モーニング娘。OGの佐藤優樹さんが、10月22日に1stアルバム「now rise」を発売! 今年の春に東京音楽大学を卒業した佐藤さんが、選曲、作詞作曲、さらに音を仕上げるマスタリングまで、あらゆる制作過程に携わり「存分にやりたいことを詰め込みました」と語る1枚。
発売記念インタビュー後編は、佐藤さん自身が作詞作曲した曲の制作の裏側や、楽曲へのこだわりを聞きました。
▼インタビュー前編はコチラ
―今回のアルバムは、ご自身で作詞作曲をした曲も収録されているとのこと。それぞれ、どんな曲でしょうか?
作詞作曲をした新曲3曲は、『Alright』、『Small Voice』、『reverie』の順に作りました。
まず、私が作った曲は、どんな感情で受け取ってもらっても、どう聴いてもらってもいい、自由に聴いてほしい。それが大前提です。そしてもうひとつ、歌詞への考え方の言葉がまだまとまりきっていない部分があるので、もしかしたら言い方が今後変わるかもしれません。それだけ注意事項なので、赤線引いておいてください(笑)。
―引いておきます。では、今の段階での考え方を教えてください!
説明しやすいところからお話すると…まず『Small Voice』。これは、父が入院して、もしかしたら命に関わるかもしれない、というタイミングがありました。私も妹もすごく泣いて…そのとき、北海道に住んでいた頃のことをたくさん思い出したんですね。父が今までやってきてくれたこと、言い続けてくれてきたこと。ピアノの練習をしないで父を怒らせちゃったこと…いろんなことが走馬灯のように出てきました。そして、もし父がいなくなってしまったとしたら、悲しいけれど、記憶はどんどん薄れてしまう。だから、父との思い出や言葉を、全部記憶できる暗号のようにして、未来の自分に向けて作った曲です。「温もりのない窓」「ネリネの匂い」「何度も言ってくれた」あたりは、特にそうです。歌詞の最後「あなたのあるべき場所」は、父が私にずっと言ってくれていたことを込めています。
―どんなことなのでしょうか?
父からは「もし、父のお葬式とコンサートが重なったら、コンサートに出なさい」と言われるくらい、ずっと「音楽をやり続けなさい」と言われてきました。モーニング娘。に入るきっかけを作ったのも父です。もし、父も母もこの世からいなくなってしまう日が来ても、きっと私は空を見上げながらステージに立っていて「ここが、私のあるべき場所なんだ」と思うんだろうな……という感覚で「あなたのあるべき場所」という歌詞を書きました。
「Small Voice」はまさに「ちっちゃい声」。なんていうか、亡くなった方の言葉が頭の中にふわっと出てくるときって、ちっちゃい声じゃないですか? その意味を込めてこのタイトルにしました。あ、今は父は元気なので大丈夫です、安心してください(笑)。
―ご家族の素敵なお話も、ありがとうございます。
いえいえ! 次にお話しやすいのは、『Alright』ですかね。
この歌詞は、傷ついた感情を「青い花」にたとえています。傷を負った過去、悔しい感情…苦しいことをそのまま土に埋めてしまうのではなく、それを糧にして、その後の人生でお花のように咲かせてほしい、という気持ちを込めて作りました。よく、人は見た目でわかると言われるけれど、その人がどんな人生を歩んできて今があるのか、全部をわかることは難しい。傷を頑張って糧にして花にしたことを、どれだけ話しても伝わらないこともあるし、他人から見たらお花の部分しか見えないかもしれない。「見えない花も空もあるんだよ」や「届かない想いもあるの」という歌詞には、そういう思いを込めています。
―そういった歌詞は、どのようなときに思いつくものなんでしょうか?
ファンの方とお話できるイベントのときに、「今日こんなことがあったよ」「会社で上司にこんなこと言われたよ」「彼氏がこうだったんだ」とか、嬉しいことも悲しいこともいろんなことをお話してきてくださるんです。それを聞いて思ったことや、これも親の話になってしまうんですが、親と幼馴染の親から、小さい頃から「何に対しても『ありがとう』って言おうね」と教わってきたことも大きいですね。何があっても、傷つけられても…たとえば浮気とかされても(笑)、「この経験をくれたことにありがとう。あなたのおかげで私、成長できます」と思いなさいと。「ありがとう『幸せだよ』と」という歌詞は、このどんなときでも感謝を忘れない教えから来ています。
―歌詞と曲はどちらを先に作ることが多いのでしょうか?
曲によって違うんですが、どっちも一斉に出てくることもあります。『Alright』は、まずサビの「青い花を咲かせた君〜」の部分を、コードを弾きながら、歌いながら作りました。でも頭の部分は、先にコードを作って、メロディーを作って、最後に歌詞を乗せています。
『reverie』は、コード進行とメロディーを先に作って、それをずーっとスターバックスで聴きながら、どうやって歌詞をのせていこうか考え続けて、ひたすらスタバで作りました(笑)。
―では、そんな『reverie』はどのような曲でしょうか?
