うなぎ屋さんの店先を通ると、甘いタレの焼ける香ばしい蒲焼きの匂いが、食欲をかき立てます。まさに日本人の魂に訴えかけてくる食べ物。年中食べられるものですが、「うなぎの蒲焼き」といえば夏の風物詩的存在でもありますね。
江戸時代前期の元禄年間にできたとされるうなぎの蒲焼きは、以来、およそ300年もの間、変わらない作り方で料理されています。
うなぎをさばいて串に刺し、炭火で焼きながらひっくり返し、タレをつけてさらに焼く。シンプルな工程ですが、老舗で食べれば、歴史ある座敷の雰囲気も相まってちょっとした旅気分。そんな東京の老舗5軒をご紹介します。
■重箱
こちらのお店では蒲焼きを入れる箱を「重箱」と呼んでいるそう。志賀直哉、谷崎潤一郎、安井曾太郎、梅原龍三郎、武者小路実篤ら、文化人がうなぎを楽しみながら語り合った一夜をしのばせる寄せ書きも飾られています。
『重箱』では、強い炭(備長炭を多く使い800度ぐらいの高温にすること)で、最初に生のうなぎを5分焼きます。その後は、せいろで蒸してからタレをつけて焼く。タレづけは3回。しょう油とみりんだけで作る江戸前のタレは、すっきりとした味わいです。
(住所)東京都港区赤坂2-17-61/(電話)03・3583・1319/(営業時間)11:30~14:30、17:30~21:30/(休日)日曜・祝日/昼コース¥13,000、夜コース¥17,000(予約がのぞましい) http://www.jubako.jp
■竹葉亭本店
戦前は東京に10数軒支店があったという竹葉亭。歌人・斎藤茂吉さんが息子さんのお見合いをしたのはこのお店。その際、後に息子さんの妻となった美智子さんがうなぎを残したのを見て、「食べないなら自分が食べる」と2人前食べたというエピソードが残っています。こちらのうなぎは、煙をつけすぎないよう気をつけている繊細な仕上がり。タレも甘すぎず辛すぎない品のよいお味。
(住所)東京都中央区銀座8-14-7/(電話)03・3542・0789/(営業時間)11:30~14:30、16:30~20:00[L.O.]/(休日)日曜・祝日/昼座敷席コース¥7,500~、夜座敷席コース¥11,000~、鰻丼¥2,400~、鰻白焼¥2,000、鰻蒲焼¥2,500~、鰻寿司¥2,400(要予約)
■明神下神田川本店
こちらの特徴は、しょう油とみりんが同割りの辛口仕上げの“きりり”としたタレ。そして、蒲焼きも白焼きも串を打ったまま出されます。理由は「職人の意地。焼き上がりがきれいになるように串を打つのは難しい。これだけの仕事をしていますよ、と見せているんです」とは、ご主人の神田茂さん。食べる側も、背筋が伸びるお話ですね。
(住所)東京都千代田区外神田2-5-11/(電話)03・3251・5031/(営業時間)11:30~13:30、17:00~19:30[最終入店]/(休日)日曜・祝日・第2土曜/蒲焼¥4,000、白焼き¥2,900
■野田岩
養殖のうなぎが主流の現在、『野田岩』では各地の養鰻池から、店の厳しい目にかなった上質なものを仕入れています。こちらの特徴は、「蒸し」の工程。焼いた後、蒸籠で1時間30分ほども蒸したうなぎはふわふわに。これを落とさないように焼くのが職人さんの技の見せどころ。なんとパリにも支店あり。この味は世界にも通用していると言えますね。
(住所)東京都港区東麻布1-5-4/(電話)03・3583・7852/(営業時間)11:00~13:30、17:00~20:00[最終入店]/(休日)日曜・7-8月の土曜の丑の日/鰻重¥2,200~、蒲焼¥4,800~、志ら焼¥2,800(すべて税込) ※真空パックの配送も可能。 http://www.nodaiwa.co.jp/index2.html
■つきじ宮川本廛
うな丼のふたを開けると、つやつやした蒲焼きが姿を現します。ご飯にかけるタレは別に作っていて、後味をすっきりさせるために少々辛目に仕上げているそう。そして、丼のほうが安く見られることもありますが、こちらのうな丼は、うな重と同じ値段。食べる側の好みで、重か丼かを選べるそう。
(住所)東京都中央区築地1-4-6/(電話)03・3541・1292/(営業時間)平日11:30~14:00、17:00~20:30[L.O.]、日曜・祝日11:30~14:00、17:00~20:00[L.O.]/(休日)土曜/うな丼・うな重各¥2,800~、蒲焼き・白焼き各¥3,100~ http://www.unagi-miyagawanorenkai.jp/tsukiji/
鼻先をくすぐる甘く香ばしいあの匂い……夏の訪れとともに、匂いの記憶も呼び起こされるようです。今年の土用の丑の日は7月29日だそうです。この夏は老舗の名店で、うなぎを味わう。そんな土用の丑の日はいかがでしょうか?(さとうのりこ)
※この情報は、2014年6月現在のものです。
(『和楽』2014年7月号)
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