経済思想家・斎藤幸平さんと考える、“継続可能な生活”とは?
今、世界中で注目されている「SDGs」という言葉。これは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の頭文字を合わせたもので、世界193か国が貧困や環境問題の改善を2030年までに達成するために掲げた17の目標のこと。去年からスタートした連載では、CanCamモデルのトラちゃんことトラウデン直美が「SDGs」について読者の皆さんと考える機会を作っています!
今回は、環境問題にも詳しい経済思想家の斎藤先生とのトーク。サステイナブルな社会を実現するために、何を変えるべきなのか、必要なことは何なのかをじっくり考えました!
「SDGs」をブームにしちゃうのはよくないかも…
トラ 1年ほど前、とあるエシカル講座でお聞きした先生の環境問題と社会のお話がとても興味深くて、ぜひ連載にお招きしたいと思っていました。それが叶って、本当にうれしいです。
斎藤 最近トラウデンさんの活躍をよく拝見していますよ。
トラ ありがとうございます。「SDGs」という言葉が浸透してきて、活動に注目してくださる方が増えてきたんです。それはとってもうれしいことなんですが…。
斎藤 悩んでいるんですか?
トラ 最近「SDGs」が流行みたいになってしまい、本来の意味を失ってしまっている気がするんです。
斎藤 資本主義の中で「SDGs」がブランド化され、金儲けの手段になっていっているケースは少なくありませんからね…。消費者側も「SDGs」に関連ある商品やサービスを買うことで「自分はいいことをしている」と安易に考え、そこで思考停止してしまいがち。「SDGs」のおかげで環境問題に興味を持つ人が増えたのは喜ばしいことですが、継続可能な社会にはほど遠いですし、このままではいけないと感じています。
トラ 私もまさにそう思っていました。だからこそ、今までの発信には意味があったのかな…と考え込んでしまうんです。
斎藤 僕も同じように悩むことあるなぁ。正直、個人でできるような努力くらいでは、気候変動は止められないから。
私たちの生活は、環境問題と密接につながっている!
斎藤 地球環境を破壊している大量生産・大量消費の世の中を変えるには、企業や政府が大きく変化しないといけないんです。システムチェンジには、みんながアクションを起こすことが重要なのですが、「じゃあ個人では何ができるか」と問われると小さな一歩の話をするしかなくなってしまうんですよね。
トラ 消費を投票ととらえエシカルな企業のものを買うっていう方法なら、小さな一歩でも世の中を動かす可能性があると思うんです。でも、環境に配慮されている商品って値段が張るので、誰しもが気軽に買えるものじゃないなって。「消費を変えよう!」って声高に言うと、生活が苦しい人にばかり負担をかけちゃうんじゃないかっていう心配もあります。
斎藤 労働者の賃金が低すぎることと環境問題は根本でつながっています。両者を断絶せず、どちらも乗り越えられる方法を考えるのが大事。例えば、嗜好品に課税して消費を減らしつつ、最高所得税率を上げて、生活が大変な人にお金を回す仕組みを作る。そうやって、たくさん働いてたくさん消費する社会から、働きすぎたり消費しすぎたりすることに価値のない社会にしていけば、もっと平等で環境に優しい持続可能な生活を実現できるはずなんです。
トラ もしかしたら、私たちはお金=幸せって思わされすぎているのかもしれませんね。最近時間を作って、畑で野菜作りをしているんですけど、その時間が幸せで。大変だしお金が儲かるわけじゃないけど、心がとっても満たされるんです。
斎藤 今の世の中は余裕がないよね。物はあるけれど、感性的には非常に貧しい。時間と暇があり、感性が豊かであることが本当の贅沢だと私は思います。
トラ 斎藤先生は週休3日制を提案していらっしゃいますよね! 私もそれはとってもいい考えだなって思ってます。
斎藤 今の社会の在り方は、人の時間を奪いすぎていると思いませんか? 労働のあり方を変えて余暇を増やしていくことは、消費サイクルを手っ取り早く止める方法でもありますし、豊かな人生を取り戻すチャンスになるはず!
トラ コロナ禍で働き方が変わってきたのは、継続可能な生活にシフトしてゆくいいきっかけになるかもしれないですね。
斎藤 そうなってくれることを期待しています。トラウデンさん含め、Z世代と呼ばれる若い人たちには環境問題について意識が高い人たちが増えていて、それもすごく頼もしい。ただ、気候変動は確実に始まっていて、今の対策スピードでは間に合わないんじゃないかという不安もぬぐえません。
トラ 私もそれを危惧してます。環境問題に関していえば、私たち日本人は地球に多くの負担をかけてきた側。もっと真剣に考えないといけないと思うんだけどな…。
斎藤 環境破壊をしてきた側が問題に取り組もうとすると、反省に向き合わなくてはならず、必ず痛みが伴います。それがみんなの思考を妨げてしまうんだろうな。でも目を背けず関心を持ってほしい。
トラ 思ったことがあったら、SNSで発信したり、周りの人と語り合ったりもしてほしいです。
斎藤 対話は大切ですね。難しい問題だからこそ、みんなで知恵を絞る必要があるし、誰しも間違う可能性があるから、語り合っていかないといけない。
トラ 話し合うためにも、私たちには暇が必要ですね!
