子宮の中の膜(内膜)が薄くなる薬です。
避妊や生理痛の緩和が主な効果ですが、生理前・中に私たちの体に影響を与えるホルモンを低いレベルで一定にしてくれることにより、肌荒れが起きにくくなる、PMSによるイライラをある程度抑えてくれるなどのはたらきもあります。
「生理痛がひどいので、ピルを飲むか迷っている…」という方で、「痛み止めが効かない」「寝込んでしまう」という方は、飲むことをおすすめします。症状を抑えられるのはもちろんですが、ひどい生理痛にはベースに子宮内膜症などの病気が潜んでいる場合があり、その進行を抑えることができます。
ただし、ピルはホルモン剤のため、リスクがゼロではありません。前兆のある偏頭痛をお持ちの方は飲めないなどの制約もあるため、一度診療を受けてみてください。
痛みはそこまででもないけれど、PMSやイライラに悩まされているという場合は、一度サプリメントや漢方薬などの手段で緩和できないか試してみるのは手です。
皆さんの疑問は解決できましたか? もし「やっぱりそれでも自分はどうなのか悩んでしまう…」という場合は、婦人科の受診を検討して。繰り返しになりますが、婦人科は妊娠している人だけが行く場所ではありません。生理を含め、女性のお悩みに寄り添ってくれる私たちの心強い専門家。尾西先生も「お姉さんに相談して! という気持ちで、気軽に来てほしい」と語ります。自分の身体について不安がある方は、気軽に相談してみてくださいね。
産婦人科専門医 尾西芳子先生
日本産科婦人科学会・日本女性医学学会・日本産婦人科乳腺学会
都内産婦人科クリニック院長を経て、都内クリニック勤務
女性のヘルスケアを専門とし、周産期や不妊治療など専門にとらわれずトータルで診察し、日々の女性の悩みに寄り添った診療を行っている。産婦人科医の立場から雑誌・web記事の監修、TVコメンテーター、医療ドラマの監修、デリケートゾーンケア商品の監修、企業向け研修など、多岐に渡り活動。
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