『reverie』は「夢想」という意味。伝えたいメッセージは「右肩の蝶」に少し似ているんですが、「もし今、真っ暗な世界にいたとしても、誰にでも光や可能性があるんだよ」ということを思って作った曲です。
何かを始めたいときに、きっかけが何であろうと、そのきっかけという「光」に向かっていったときに、思いもよらない扉があって、世界が開けるかもしれない。その扉を開くか開かないか決断するのは自分次第。でも、周囲には助けてくれて、手を繋いでくれる人が絶対にいる……。そうすると光はもっと大きくなって、自然と一緒に扉を開けて、それまでの悲しい思いや後悔、自分の嫌な部分も抱き寄せる勇気が出るんだよということを伝えたかったんです。
これは、ソロ活動を始めて、たくさんの人に助けてもらった経験が大きいです。いろんな人の力を借りられているからこそ、私は、たくさんの扉を開けることができています。
最後にもう一曲、『輪』は、過去にバースデーイベントで披露した曲です。好きな曲だったので入れたかったんですが、実は手元からデータが消えてしまっていました。アレンジャーさんが持っていたので、そこから少し音を変えて収録してもらいました。
―日頃、本当にいろんなことを考えていらっしゃるんだなと、興味深いです。
ずっと思考が止まったことがないんですよね、「この人はなんでこういうことを言ったんだろう?」とか、一言一言について考えてみたり…息をするのと同じくらい、何か考えています。モーニング娘。に入ってから強まったかもしれません。家族と一緒にごはんを食べながらおしゃべりしていても、次の日がコンサートのゲネプロだったら、2時間くらいのコンサートを頭の中でずっと流して、1曲めがこれで、2曲めがこうで、場位置はここで…と考えながらお話しているような。
――ちなみに最近は、どんなことを考えていることが多いですか?
次の新曲を出すならこういうことをしてみたいとか、今何人かでまわっているライブのこととか…あとは、過去の自分についてです。過去に戻ることはできないけれど、過去から学ぶことはできるじゃないですか。……めっちゃ当たり前のことを、すごいことしてる感で言ってしまいました(笑)。最近はよく、モーニング娘。時代の映像を卒業してから初めて見て、過去の振り返りをしています。何を思って、どんな景色だったか、その時代に戻った感覚で見て、今の自分に足りないことにたくさん気づくようになりました。足りないものは、やっぱり自信。最終的には、マイケル・ジャクソンのように、5分ただ立っているだけで「キャー!」と言われるような…あれぐらいのオーラを持てる人になりたいです。
―自作曲以外のアルバム新曲についても聞かせてください。
『TO BE CONTINUED!』は、モーニング娘。で言うと『ここにいるぜぇ!』のような、ライブで皆さんと盛り上がれるような曲が欲しい、と選曲。『なんとなくでこなしてちゃ意外とバレるよ』という歌詞が自分にかなり響いて、そこは特にしっかり言葉を置きながら歌っています。『Error!』は、キンキン声になりがちな私が、もっと大人っぽい雰囲気の声で歌えるようになりたいと挑戦の意味も込めて選曲しました。
―『Error!』は、モーニング娘。の同期、石田亜佑美さんとコラボレーションをされているとのこと。依頼したきっかけはなんだったのでしょう?
私はラップがあまり得意なほうではなく、亜佑美が得意だったので…というのもありましたが、単純にいろんな人と一緒にやれたら可能性も増えて楽しいなと思って。その第一弾として、まず頼みやすいところから、「亜佑美、やってみよう♡」とお願いしたら、すぐに引き受けてくれて嬉しかったです。今後も、たなさたん(モーニング娘。OGの田中れいなさん)との新曲が欲しいな、一緒に歌いたいなとか、佳林(Juice=JuiceOGの宮本佳林さん)との曲も作れたらいいなとか、コラボしたい気持ちがたくさんあります。
―作詞作曲、選曲のほかにも、曲を仕上げる工程にも深く関わっているとのこと。
今回は「やりたいです、ディレクターさんのところに行きたいです!」と伝えて、トラックダウンとマスタリングを自分でやらせてもらったんですけど、この2つがこんなにタッグを組んでいて、大切なんだと初めて知りました。特に「右肩の蝶」は一番こだわって、トラックダウンに5〜6時間かけました。深夜2時くらいまで、何も食べずにずーっとやってました…。
―ものすごい集中力です。それぞれ、何をするのか教えてもらえますか?