斎藤 そうそう、対話には時間がかかりますから。時間ができれば、対話が起こり、気候変動や労働問題の解決策を練ることもできるかも。そもそも、答えのある問題ばかりではありません。話し合うべきは自分たちがこれからどのような生活をしていきたいかということなんです。お金儲け優先の競争型社会か、地球のためにスローダウンした脱成長社会か。どうしていくかはみんなで話し合うべきです。
“作ること”で、価値観をアップデートできるはず
斎藤 他にすべきだなと感じているのは、もっと“作ること”を日々に取り入れることですね。今の世の中は分業が進みすぎて、作る苦労を想像しづらくなっているので。
トラ 私、野菜作りを始めてから「こんなに手間がかかるんだ」って知って、食べ物をより大事にしようって気持ちが芽生えました。他にも醤油づくりや染色など、色んなことにトライしたんですけど、そうするとお店に売っているものが安すぎるように感じてきて、生産者にもっと還元しないといけないんじゃないかと思うようになりました。
斎藤 スーパーの野菜なんか、驚くほど安いのに形もそろっていて、怖いくらいですよね。作るという経験からみんなの想像力と知識が深まり、“遠くにいる生産者”のことを思いやれたら、世界中の人の生活が自然とエシカルになっていく気がします。
トラ “作ること”って大切なんですね。斎藤先生とお話しして、モヤモヤが晴れてきました。これからも作ったり発信したりしながら、色んな人と対話し続けたいです!
「持続可能な未来を創るために覚えておきたい3つのこと」
①自分の幸せについてじっくり考える
今の生活を続けることは、環境破壊につながるだけでなく、一部の富裕層以外の人々にばかり負担がかかってしまうということ。「そんな生活って変だよね。そして環境や人を痛めつけて手に入れたもので本当に幸せになれるのかな? 今一度考えなきゃ」(トラ)
②物がどのように作られるかに思いをはせる
「“作ること”を知ると生産者への敬意が生まれるはず。そうやって価値を変えることに、エシカルシフトへのヒントがある気がします」(斎藤先生)。身の回りにあるものがどんなふうに作られているのか調べ、作れそうなものがあったらトライしてみましょう。
③発信することと対話することを大切に
継続可能な未来を作っていくためには、多くの人の理解や知恵が必要不可欠。「国境を越えて、意見を交わしていけたらいいよね。若い私たちのパワーも必要だし、上の世代の人のノウハウも絶対役に立つはず。世代を超えて、連帯していけたらいいな」(トラ)
考える時間を作ることが、よりよい生活を生み出すはず
エシカルな生活って時間がないとできないし、余暇がないとインプットが減ってしまって、技術革新も生まれない気がする! タイムイズマネーなんて言葉があるけれど、これからの時代は“お金より時間のほうが大事”って時代になるのかも。みんなももっと、時間を大事にしてみてね。(トラ)
目指せ「SDGs」!トラちゃんの今月の一歩
■今月の1冊は…『人新世の「資本論」』
環境問題をマルクス主義の視点から読み解いたヒット作。人類の経済活動が地球を破壊する時代「人新世」に生きる私たちの必読書です。
■ノンミートでも美味なハンバーガーを発見!
最近食べたヴィーガンベーグルバーガーが私の中で大ヒット。プラントベースのパティが驚くほど美味しくて、野菜もたっぷり。見つけたらみんなにも食べてみてほしいな♪
■心と体で自然を感じられる野菜畑に夢中です!
月に何度も通う野菜畑。夏はオクラやピーマン、ナスなど美味しい野菜がたくさんとれました♡ 苗につく花もかわいいし、自然を感じながらゆっくり畑作業しています♪
SDGsを一過性のもので終わらせないためにも、“これからも続けていける”土台づくりが必要なんですね。トラちゃんと一緒に、もっとSDGsについて考えてみたい! という方は、ぜひ雑誌CanCamで連載中の「私たちとSDGs」をチェックしてみてくださいね♪
身近に、わかりやすく。SDGsをもっと知る!>
撮影/田形千絋(トラちゃん分)、Young Ju Kim(斎藤さん分) スタイリスト/川瀬英里奈 ヘア&メイク/福岡玲衣氏(TRON) モデル/トラウデン直美(本誌専属) 構成/衛藤理絵
♦この特集で使用した商品はすべて、税込み価格です。