トラちゃんと考える「SDGs」RETURNS!
『SDGs』の目標達成に向かって、元CanCamモデル・トラウデン直美が気になる問題に迫るこの連載。今回は〝世界の持続可能性〟のカギを握るアメリカの今をクローズアップ! 日本への影響も学びました。
中林美恵子さん/政治学者。米国上院予算委員会で日本人初の公務員として約10年間勤務。帰国後は衆議院議員を務め、2017年より現職。グローバルビジネス学会会長やTOPPANホールディングス取締役など、多方面で活躍。新刊『混乱のアメリカと日本の未来』(マイナビ出版¥1,199)では、アメリカの分断と混乱を、内情から外交まで様々な実例を基にわかりやすく解説。大統領選後の世界情勢や、日本が進むべき道を丁寧に分析している。
2025年、アメリカが変わる!そのとき日本は?
トランプ時代、再び! 〝ざわつく世界〟の背景
2025年1月、アメリカのトランプ氏が再当選で大統領に就任し、国際情勢がさらに注目されています。私たちの日常にどんな影響を及ぼすのか、エネルギーや安全保障への対策、移民問題など日本の未来にも深く関わるテーマです。アメリカ社会を見続けてきた中林美恵子先生に現地の混乱や変化の本質をうかがいながら、今後の世界の見方を教えていただきました!
トラ 1月20日はアメリカの大統領就任式。前回のトランプ氏当選時は世界中が驚きましたが、今回は想定内の印象です。現地の人々の納得感はいかがでしょうか?
中林 結果はトランプ氏圧勝でしたが、国内の反応は複雑でまったく受け入れられずにいる人もいます。国防総省で働く友人からはトランプ勝利宣言の直後に「少なくとも任期中の4年はアメリカで働きたくない」と退職を決意したメールが来ました。彼女は日本で博士号を取る計画を真剣に相談してきたほど。他には、支持政党が異なる夫婦の夫に政権入りの誘いがあったら離婚話になったり。
トラ 選挙が人生にまで影響するとは!
中林 特に女性やマイノリティの間では、トランプ政権の価値観が合わないと感じる人が多いです。一方で彼を支持する層は、現状を変えてくれる強いリーダーだと期待しています。
トラ トランプ氏は好き嫌いが分かれるイメージ。共和党内でも賛否はありそうです。
中林 反対派は25%ほど、多くは自分たちの時代が来たと歓迎しています。日本と異なるのは、外務省や財務省のような行政を担う国家公務員も、共和党と民主党に分かれて仕事をしている点。各省庁はトランプ大統領が指名した閣僚が率い、公務員の上層部も共和党になります。大統領の考え方で経済政策やエネルギー政策などの方向がガラッと変わるため、大統領が代わるたびに多くの人が仕事や住居を変え、引っ越し業界や不動産業界が活況になるのもアメリカならではの光景ですね。
トラ 中林先生も、アメリカの連邦議会上院予算委員会で10年間勤務されていたとか。
中林 はい、まさに国家公務員として共和党側でした。選挙前後の視察で複数回渡米した際に、かつての同僚に話を聞くと「トランプは一見クレイジーだけど、実情をよくわかった上でバランスを見ながら選択をしている」と。自分の生命線である経済を任せる閣僚は、実績や経験のある人を連れてきている。中国との関係や関税引き上げについても、最後はバランスをとるだろう、と見ていました。
トランプ大統領をめぐる気になるトピック
TOPIC/01 輸入品に関税10%以上?
財源の確保と国内製造業の活性化を目指して関税引き上げを提唱。ただし、貿易摩擦や原料調達コスト増による製品価格の上昇というデメリットも。日本の輸出産業にも影響大!
TOPIC/02 不法移民1,100万人を強制送還?
米国内に推定約1,100万人いる不法移民に対し、史上最大規模の強制送還を計画。国家非常事態宣言の発令や軍の投入も検討されているものの、実行には法的・財政的な課題が多い。
TOPIC/03 ウクライナ侵攻を就任後24時間で終結?
具体的な方法は明かされていないが、迅速な停戦を目指す考えを表明。一方、ウクライナの主権や領土保全が揺らぐ可能性が指摘され、欧州では強引な仲介への不安が広がっている。
行政や司法、情報に対する信頼が揺らいでいる。何を信じるか判断が難しい時代
トラ 今回は民主党支持層の中にも、共和党のトランプ氏に投票した人がいるとか。その背景にはどのような事情があるのでしょうか?
中林 生活費の高騰や賃金の停滞といった日常の不満が大きな要因です。トランプ氏は、経済を停滞させる規制や非効率な官僚制度、さらにはCIAやFBIといった治安を守る機関にも批判の矛先を向けてきました。現状維持では何も変わらないと感じる人々が彼の大胆な行動を支持する一方で、国内の分断は一層深まっています。
トラ 反エリート主義の拡大という話も耳にします。
中林 エリート層が築いてきた既存の社会秩序や行きすぎたリベラル政策への不信感が募り、大統領選挙で爆発した形です。民主党基盤のヒスパニックや黒人、白人女性の一部もトランプ氏支持にシフト。ハリス氏がバイデン前大統領の政策維持を掲げれば掲げるほど、勝ち目が薄くなりました。選挙後、バイデン氏は脱税や銃の不法所持で罪に問われた息子に恩赦を与え、さらなる反発を招くことに。ただ、トランプ氏も議会襲撃事件の受刑者を恩赦するとしています。
トラ 司法や行政に対する信頼が揺らぎますし、情報も何を信じていいかわからなくて判断が難しい…という事態になりそうですね。
中林 実際、ある州では「私は陰謀論者」と堂々と名乗る熱心なトランプ支持者にも出会いました。部外者から見れば加工とわかる画像を信じ、ネットで広がる真偽不明の説も真剣に受け入れている。テレビは自分の思想に合う局のみ受信…と、情報の分断が認知の分断をもたらしていると感じましたね。
トラ 自由な主張がアメリカらしさとは感じつつ、こういった支持層の声に政権が左右される心配も?