トラックダウンは、自分の頭の中で、楽器の場位置を決めるようなイメージ。ピアノがここにいてほしい、バイオリンがここにあってほしい、ドラムがここのラインにいてほしい、立体感がほしいからここにシンセサイザーを置いてほしい、と決めていく感じです。私の中に「音がそれぞれこうなっていてほしい」という理想があって、その希望をエンジニアさんに細かくお伝えして調整してもらいます。個別に音を調整できるので、音のバランスをとりながら、普通の音楽プレイヤーで聴くように、左右のチャンネルに落とし込んでいきます。
なんでしょう…じゃあ、ここにペットボトルがあるので、ペットボトルで例えますね。
―お願いします。
トラックダウンは、「紙ペラでぺちゃんこのペットボトルを、理想のきれいな立体にするために、どうやって膨らませて、どう立体感をつけて見せていくか」です。飲み口のところを少し細くしたい。でも、どこかだけが飛び抜けて細く伸びていると変になる。「私はこういう形のペットボトルにしたい」という感じの希望を伝え続けて、調整していきます。「キャップの部分をもう少し下げたいです」と伝えてやってみてもらうと、思ったものと違う形になることもあるので、納得いくまで何パターンも作り続ける感じです。
―マスタリングはどういう工程なのでしょうか?
マスタリングは、全体のボリュームや音質を調整します。ペットボトルでいうと、「じゃあ、ペットボトルの形ができたから、ラベルをどのくらいの大きさにして、文字はここにあるといいよね、イラストはここに置くとわかりやすいよね」というものを考えるイメージです。今回のアルバムは19曲の並びがあって、いろんなことを考えながら調整する必要があるんですけど、自分の頭の中にある理想と、実際の音を一緒にしていくのが、「永遠にやってられる!」ってくらい、超楽しかったです。
エンジニアの皆さんには本当にたくさん、ああでもないこうでもないと調整してもらった結果、やっぱり戻してくださいと失敗したことも何回かありました。でも「失敗して、音がどうなるか気付くのも勉強なんだよ」と言ってもらえて、何度ものびのびと挑戦させてもらえたことが本当に嬉しくて、もっと音楽を知りたくなりました。
ただ、マスタリングに行くと、もうトラックダウンに戻れなくて、ボリュームや音質は調整できても、個々の音量はもう変えられないんです。で、「うわぁ、もうちょっとピアノと声の距離を離せばよかったんだ! バイオリンはこの場所にすればよかったんだ、悔しい!」って、トラックダウンからもう一度やり直してみたい曲も結構あったんですが……きっと永遠にキリがなくて発売できないなと(笑)、そのときの自分ができたベストはこれだと、世に出すことに決めました。
―学びをぎゅっと詰め込んだアルバムなんですね。
本当に、やりたいことを納得いくまでやったと同時に、次回があるならこうしてみたいと思うことがたくさんあったので、本当に勉強になりました! ぜひ、ソロデビューしてからの私が詰まった「now rise」、たくさんの方に聴いていただけたら嬉しいです。それから、生バンドのライブをしてみたいとか、他にもやりたいことはたくさんあります。
―他にやりたいことは、どんなことですか?
竹内さん(※アンジュルムOGの竹内朱莉さん)が、「今までお見送りしてくれてありがとう」と親に車を買った話を聞いて、私も父と母に車を買いたいとか、ちょくちょく親孝行をし始めていきたいです。「音楽を続けなさい」以外にも、父に言われていることを叶えたいなと思うんですが…叶ってから言わないとダサいことなので(笑)、これは叶ったらどこかでお伝えします。
まずは、もっと自分に自信を持って、ひとりで立っていけるよう、頑張ります。もし何か失敗したり、ダメな方向に行ったら「このやり方はダメなんだな」と、違うやり方をするのみです。理想の状態になるまでに、模索できる今が、本当に楽しいです。
終始真剣に楽曲制作について語ってくれつつ、合間で「今、音楽以外で興味を持っているのは、地球上のどこかに、隠れ家を作ること」とお茶目な一面ものぞかせた佐藤さん。
アルバム「now rise」は本日10月22日発売。各種サブスクリプションサービスでも配信しているので、ぜひ聴いてみてくださいね。
▼インタビュー前編
▼アルバムダイジェスト
佐藤優樹 1stアルバム「now rise」
2025年10月22日発売
ソロデビュー以来3年半の集大成。自身で作詞作曲を手がけた曲や、モーニング娘。時代の石田亜佑美さんとのコラボ曲、敬愛する先輩田中れいなさんとカバーした「サマーナイトタウン」はじめ、ポルノグラフィティの誰もが知る名曲「サウダージ」やボーカロイドの人気曲「右肩の蝶」カバーなど、多岐にわたるジャンルの曲を収録。
佐藤優樹
1999年5月7日生まれ、北海道札幌市出身。2011年、約6000人の応募があった「モーニング娘。10期メンバー『元気印』オーディション」に合格し、モーニング娘。加入。2021年12月、同グループを卒業。2023年3月、『Ding Dong /ロマンティックなんてガラじゃない』でソロデビュー。2025年3月、東京音楽大学を卒業。絶対音感を持ち、作詞・作曲をはじめ、楽曲制作も手がける。