下へ。下へ。いまはもう、それしか考えられない。熱いところに踏みこんで、荒らしてほしい。つぶしてほしい。くずしてほしい。わたしの世界を、こわしてほしい。
つぷ、と性器をあてがわれた。そのまま、ぐっとつよくおしこまれる。肉が裂けてゆくすさまじい痛みに、声も出ない。目の裏がちかちかする。わたしは息をゆっくり吐きながら、熱がなじむのをひたすら待った。
そのとき、体がふわりと浮いた。
土屋くんが、ぎこちない手つきで、わたしを抱きしめていた。うつくしくもなんともないわたしの体を、彼はまるで世界でいちばんこわれやすいもののように、ていねいに扱ってくれていた。
しばらくすると、おなかの圧迫感にも慣れてきた。痛みの輪郭が、徐々にぼやけてゆく。みはからったように、土屋くんがゆるゆると腰をうごかしはじめた。やわらぎはじめた痛みと、ぬるい快感の境目が、徐々にわからなくなる。
突かれるたびに、吐息が洩れた。痛みで凝っていた快感の回路が、強引にひらかれてゆく。土屋くんは、わたしにしがみつくようにして腰を振っていた。ふたつのからだが、ふたつの熱が、まざりあって落ちてゆく。皮下に、地中に、どんどん沈んでゆく。
いま、わたしたちは二匹の龍だった。無人のくらやみで、体液をほとばしらせながら、互いの熱をがむしゃらにむさぼりあう、盲目の生きものだった。
「あっ……」
それまで無言でうごいていた土屋くんが、声を洩らした。
なに、と訊き返す間もなく、とうとつに、性器が引き抜かれる。
ひかりのなかでみたそれは、ちいさな蛇の頭部のようだった。根元はあさぐろいけれど、先の方はピンクいろで、べったりと濡れている。
その先端から、白い液体が宙に飛びだした。ぱ、ぱぱ、と断続的に放たれた飛沫の、大半は砂利の上に落ち、のこりはわたしのおなかにかかった。
「ごめん」
肩で息をしながら、土屋くんが言った。
いつのまにか、辺りはすっかり昏くなっていた。沈んだばかりの太陽が、頭上につらなる枝葉のりんかくを、金色にふちどっている。
土屋くんはすばやく服を身につけると、バッグから几帳面に畳まれたハンカチを取りだした。いつか理科準備室の棚を掃除していたときとおなじ手つきで、淡々とわたしのからだを拭う。急に襲ってきた眠気に耐えながら、わたしは他人事のように、その光景をぼんやりとながめた。
「立てる?」
言われるままに腰をあげて、体の重さにおどろいた。疲労と眠気でもうろうとしたまま、歩きだす。鳥居を出るまで、土屋くんはわたしの荷物を持ってくれた。何度か話しかけられた気がするけれど、眠気のせいでなにも頭に入ってこない。
バス停まで送る、という言葉を断って、彼と別れた。重たい体を引きずって階段をのぼり、ちょうど停車していたバスに乗りこむ。いつもの座席に坐ると、洪水のように眠気がおしよせてきて、あらがう間もなく、のみこまれた。
雛倉さりえ
1995年滋賀生まれ。近畿大学文芸学部卒。
早稲田大学文学研究科在学中。
第11回「女による女のためのR-18文学賞」に16歳の時に応募した『ジェリー・フィッシュ』でデビュー。のちに映画化。
最新作に『ジゼルの叫び』がある。
写真:岩倉しおり
本作はきららに連載されていた『砕けて沈む』の改題です。
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(c)Sarie Hinakura・小学館