中林 司法やFBIといった主要機関に特定の思想が入り込むと、国際的な信頼が揺らぎ、他国との情報共有が滞るリスクもあります。これまで「分断」という視点でアメリカを眺めてきた日本も、今や「混乱」の中にあるアメリカに巻き込まれざるを得ない段階ですね。
トラ 本当に他人事ではなく、自分たちに関わる問題に…。アメリカのサステナビリティへの姿勢も変化する中、日本への影響が気になります。
中林 日本は欧州寄りのスタンスで、SDGsの浸透度は世界トップクラス。でも、アメリカ「自国第一」の保護主義によって、他の国の安定や全体最適への配慮が薄れる可能性も。一方でウクライナ戦争においては、「早期終結」を優先する姿勢が注目されています。
トラ これ以上の命が失われないという期待と、終わらせ方次第では〝武力による現状変更〟を容認する形にならないかという不安も感じます。
中林 まさに、この動向が中国の台湾侵攻への抑止、日本の安全保障にも関わると言われています。
トラ エネルギー政策の分野ではいかがでしょう?
中林 トランプ氏は「掘って、掘って、掘りまくれ」と、化石燃料を重視しています。日本は天然ガスの輸入など短期的な柔軟性を確保しつつ、長期的には再生可能エネルギーを活用したいところ。アメリカが内向きになれば、日本が国際社会での役割を強化するチャンスです。
トラ アメリカが開発を停滞させる分野があるなら、日本が積極的にトップランナーを目指すこともできそう!
中林 そのとおりで、外部情勢によって平和や環境、人権に対する価値観の軸をブレさせないことが重要。これから、少なくとも4年間はトランプ政権となりますが、その期間の短期戦略を練ると同時に、成果のある施策は長期的に続けていく。政府も企業もこの視点を共有し、取り組むことが求められます。
トラ 日本が安定していること自体が、国際的な強みになるんですね。世界を見渡すと、社会が不安定になる一因として昨今は移民問題が大きいように見えます。私のルーツであるドイツをはじめ、ヨーロッパでも顕在化してきているようで。
中林 イギリスのEU離脱も、移民問題が発端。人々の不満が移民に向けられるケースは多いです。
トラ 日本の場合、技能実習生や特定技能の資格という形で外国人を受け入れて、「移民」という言葉を使わずに緩やかに進めている印象があります。
中林 バイデン政権下では、日によって何万人もの移民が国境を越え、支援を受けていました。これが財政や社会への大きな負担となり、不法移民の強制送還や受け入れ条件の見直しが計画されています。島国である日本は状況が異なりますが、いずれ移民政策についての本格的な議論は避けられないでしょう。アメリカの選択が吉と出るか否か、日本を含む他国のモデルケースとなるはずです。
トラ これまでの社会秩序が変化する中、情報を選ぶ力がますます重要になりそうです。何を信じ、どう行動するかは自分自身の課題でもあると感じます。
中林 国内外のマスメディアで見方が異なることも。SNSは即時性がある反面、裏付けに乏しく同質の主張に偏りやすいというリスクもありますね。
トラ はい。発信者や情報源をしっかり確認し、賛否両面の意見を知ることで、目の前の変化を落ち着いて捉えていきたいと思います。
対談を終えて…トラ’s MEMO
■数年単位で変わる情勢に振り回されずにいいことは継続していく
■自分の嗜好に合う情報源だけでなく、賛否両論に触れて中立の目を養う
今月のトラの気づき:アメリカの変化に右往左往するより、独自の強みを育てたい
アメリカでは政治が生活と密接に結びついていて、環境や人権問題の改善が進む一方で、新たな課題が浮き彫りになる現実を実感。また、保護主義で後回しにされがちな気候変動対策の分野では、アメリカで活躍の場を失う人材を迎え入れることで、日本が力を発揮できる産業が生まれる可能性もありそうです!
目指せSDGs! トラの一歩
■戦争に翻弄された作家林芙美子の半生を鑑賞
■現代に継承される技に触れた『正倉院展』
最近は文化的な余白時間が多く、満たされています! 特に、『太鼓たたいて笛ふいて』という舞台に心揺さぶられて2度も劇場へ。〝戦争と作家〟という題材に、言葉を扱う仕事をする身として考えさせられました。母と訪れた奈良の『正倉院展』では、1300年の時を超えて受け継がれる伝統工芸技術を通し、人々の幸福につながる知恵に触れた気がします。
今月のSDGsブランド「Allbirds」
2016年、サンフランシスコで誕生。創業者は元サッカー選手とバイオテクノロジーの専門家。メリノウールに着目し、快適性とシンプルなデザインを追求したシューズ「ウールランナー」を開発。サトウキビやユーカリなどの天然素材を活用し、調達時も環境や動物への配慮を徹底している。