乳がんは怖くない!将来のリスクを下げるため、20代からできること
女性にとって身近な病のひとつである、乳がん。日本の乳がん罹患者は年々増え続けており、今では「日本人女性の11人に1人がかかる」と言われています。
乳がんは、がんの中では早期発見がしやすく生存率も高い方です。でも最初から病気にならなくてすむなら、やっぱりそれが一番ですよね。
将来できるだけ乳がんにならないためには、どんなことに気をつけたら良いのでしょうか?
20代、30代から知っておきたい「乳がん対策」について、乳がん治療の第一線で活躍する女性医師、昭和大学病院乳腺外科の明石定子先生に伺いました。
「怖がりすぎないで」乳がんのホントのところ
Q.乳がんにかかりやすい年代は何歳くらいですか?
乳がんの発症率が一番多いのは40〜60代の女性です。20代、30代の患者さんもゼロではありませんが、割合としては非常に少ないです。
ただし最近では「がんは生活習慣病の一種」と言われていて、特定の生活習慣の積み重ねが発症リスクを上げてしまうと考えられています。乳がんの発症リスクを上げないためには、若いうちからハイリスクな習慣を避けることが大切です。
Q.実際の患者さんの多くが悩むことは?
身体にメスを入れることもそうですが、仕事や子育てとの両立について悩まれる方が多いですね。乳がん発症のピーク(40〜60代)はちょうど働き盛りだったり子育ての真っ最中だったりするので、「仕事を辞めなくてはいけないのだろうか」「子供の世話をどうしようか」と悩まれる方が多いです。
でも乳がんの手術にかかる期間は意外と短いので、安心していただきたいなと思っています。
Q.乳がん治療で入院する期間はどれくらいですか?
手術で入院する期間は、短ければ三泊四日ほど。乳房の再建手術(※)を同時に行って一番長くなるケースでも2週間程度です。ですので、乳がんになったからといって慌てて仕事を辞める必要はありません。
※乳房の再建手術……がんを取り除いた後の乳房を元の形に近づけるための手術。
Q.乳がんは生存率が高いというのは本当ですか?
本当です。早期発見であれば9割、乳がん全体でも8割以上は治ります。乳がんという診断を受けるとみなさんやはりショックを受けるのですが、「がん」という言葉の響きにつられて過剰に怯えてしまう必要はありません。
確かに乳がんにかかる人の数は増えていますし、亡くなった方が報道されるとショックです。でもその何倍もの人が治療に成功しています。8割、9割の方が乳がんを乗り越えて元気に生活されていることを忘れないでください。
乳がんを予防することは可能?少しでもリスクを下げる方法は?
Q.乳がんを予防する方法はありますか?
「これをしていれば大丈夫」という完全な予防法は、今のところ存在しません。しいて言うなら、最もリスクを下げるのは出産と授乳です。
日本乳がん学会によると、出産経験のない人の発症リスクは経験のある人の約2.2倍。出産回数が多いほど発症リスクは減少することが分かっています。
初産の年齢も発症リスクと関係していて、基本的には初産年齢が低いほど発症リスクは下がり、35歳以上で初産を迎えた場合は出産経験のない人よりもむしろ発症リスクが上がるというデータもあります。
こうした事実をもとにしたデータから考えると、乳がんの発症リスクを下げるためには若いうちに出産・授乳を経験しておくことが最も効果的と言えるかもしれません。ただもちろん、若いうちに出産を経験したから乳がんにならないということではありませんし、出産経験のない女性や遅めの初産を経験したからといって必ず乳がんになるというわけでもありません。
Q.絶対に確実、という予防法はないのですね。
残念ながら、そうした魔法のような方法はありません。乳がん対策で大事なのは「早期発見に努めること」です。
発症リスクを上げないためのポイントは?
Q.発症リスクを上げないためには、どんなことに気をつけたら良いですか?
「規則正しい生活、バランスの良い食事、適度な運動」の3つです。
この3つは健康の基本ですが、乳がんリスクを避けるためにもやはり大事です。
【1】規則正しい生活について
Q.規則正しい生活とは?
できるだけ決まった時間に寝起きすることと、睡眠や休息を充分とること。夜間勤務をする人は乳がん発症リスクが上がる可能性がある、というデータもあります。
【2】バランスの良い食事について
Q.バランスの良い食事とは?
基本的にはさまざまな栄養素をまんべんなく摂ることが重要です。「主食・主菜・副菜」を意識して、炭水化物、タンパク質、脂質、ビタミン類、ミネラル……といった多彩な栄養素を偏りなく摂取しましょう。ちなみに野菜の摂取は発症を減らす可能性が示唆されています。
Q.和食・洋食・中華など、どんな食事が一番良いのでしょうか?
バランスがとれていれば洋食でも中華でもかまわないのですが、一番おすすめなのは和食です。というのも、かつて欧米に比べて日本に乳がん患者が少なかったのは「和食の生活が良かったのではないか」と言われているためです。洋風の食生活が定着して動物性脂肪をたくさん摂るようになったことは、乳がん増加の要因になっている可能性があります。
Q.リスクを下げてくれる食品はありますか?
「お味噌汁を1日2〜3杯飲む人は、飲まない人に比べると乳がん発症率が低い」というデータがあります。ただし「味噌や大豆イソフラボンが乳がんリスクを下げるのか?」というと、そこまでの裏付けとなるデータはまだありません。
ひょっとすると味噌汁そのものが良いのではなくて、毎食お味噌汁を含めるようなバランスの良い食事をしていることが良いのかも。
「何かを絶対食べない」とか「これを食べれば大丈夫」と極端な思考に走るのではなく、栄養バランスに偏りのない食事を規則正しく摂ることが大事です。
【3】適度な運動について
Q.適度な運動も乳がん対策に必要なのですか?
閉経後の肥満は乳がんリスクを高めてしまうことが分かっています。肥満を防ぐためにはやはり運動習慣が必要です。とはいえ閉経する年齢になってから「よし、運動しよう」と思っても、なかなか難しいですよね。若いうちから身体を動かす習慣を心がけましょう。
Q.具体的にはどのような運動がおすすめですか?
年齢を重ねても続けられるという意味では、今すでに運動不足ぎみの人は日常に組み込める運動から始めると良いかもしれません。たとえば毎日生活のどこかで10〜20分ほど歩く機会をつくるとか、ストレッチや筋トレを習慣にするとか。
「でも平日は車通勤でほとんど歩けない」「忙しくて毎日筋トレはできない」という人は、休日だけでもウォーキングやジョギングをしたり、趣味のスポーツを積極的に行ったりするのがおすすめです。
ただやはり、平日はまったく身体を動かさないというのではなく、夜寝る前にストレッチする、仕事の合間に「ながら筋トレ」をするなど、できる範囲で毎日こまめに身体を動かした方が良いでしょう。
【4】リスクを下げる方法(その他)について
Q.他に、リスクを下げるおすすめの方法は?
飲酒と喫煙を控えましょう。飲酒や喫煙は、量が増えれば増えるほど乳がんの発症リスクを高めます。とくに若いうちからの喫煙は乳がんリスクを大きく上昇させるため注意が必要です。
▶乳がん発症リスクを上げてしまう行動についてはこちらの記事もどうぞ。
★乳がんになりやすい人の特徴・行動は?出産、飲酒、喫煙、遺伝子…リスクを上げる要因と対処法【医師監修】
乳がん対策の結論は?20代、30代からできること
Q.乳がん対策の結論は?
結論としては、「リスクを上げる生活を避け、早期発見に努めましょう」ということです。早期発見のために月1回のセルフチェックを行い、しかるべき頻度で乳がん検診を受けましょう。
▶乳がんのセルフチェックについては…
★乳がんの「しこり」ってどんな感触?正しいセルフチェックの方法とタイミング【医師監修】
▶乳がん検診については…
★「痛い?女性にお願いできる?」女性医師が語る、乳がん検診のホントのところ【医師監修】
Q.最後に、20代30代の女性へメッセージをお願いします。
細胞のがん化というのは突然起こるのではなく、生活の積み重ねの上で起こっていくものです。
20〜30代は生活も食事も無茶しがちな年代ですが、ときには自分の身体のことも思いやってあげてくださいね。いつもパスタばっかり食べてちゃダメよ、と(笑)。乳がんだけが特別怖い病気ではありません。それに結局、身体に良いことをすれば乳がんのリスクも下げられます。
セルフチェックでしこりを見つけても、正体は乳がんではなく線維腺腫(良性のしこり)だったというケースも多いので、必要以上に怖がらないでほしいです。まずは普段のお胸の状態を知っておくつもりで、セルフチェックの習慣をつけるところから始めましょう。
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ご多忙の中、気さくな笑顔と素人にも分かりやすい言葉で取材に応じてくださった明石先生。本当にありがとうございました。
乳がんのリスクを下げるには、「規則正しい生活・バランスの良い食事・適度な運動」を心がけ、月1回のセルフチェックで早期発見に努めること。そして必要と年齢に応じてきちんと検診を受けることが大切です。若いからと油断せず、日々心がけていきましょう!
【乳がんに関する、前回までの記事はコチラ】
★乳がんの「しこり」ってどんな感触?正しいセルフチェックの方法とタイミング【医師監修】
★乳がんになりやすい人の特徴・行動は?出産、飲酒、喫煙、遺伝子…リスクを上げる要因と対処法【医師監修】
★「痛い?女性にお願いできる?」女性医師が語る、乳がん検診のホントのところ【医師監修】
■明石定子(あかしさだこ)先生
昭和大学病院乳腺外科准教授。1965年生まれ。東京大学医学部医学科卒業後、同大学医学部附属病院第三外科に入局。1992年より国立がん研究センター中央病院外科レジデントとしてオペの経験を積み、同乳腺外科がん専門修練医、医員、2010年には乳腺科・腫瘍内科外来病棟医長を務める。2011年より現職に就任。日本外科学会指導医・専門医、日本乳がん学会乳腺専門医・指導医・評議員、検診マンモグラフィ読影認定医師。
■取材協力 日本対がん協会
(取材・文/豊島オリカ)
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